彼女の噂を知らないわけではなかった。
仕事が出来る新城さんへのやっかみも手伝ってなのか、
彼女の男癖の悪さ、
日替わりで違う男の元へ通っていつつ、
極めつけは複数の恋人と一緒に暮らしている、
なんてまことしやかにささやかれていた。
(モテるってことが大袈裟になってるだけじゃないのか。)
俺はそう思い、半分信じていなかった。
本人に確認をとりたい。
否定してくれれば無条件で信じるつもりだった。
例えそれが嘘だったとしても。
トラブルで、急にこれなくなった人のかわりに、
大切なプレゼンの舞台に新城さんが立ったのだ。
あのふるえは極度のプレッシャーによるものだったのだと、
彼女を待つ間に聞かされた話でわかった。
有能な彼女は、当然無事に成功をおさめて、
今は俺に手をひかれながら夜の街を歩いている。
「なに食べたいですか?」
デートみたいだと思うと俺は浮かれていた。
仕事の続きで彼女になにか食べさせるようにと、
俺は指示をうけていた。
「・・・メロン。」
「メロン?」
覗き込んだ彼女の瞳には、なぜだか涙がたまっていた。
あわててポケットからハンカチを出して、
彼女の目元をぬぐう。
「売ってないよね・・メロン。」
まさかメロンのせいで泣いているとは思わないけど、
彼女がそういうことにしておきたいのなら、
俺はそれでよかった。
「探しますから。コンビニとかにあるかもしれませんよ?」
また手をつないで、歩き出そうとした時、
ふと思って、
「新城さん、もしかしてまた寝てないんですか?」
聞いてみた。
あまりにも寝てないから、疲れているのかもしれない。
うなづく彼女を見てすぐにタクシーに乗ることにした。
こっちにきてからずっと会社にいつづけた、
彼女の荷物と今日直行した俺の荷物は、
止まるはずのホテルに届けてもらっている。
隣同士の部屋をとってもらっていたけど、
もちろん一緒に眠った。
俺も旅の疲れが出たのか、二人して服を着たままで、
次の日の昼まで起きなかった。
「・・・シン・・今日休みだっけ・・。」
彼女の声で目を覚ます。
寝起きだし、しばらく動けなかった。
それは彼女の恋人の名前なんだろうか。
「その人って、前に車で迎えに来てた人ですか?」
俺の声にようやく気が付いた新城さんは、
びっくりして起きあがったあと、
「おはよ・・。」
といって赤くなっている。
「おはようございます。」
答えを待つ俺の視線がそれないので、
「違うの、それは諌山さん。」
あきらめて彼女がそういった。
治まらない顔の火照りを両手で隠すしぐさが、
とてもかわいくて仕方なかった。
「好きです。」
考えるまでもなく、口からそう出ている。
「俺のことどう思ってますか?」
祈るような気持ちだった。
俺のそばでなら眠れるというのなら、
それは心を許してくれていることにはならないか。
「・・あたしには恋人が二人いて・・。」
「それは質問の答えじゃありません。」
「でも、軽蔑するでしょ?嘘じゃないんだよ?」
「軽蔑なんて、しません。期待を・・・。」
緊迫した場面だったけど、
なるべく落ち着くように俺はそこで深呼吸をした。
「だったら、俺も三人目になれるんじゃないかって。」
黙り込んでしまった彼女の腕を強引に掴んで引き寄せる。
「俺がそんなことでひるむとでも思ってるの?」
もう止まることはできなかった。
「クレハ。」
はじめて名前を呼んでみる。
行為の途中からいつまでも溢れ続けた涙は、
とてもあたたかかくて、辛いのかと、
心配で見上げる俺に優しく微笑んでくれていた。
きっとうれしくて。
クレハも俺と同じように、感じてくれているのだと、
俺は思って。
夢ではない彼女を何度もたしかめていた。
幸せで幸せで死にそうだった。
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