彼が指を鳴らして、僕の掌にあふれ出たコインチョコ。
こぼさないようにあわてて受け止めた。
大人のくせにいたずらな笑顔。
僕はあの時から恋に落ちている。
なのに、最近はいつも同じ綺麗な女の人がそばにいる。
シマさんは僕がバイトしているお店の専属マジシャンで
ただでさえ女のコのファンも多いっていうのに。
ついつっかかってしまって、雨の中とびだして
追っかけてきてくれたシマさんに悪態をついてしまった。
「シマさんは指を鳴らして、なんでも出してくれるけど、
僕の一番欲しいものは出してくれない。」
「シマさんなんて偽者の魔法使いじゃないか!」
お店のショーの時間がせまっていたから、
シマさんは指を鳴らして自分のマンションの鍵をだしてくれた。
「入って待っててください。ミチルさん。」
前に一度だけ泊まったことがある部屋。
あの時は、僕が店長に襲われそうになったのを助けてもらって、
髪をタオルで拭いてもらったっけ。
そのあと手をつないで一緒に寝てくれた。
シマさんは優しいだけで、僕のことなんて
ただの子供としか思っていない。
僕が好きなのはあなたのに。
しばらくして、部屋に帰ってきたシマさんは
「ただいま。」
といって少し笑った。
「・・・お店、間に合った?」
こわくてよく顔が見れない。
「間に合いました。」
僕を安心させる為なのか、いつもより
笑ってくれているような気がした。
「灯かりをつけないんですか?」
「・・・ピロが寝てるみたいだから。」
部屋の電気をつけていないことは
シマさんの飼っているインコのせいにした。
うすあかりの中、手探りでシマさんが僕のところまでやってきて、
まだ少し雨水で濡れている髪に触れると
「風邪をひくといけないのでタオルを。」
といってまた離れていこうとする。
僕はあわてて袖をつかんだ。
「ごめん、シマさん。・・・偽者なんて言ってごめんね。」
その言葉だけじゃなくて、僕がシマさんに意見すること自体が
間違っているのはわかってるけど
他にどういっていいのかわからなかった。
シマさんはうつむいている僕の手をとって
広い部屋の真ん中にある大きなソファーまで連れて行って
座らせてくれる。
「ずっと考えてました、ミチルさんの欲しいものってなにかなぁって。」
わがままを言ってしまった。
ショーの間中そんなこと考えてくれていたのかな。
もう暗がりにも目が慣れてきて、僕のこと見えているはずだし、
いたたまれない。
「こっち向いてください。」
シマさんは覗き込むように僕の顔に近づいてきている。
「なんで?」
「目をみたらわかるかも知れないから。」
わからないよ、きっと。
わかっても叶うわけがない。
僕が欲しいのは・・・欲しいのはね。
いつまでも黙ったままでいると、シマさんはいつもみたいに
「それでは、指を鳴らします」
といって僕の耳元で長い指はじいた。
一体何を出すのだろうと、とっさに顔をあげる。
そしたら、突然目の前にシマさんの顔が現れて
僕達はキスをしていた。
時間が止まる、息ができないほどの密着。
どうしてシマさんが僕と?
状況を受け入れられないまま唇は、離れてしまった。
「・・シマさ・・ん?」
不思議な感じ、夢でも見ているような。
目の前の彼は少し照れたような顔をしていた。
「この前ミチルさんが泊まられた時も、
本当はこうしたかったんですよ?」
「・・・うそ。だって、・・」
でも、そうなのかもしれない。
あの時は店長とのことがショックで、そんな状況じゃなかった。
「ミチルさんが心配されているあの女性は、
新しいお店のスカウトの方です。」
「・・・。」
いろんなことがグルグルと頭の中を駆け巡って、
どうしようもないあいだに、
シマさんはキスをしながら僕の体を寝かせて、
知らない間に服も開けられていた。
釘付けにされて動けなくなる体。
震えがきて寒い。
そんな僕にかけられた
「優しくしますから。」
の一言で安心して力が抜ける。
いつもとは違う感じのささやいた彼の声を聞きながら、
これは魔法なんだなぁと思った。
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