ここのところ毎日この時間だ。
忙しすぎる営業に追われて帰り道
真夜中の繁華街を徘徊している。
今日はちょっと飲みすぎた。
ネクタイを緩めながら空を仰ぐ。
ネオンのせいなのか星なんてあんまし出てないなぁ。
俺がよそみをしていたからなのか、なにかに体がぶつかって
足を止めた。
「あ・・。」
夏だっていうのに暑そうな帽子を深くかぶって、
目元を隠した少年の姿。
泣いてるのか。
間もなく彼の連れらしきガタイのでかいおっさんが現れた。
言葉はかわさずに視線でけん制しあう二人。
少年は無言のままで俺の腕につかまり、
影になって男を睨んでいた。
ため息をついてあっさりあきらめ、その場を立ち去る男。
そうそう、恋愛というものあきらめも肝心ってね。
「で?」
俺の腕につかまったままの、少年の顔を覗いてみる。
「ボクちゃんは、俺にいいことでもしてくれんのかな?」
顔色の悪いままで首をブンブンと横にふって、彼は
「あんたは?これからどこいくの。」
と言った。
「俺?俺はこれからラーメン食って帰るとこ。」
ちょっと酔っ払ったいい調子で、フラフラ歩き出す。
いつまでも腕を離さない彼はそのままにして、
ラーメンも一緒に食って、いろいろ説教した。
説教ジョウゴなので仕方ない。
だんだん打ち解けてきて話を聞いているうちに、
色気が出せないのが悩みだなんていうので、
さっきの彼氏に頼めばいいというと、
さっきのは仕事関係の事務所の人でそういうんじゃないと言われた。
彼の仕事はモデルだそうだった。
「あーあ、俺もう駄目かもしんない。」
ラーメンの湯気と一緒になって、彼のため息が上がっていく。
「なにいってんだか、若いのに。嫌味か。」
「この世界じゃもう若いとはいえないんだよ。
俺よりも、もっと若くてカメラの前でもちゃんと
笑顔つくれるヤツがいっぱいいるし、
・・・そういうヤツは要領よく
実力者とかに抱かれちゃったりしてるし。」
表情が曇ってゆく。
そんなこと知らねーけど、なんだか大変そうだなぁ。
てか、モデルっていうのはマジ話なのか。
「お前も寝ればいいじゃん。」
「やだよ、普通でもやったことないし。」
「ふーん。」
イマドキ珍しいな。そうでもないのかな。
なんかちょっと感動した。
だからなのか、その後俺の汚ねぇアパートに連れて行ったけど
手を出す気にもなれなかった。
「なんで?」
キスさえ拒否った俺に彼だって質問していた。
「さぁ・・飲みすぎたかな。」
さっさと風呂はいって寝ようと思った。
「俺あんたとだったらいいって思ったのに。」
また泣きそうな彼の誘惑も余裕でクリアできていた。
「お前かわってんな~
こんなとこで、こんなよれったオヤジに抱かれることないだろ。
もっとモデルとしてプライドとか持てよ。」
「そんなの関係ないよ。それに・・
そういうこと経験ないから、
色気とかだせないのかもしんないじゃん。」
協力してよ。と彼は小さい声でいった。
一時の気の迷いなんだろう、それにつけこんで
俺がいただくわけにもいかなかった。
「ご必要とあらば、わたくしどこへでも参上いたしますが
今はこのとおり・・。」
といいながら黙って待っている彼に近づいていき
唇には触れずに彼の襟元にキスをして
思い切り吸い込んだ。
「ちょっ、痛っ。やめ・・。」
内出血が皮膚から溢れるほどのきついキスマーク。
「なにこれ、ひでー。」
あわてて鏡を見にいった彼が涙目になっていた。
俺は笑いながら、
「色っぺーだろ?」
と言う。
ムキになった彼は俺の上着のポケットに入っていた
携帯を勝手にとりだすと
「番号登録しとくから。」
とうちこんでいる。
「あー・・。」
「なに?」
キッと睨まれる。いや、いいんだけど。
「俺名前とか覚えらんねーから、できれば身体的特徴で・・。」
そもそも容量に空きはあったのかな。
なにしろ営業職なもんで。
「わかったじゃー"モデル"でいい?」
「うーん。」
「"帽子"、とかは?」
「えーっと。」
「どうすんの?」
俺は少し考えてから
「"泣いていた"にして。」
と言った。
それが一番わかりやすいと思った。
どこまで起きていたのか覚えていない。
朝起きると二日酔いで重くなった頭を抱えながら、
枕元にきっちり置かれた自分の携帯電話。
夕べのあれは夢だったのか。
さして気にもせずにまたいつもと同じ一日がはじまる。
今はまだ少し、かすかな記憶はあるけれど、
きっと忘れてしまうんだろう。
今の世の中そんなことは、多分よくある話なのだから。
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