どっかで見たことあるな、この人。
ああそうか、あの夜天使ともめていた男だ。
俺の前に現れたずーたいのデカイ、無口なおっさんは
あの町中にあふれる
俺と天使のキスシーンが写った写真を手に持っていて
俺の顔と写真の中の俺を交互に指差してから、
自分の名刺をさしだした。
そこには芸能プロダクション、ルーフィーと書いてある。
「で?なんですか、都市田さん。」
名刺にとしだとルビがふってあるその名前を呼んでみた。
おっさんは身振りでなにかを訴えていて、
あっちの方を指差したりしているけど、
なにがいいたいのかさっぱりわからなかった。
道端でバッタリ出会って立ち話だったので、
外の雑音で小さく発せられる言葉もよく聞き取れない。
「うん、うん、天使があっちで・・?
えーっと怒ってる??」
ジェスチャーゲームか、と半ばバカらしくなってきて
俺が空を見あげると-ちなみに今日は快晴だ-
突然視界が揺らぎ、大きなその男の肩に
なんと俺は抱えあげられてしまった。
「ちょっと!あんたなにすっ・・」
有無を言わさずにその場から走り去る。
なんて力だろう。大人の男を軽々と担いでこのスピード。
「待てってば、誘拐・・誘拐なんですか~。」
俺の声が聞こえたとしてもそこにはもういない。
どれくらい走っただろう。
立派なビルに入って、
複雑な廊下を抱えられたまま連れて行かれたドアの前には
10人くらいの人だかりが出来ていた。
そこでやっとおっさんにおろされる。
「なんすか?」
おっさんはしゃべらないのでその辺にいた人に尋ねた。
「シアちゃんがね立てこもってでてこないのよ。」
男のなりをした女言葉でしゃべる人がこたえてくれた。
シアちゃんというのは天使の名前だ。
俺は都市田の顔を見るとため息をついた。
目で俺になんとかしろっていっている。
(なんで俺がこんなめに。)
と思いながら人をかきわけ、ドアを軽くノックしてみた。
「あー犯人に告ぐ、犯人に告ぐ。
君達は完全に包囲されている、無駄な抵抗は・・。」
続けようと思ったその時、急に閉ざされていたドアが開いて
部屋の中に急激に引き入れられた。
そしてまたすぐにドアは閉まり、鍵がかけられる。
薄暗い部屋で小さな影に抱きつかれた感覚。
弱々しい力で俺に必死ですがりついている天使は
またボロボロになって泣いていた。
「汚ねぇツラ・・。」
近寄ってみると、こないだ会ったばかりなのに
ヤケになつかしい彼の顔があった。
「・・も、・・やめ・・やめる。」
泣きながら俺の胸に顔を埋める。
「仕事・・やめ・・る。」
それだけやっというとそのまま大声をあげて泣き崩れた。
つきあって俺もジベタに座り込みずっと髪をなでている。
「そうか。」
とだけ言った。
しばらくして落ち着いたので、
「どうした?」
と聞いてみた。
天使は静かに
「あんたに会いに行けない。」
と言った。
「携帯で呼び出せば?」
「充電する時間もない。
もう、裸になって写真とられるの嫌なんだ。」
たしかに"天使"をモチーフにした彼のイメージでは
裸の写真が多いのかもしれないと思う。
「じゃあ、仕事やめて俺と同棲でもするか?」
俺の言葉に彼はだまりこんでしまう。
「俺が稼いてくるからお前は働かなくてもいいし、
ご飯とかだけ作っといて?
夜は毎晩でも一緒に寝れるし。」
「・・してくれんの?」
「ご希望とあらば、なんなりとお申しつけを。」
俺の太ももの上に寝そべっている彼の髪をもてあそんでいた。
この小さな頭の中で今いろんな思考がめぐっているんだろう。
彼のはりつめた気持ちがほぐれていくのがわかる。
「最近ぜんぜん家に帰らせてもらえなくて
眠ってないんだ・・。」
そう、多分仕事が嫌になったわけじゃない。
疲れてしまっただけなんだ。
「じゃあ、"トッシィ"にいって睡眠時間だけでも
確保してもらわないとな。」
「都市田さん?」
「あのおっさんに連れてこられたんだよ。
しゃべんねーけど結構優秀じゃねえ?」
俺を連れてくるなんて的を得ていると思った。
きっと天使のことよくわかってる。
「お前は商品なんだろ?」
少年に問いかけてみた。
「え?」
「営業ってさ、お前が思ってるよりもすごく大変なんたぜ
いろんな人に頭さげまくって、
必死でやっとひとつ商品を置いてもらえる。
今だってドアの向こうでお前のことみんな心配してた。
・・いい仕事じゃねーの。」
天使は俺の足に甘えたままで
「どうしてそんなこと・・。」
と目をそらしていった。
「俺も営業のはしくれとしてさ、
やっぱり商品はいい状態で出荷したいって思うから。」
天使を商品に例えるのは少しまずいのかと思いながらも
俺は芸能プロダクションなんてものはよくわからないので
まあいいかと思った。
ドアを開けて一瞬まわりが静まり返ったあと
潔く頭をさげた天使の
「みなさんどうもすいませんでした。」
という言葉にパラパラと拍手がおこり
「じゃあ、それではスタンバイします。」
という声がかかった。
明かりの下でさらされる色の悪い天使の顔が凛としている。
そーっと横目で俺の顔をみて小声で
「あれでよかったかな?」
と聞いた。
「いいんじゃねーの?」
余裕な顔をして、
それから都市田の元にかけより
ごめんなさいをしている天使のこと眺めながら
なぐさめたりしないで素直に同棲しとけばよかったのに。
なんて思った。
俺は優秀な大人なので仕方ない。
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