いくら月に願ってみても、
この気持ちが届かないのはわかっているけど、
王子は僕が歌うのをききに来てくれるので、
想いをのせて一生懸命歌っていた。
届きますように。
彼のこと好きなこの気持ちが、
どうか伝わりますように。
舞台の上から遠くの席を見つめるだけの恋。
綺麗なあの人の視線に目をあわせる度に、
この胸は痛み、泣きそうになった。
彼に恥ずかしくないように、いろんなことをがんばれる。
週に一度のわりあいでおとずれる、そのわずかな時間だけが、
僕のすべてだった。
なのに、高らかにラッパの音が響きわたり、
町は急激に騒がしくなってしまう。
とうとう王子には似合いの婚約者が現れたからだ。
歌をきく彼の隣には美しいお姫さまの姿が、
一体、どうやって歌えというの?
月はなにも言わない。
街で評判の歌歌い、
僕の歌が人々の心に響くというのなら、
それは本物の気持ちだから、
僕は愛しい王子を想って歌っているのだから。
泣きながら歌う悲しい歌を、
もう彼はききに来てはくれないだろう。
それとも僕はそんな歌さえも歌えないかもしれない。
幸せな彼を見ないように遠い所へと逃げる夜、
昼間のように明るく光る月の下に、
まるで幻のように僕の想人が立っていた。
僕の美しい声だけを愛したわけではなく、
すべてを、見ていたと。
遠くで見るよりもずっと綺麗な人がそう言った。
長い髪を乱雑に切ったお姫様は、
何故か僕にそっくりな顔。
明るく笑って、恋人と二人で暗闇の中に姿を消した。
僕の荷物をすべて持って。
彼女と服をとりかえた僕は
まるで魔法にかかったようだった。
僕が毎晩祈り続けたことが叶ったのだとしたら、
月に対して悪いと思った。
さんざん文句を言っていたから。
手に入るのならかまわない、
もう二度と歌えなくても。
歌わなくても伝えられるほど彼の近くに、
月は導いてくれたのだから。
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