風にのる智恵子

風にのる智恵子



狂った智恵子は口をきかない

ただ尾長や千鳥と相図する

防風林の丘つづき

いちめんの松の花粉は黄いろく流れる

五月晴れの風に九十九里の浜はけむる

智恵子の浴衣が松にかくれ又あらはれ

白い砂には松露がある

わたしは松露をひろひながら

ゆっくり智恵子のあとをおふ

尾長や千鳥が智恵子の友だち

もう人間であることをやめた智恵子に

恐ろしくきれいな朝の天空は絶好の遊歩道

智恵子飛ぶ


-高村光太郎『智恵子抄』より-



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