逆襲のtransit

逆襲のtransit

2013/01/12
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バブル期の、真っ只中だ。
テレビは一家に一台がまだそれ程珍しくなかった時代、家庭の娯楽を独占してしまうファミコンは、それはもう蛇蝎の如く嫌われていた。
それでもあの手この手で姉を買い物へ送り出し

「ファミコンした分勉強するけん」

と、見え透いた嘘でお袋をなだめすかし、あの手この手を駆使しては、ソフトの差し込み口に

「フッ!」

と、慣れた息を吹き込んでいた。
そんなソフト達の中でも特に印象深かったのは、漫画家の大友克洋さんと名作の隙間にトンデモナイ迷作を挟み込んでくるタイトーがタイアップした



というゲームだ。


『サイキックアドベンチャー』と銘打たれた同作は間違った選択肢を選んでも残念な事にしばらくはそのまま話が進んでゆき、結局はその先のやたら多い選択肢全てが即死に直結するという無理ゲーで、確かに何かしらの超能力者でも無ければ攻略が困難な時間泥棒だった。
しかし前述の例えに依れば間違いなく後者へと類されるこのゲームは、選択肢毎に妙にこだわった言い回しで繰り返される理不尽な即死ぶりがナカナカに痛快で、見本市の様な死に方をアレコレ選びながら友人達とゲラゲラ笑って飲んだコーラの味すら鮮明に思い出せてしまうほど強烈な記憶は、俺の少年時代を眩しく彩っている。

そう、楽しかったゲームも不出来なゲームも

今となっては全てが素敵な思い出として

心のタンスへと大切に、格納されているのだ



母子家庭だった中林家の経済は今の感覚で表現すれば下の中くらいであったと思う。
しかし既に斜陽の炭鉱街だった大牟田の、さらに俺が住んでいた飲屋街近辺には似通った境遇の友人も多く、大人が念仏のように言う

「他所は他所!ウチはウチ!」

なんて諦念さえ身に付けてしまえば、荘厳なゲーム御殿だった平川君ちや圧倒的プラモの城だった草野君ちに遊びに行くのもまた愉快な娯楽の延長で、確かに彼らほど物質的に恵まれていたわけではないが、同時に

『貧乏=不幸』




当時の感覚では充分に『都会』と断言できた大牟田の繁華街には『カホ無線』なる、今で言う家電専門店が幾つかの店舗を展開しており、俺はその二階にあったパソコンコーナーが大好きだった。
ファミコンではとても再現できない何十万円もするパソコンが織り成す、まるで写真のように煌びやかなデモ画面を飽きる事なく見入りながら、いつかそれを手に入れるかもしれない未来の自分を想像して、心は果てしなくときめいた。
目の前にあるどうしたって手に入らない確かな希望…今にして思えばあれこそが、バブルという時代のお裾分けだったのだと思う。

(日本はますます凄い国になる!)

カホ無線から夕日の方角の我が家へ…今日のキン肉マン消しゴムを握りしめて踏み抜く自転車のペダルに、何処かの夕餉の匂いが優しく絡まった。






俺にとって門司港とは、殊更にそんな事を思い出させる土地だ。
大牟田に門司港…国策で一気に栄え、一気に衰退した街の歴史が重なるのかもしれない。
日々のFacebookにも喧しいように、門司港で出会う人々は皆、底抜けに楽しい。
俺みたいな余所者のバカを散々に笑い飛ばし、まるで蹴っ飛ばすような乱暴さで受け入れてくれ、落ち込んでいる時には親身になって相談にのり、そしてクダラナイといえば余りにもクダラナイ笑い話や、抜ける様な笑顔の向こうの何処かが誰も、決まって哀しい。
それはバーテンダーという職業柄、カウンターへ無造作に投げ置かれるお客様の心の背嚢の中身を垣間見れるゆえかも知れない。
カドヤ(仮)のオープンからだかだか四ヶ月…これほど短期間にこれほど濃密な人間関係に揉まれたのは生まれてこの方初めてだと、力強く断言することができる。



2013年1月31日を以て

中林あきおは、大好きな門司港を旅立ちます



それは東京駅で後藤さんとお別れした時の様に

北海道の浜サロマの代表とお別れした時の様に

多良岳の麓で田古里さんとお別れした時の様に

ひむかの郷で吉田さんとお別れした時の様に

四万十川で酒井さんとお別れした時の様に

水害の街でショウゴやアイコとお別れした時の様に

箱根の峠でチャリダー郷とお別れした時の様に

大阪の車庫でMeguruちゃんとお別れした時の様に

そして日本中で出会った

愛しい方々とお別れした時の様に

とてもとても哀しい事だけど

その哀しさの分だけ中林あきおは

今は手に入らない確かな希望へ向けて

力強く、歩き出します





2012年暑い夏の日から

甚だ短い間ではございましたが

カドヤ(仮)でお会いした親愛なる皆様

そして愛すべき全ての酔っ払いの皆様

楽しい思い出と忘れ得ぬ日々を

本当に、本当にありがとうございました!



2013年1月8日

カドヤ(仮)店番 中林あきお















思えばカドヤ(仮)という秀逸なファミコン本体にとって

俺は不出来な、バグだらけの

時にいう事を聞かないファミコンソフトだった

ならばここからがカドヤ(仮)の本領発揮

いよいよカドヤ(仮)『真章』の始まりだ

…いつしかすっかりおっちゃんになってしまった俺がいうのもなんだが

俺は誠に遺憾ながら伝統的にどうしても

何故か不思議とおっちゃんに好かれてしまう

親不孝でも吉祥寺でも

女の子にはサッパリだった

そんなワケでカドヤ(仮)もなんだかんだと

気が付けばやたら味のある

おっちゃんだらけの店になってしまった

しかし俺のいなくなったカドヤ(仮)は

お洒落なお客様が連日ひきも切らない

楽しいノンシャランな空間になってゆくだろう

そんなカドヤ(仮)のカウンターに

今度は一人のお客さんとして

俺もいつか自分の心の荷物を置きに来よう

…いや、今回の門司港で

結局最後まで抱え切れなかった荷物を

片手でヒョイと背負える男になって帰って来よう



その日まで少しだけ



サヨナラだ




2013年1月10日

旅人 中林あきお 





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Last updated  2013/01/12 06:01:46 PM コメント(2) | コメントを書く


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