気の向くままに♪あきみさ日記

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2007.09.29
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カテゴリ: 風林火山おまけ
※今回の妄想エピソードはフライングです。
 今後のドラマ展開とは無関係の勝手な想像なので、先々のネタバレではありませんが、
 ドラマの本筋を大事にされる方は、読まずにおかれることをお勧めします。。



────────
 永禄二年の初夏、北信の地に足を踏み入れた勘助は、雨飾城の真田幸隆を訪ねた。
 松代の北東、尼巌山の山頂に築かれたこの城は、川中島を一望する天険の要害である。かつて村上残党の東条一族がたてこもっていたのを、三年前の弘治二年に攻略した真田は、そのまま在番を命じられ、越後軍の動きを牽制しつつ、更なる調略の手を北信濃一帯に伸ばしていた。
「お久しゅうござりまする」
 慇懃に挨拶する勘助に、真田は愉快そうな笑い声をたてた。
「息災そうで何よりじゃ、勘助───いや、道鬼殿」

 勘助も思わずつられて笑みながら、頭巾をとって、剃った頭をつるりと撫でた。
「まだどうにも馴れませぬ。何やらここらが涼しゅうて」
「御屋形様が出家なさったからといって、おぬしまで出家せずともよいものを」
「それがしだけではござらん。原美濃守様、小幡山城様も頭を丸めなされた」
「ほう、原殿が…」
 何やら思わせぶりな相槌をうったかと思うと、次の問いに勘助は思わずうろたえた。
「その原殿の娘御を勘助が娶ると聞いておったが。娘御はいかがしたのじゃ」
「…どこで、そんなお話を」
「儂の情報網を甘く見るでない。とうの昔に知っとったわ。祝儀を贈ろうと思って準備しておったのに、出家などしおって。無駄になったではないか」
「それは勿体ないことをいたしました。出家祝いに有難く頂戴いたしまする」
 どうにか気を取り直して言い返した勘助は、真田と目を見合わせて再び笑った。

「実は、ちとお願いしたい儀がございまして」
「では酒でも飲みながら、久々に語り合おう。忍芽らは砥石に置いておるゆえ気のきいたもてなしもできぬが」
 そう言って、真田は控えの者に酒肴の支度を命じた。

 流れ込む夜風に火影が揺れる。初夏とはいえ、日も暮れた山上は肌寒いくらいに涼しい。
「それにしても、真田様は素晴らしいお働きで」

「御屋形様も譜代家臣に優るとも劣らぬ信頼を寄せておられまする」
 真田は盃を舐めながら、真意を探るようなまなざしを勘助に向ける。
 この鋭い眼力は昔から変わらぬ、勘助は思った。いや、御屋形様に忠誠を誓って後、ますます深く強い色を湛えている。だから安心して信濃一帯を任せられる。
「…おぬしのおかげじゃな」
 そのまなざしをふいと膝に落とし、真田はつぶやくようにぽつりと言った。
「いつか、礼を申さねばと思っておった。あのとき、上州に留まっていたなら、今の儂は───真田家は、なかった」
「真田様であれば、立派に武名を轟かせておられましたでしょう。ただし我らの敵として、でござりますが」
 そうなっていたら、今頃は一体情勢はどう変わっていただろう。
「おそらく我らは村上に手こずり信濃をまだ手中にしておりますまい。そして真田様が関東管領とともに越後に落ち延びていれば、長尾景虎のもとで、どれだけ恐ろしい敵になっておられたことか」
「その長尾景虎だが…この春、上洛したそうじゃな」
 世辞を言ったつもりではなかったが、真田はかすかな笑みを唇の端に宿したのみで、話の矛先を変えた。
「この機に越後に侵攻せよと、御屋形様より下知があるやもしれぬと準備しておったが…」
「景虎の留守に攻め入っても、首は取れませぬ」
「やはり、おぬしが止めておったか」
「いえ、滅相もない。御屋形様のご意向でござりまする」
「御屋形様のご意向…か」
 つぶやいた真田の口調に、勘助は運びかけていた盃を思わず止め、いぶかしげに目を上げた。
「何か、気になることでも」
「いや。気になるというほどではない。御屋形様はこの先、いずこへ向かわれるのか…そんなことをふと考えた」
「越後を手に入れたあと…のことでございますか」
「おそらく儂は、上州を攻めることになるであろうの」
 そう言って盃を干した真田から、笑みが消えていた。
「…長野業政殿に弓をひくことを、ためらっておられまするか」
「ずけずけと申すな」
 自ら酒を注ぎながら、真田は低く続ける。
「ためらってなどおらぬ。その覚悟なくして敵に仕官などせぬ。儂が上州を出るとき、長野殿もそう申された」
「……」
「儂はよい。信濃先方衆としてこの地を抑えつつ、東に進むまでじゃ。儂が言いたいのは、おぬしがこの先御屋形様をいずこへ向かわそうとしているのかということじゃ」
「それがしがさような恐れ多い…」
「軍師ではないか。御屋形様の懐に、誰よりも深く飛び込んでおる。当面の敵は越後勢として、その先をどう見据えておるのか。既に種は蒔いておるのであろう」
 勘助は押し黙った。
 四郎勝頼に賭けた己の意思を、真田に見透かされているようだった。
「…何も咎めだてしているわけではないぞ」
 黙ったまま、焼いた川魚をつつく勘助に、真田は苦笑を浮かべる。
「咎めだてされるような覚えもござりませぬ」
「であればよい。───そうじゃ、儂に相談事があったのではなかったか」
 助け舟を出されたようで、内心忸怩たる思いを抱えながら、
「されば。…この付近に、城を構えたいと思っておりまする」
 と、本題を切り出した。
 真田の目が、光った。それが何を意味しているのか、一瞬にして悟ったようだった。
「…八幡原の近辺に、か」
「さよう」
「真田様には、高坂昌信殿とご相談頂き、ふさわしい土地を選定頂きたいのです。いずれ高坂殿がその城の城代となりましょう。御屋形様もそのようにお考えでした」
「高坂殿か。若いながら見事な戦ぶりと聞く。よかろう」
 真田は快諾し、勘助の盃に酒を注いだ。
「おぬしの縄張りを儂もこの目で見たい。…そうじゃ、以前御屋形様が、儂も勘助に城取術を学べと仰せじゃった」
「御屋形様が」
「無論、儂にもいささかの心得はある。が、よりよい知恵があるなら是非とも学びたい。頼む」
 己ひとりの智に凝り固まらない、その柔軟な素直さが真田の強さだろう。そう思いながら盃を舐めた勘助は、続く言葉に不意を衝かれた。
「だから、おぬしには生き残ってもらわねばならぬ」
 長尾景虎との決戦は近い。おそらく次の決戦で雌雄を決することになる。それは凄絶な戦となるだろう。
 武田軍の勝利を勘助は疑ってはいない。そのための城である。
 だが、自身の命となると話は別だった。
「…真田様には、それがしが討死する覚悟と見えまするか」
「おぬしは、おぬしの蒔いた種を見届ける責任がある。そのことさえ忘れねば、それでよい」
 はぐらかすように笑って、
「だから儂は、何としても原殿の娘御をおぬしに娶ってほしかったのじゃ」
「またさような話を。からかうのはおやめくだされ」
「いや、からかっているわけではない。女子の力というものは凄いぞ。守るべき者がおればこそ、必ず生きるという執念も湧くのじゃ。既にこの世におらぬ女に忠義だてしていても仕方あるまい」
 それが昔亡くなった妻のことか、四年前に他界した諏訪御料人を指しているのか判別する余裕もなく、勘助は真田の追求に閉口した。
「それで、その娘御はいかがしたのじゃ。おぬしが出家してしまっては、もう嫁ぐこともできまいに」
「…出家なされてしもうた」
 苦虫を噛み潰すような顔で、勘助はついに答えざるを得なかった。
「儂の返事を待つ間に、とうに娘盛りは過ぎてしまったと、尼に───それがし、原様に合わせる顔がござらぬ」
 しばらく勘助をまじまじとながめていた真田は、やがて、
「女一人の運命を狂わせるとは…勘助、おぬしも罪な男じゃの」
 縮こまった勘助を真顔で非難すると、声をたてて快活に笑った。


 風雲は急を告げる。
 永禄四年八月。長尾景虎改め上杉政虎が大軍を率いて越後を出立したとの報せが、古府の城下に届いた。
 その前年に千曲川を隔てて八幡原を臨む丘陵に海津城が築かれ、城代として入った高坂昌信が狼煙と急使を発したのだった。
 ───その朝、勘助はひとり、小さな寺の仏間に黙然と座していた。
 早朝の白い空気が、狭い仏間を満たしている。
 …やがて近づいたひそやかな足音に、勘助は目を開けた。
「───山本殿」
 高く澄んだ声が、耳をうつ。
 豊かな黒髪を肩の上で切りそろえ、真白な練絹の被衣の下にのぞく顔は、まだ若い。
 出家する以前より変わらぬ明るく快活な笑顔を見せて、リツはうれしげに頬を上気させていた。
「蓮春尼殿…」
 リツが腰をおろすのを待って、勘助はその法名を呼んだ。
「わざわざお呼びたてして、申し訳ござらぬ」
「何を仰います。お呼びと聞いて矢も楯もたまらず、急いで参りました。お目にかかれる機会も滅多にありませんもの」
 直截にものを言う若い娘にこれまで戸惑いっ放しの勘助であったが、ここに至ってその好意が素直に心に流れ込んでくるのは不思議なことであった。
「御出陣、なさるのですね」
「…父君に聞かれましたか」
「今度こそ越後勢と雌雄を決する戦になると、怖い顔で昂奮しておりまする」
 微笑んではいるが、その緊張はリツ自身にも及んでいるのだろう。その瞳に何か思いつめたような光があるのに、勘助はふと膝の間に目を落とした。
 常と変わらぬ小鳥の鳴き声が、表から遠く響いてくる。
「…必ず、お戻りになって下さいまし」
 小さな、しかし強い力をこめた声で、リツは言った。
 すぐには答えず、勘助はやがて懐にそっと右手を差し入れた。
 硬く丸いその触感に、ぐっと握り締める。
「…それがしは、もう六十をとうに越えておりまする。人生五十年とすれば既に老境、いつ討死しても惜しくはないと思っておりました」
「そのようなことは…」
「昔、それがしには妻がござった。父君よりお聞き及びかもしれぬが」
 唐突に話し出した勘助に、リツは身を乗り出すようにして真剣なまなざしを向ける。
「貧しい村の娘で、先代信虎様に殺されてござりまする。以来、それがしは妻を持たぬと誓い申した」
「……」
「そなたが何度も言うておった通り、亡くなった姫様───御料人様をお慕い申しておったのも事実でござる。それがしには生涯、亡くなった妻と御料人様の二人だけが心を寄せた女子じゃと思うておった」
 言葉を止めて、勘助は右の掌におさめたそれを、己にも説明のつかぬ不思議な心持ちでじっと見詰めた。
 古い矢傷に中央を抉られた、摩利支天像。
 瞼を閉じれば、リツの弾けるような笑顔が、由布姫の冷たく澄んだ横顔が、生きているものたちより遥かにきらきらと輝く生命力をもって脳裡に浮かんでくる。
 再度強く握り締めたそれを、静かに、勘助はリツの前に置いた。
「これはそれがしが、亡くなった妻に唯一やれたものにござる。ひとたびは手を離れておったが、訳あって再び戻って参ったもの」
 そっと、リツは細かく震える指先に、摩利支天像を取り上げた。
「…持っておいて、下されるか」
「山本殿…」
「そなたに、持っていて欲しいのじゃ」
 じっと見詰める瞳が不意に盛り上がり、透明な雫が頬をこぼれ落ちて、掌の像を濡らす。
「…有難うございます」
 嗚咽に波打つ胸の合間から、鈴を振るような音で、小さな声が震えた。
「有難うございまする───」
 …これでよい。
 なぜかは分からぬ。分からぬままにそう思い、勘助は心が冴え渡ってくるのを感じた。
 これで、思い残すことはもう何もない。
 存分に越後勢と戦い、蹴散らしてくれよう。
 開け放した襖には朝の光が射し込み、初秋の風が涼やかに流れ込む。
 出陣を前にしての、ほんのひとときの静謐な時間。それがまるで永遠に続くかのようで、勘助は目を閉じ、深く息を吐いた。


END


◇あとがき





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Last updated  2007.09.30 07:43:03
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