なんてことだ。
自分の家に帰ってきた俺は、
扉の前で学生服を着た男の子とすれ違った。
礼儀正しくペコリと頭をさげた彼の姿に、
理由のない胸騒ぎを覚える。
あわててドアを開けると、
まだ、こんな時間に帰ってくるはずのない麻衣が、
そこには座っていた。
「おかえりなさい・・・。」
心なしか乱れてるように見える制服に頭がカッとなり、
俺は無言で部屋にあがると、彼女を強引にひきよせて、
いつもねだられるその行為を、今日は自分からしようとしていた。
「やだ。」
拒絶の反応。
あきらかにおかしい。
今朝までいつもどおりだったのに、いったいどうしたっていうんだ。
さっきのあいつの顔がよみがえる。
子供じゃないか、でもどうしようもなかった。
「どうして、麻衣?俺のこと嫌いになっちゃったのか?」
不安で仕方ない。
求められていた昨日までの自分がすごく贅沢に思える。
オトナゲなく小さな彼女の肩を掴んで、
うったえるように顔を近づけていた。
うつむいて、首を横にふっている麻衣。
「だったらなんで?おかえりのキスは?」
いつもと逆だ。
突然めばえた自分の感情にとまどっている。
無言のままの麻衣は、俺の胸にしがみついてきた。
「麻衣ね・・・。」
弱々しい声が聞こえて、すこし安堵する。
なにかあったのだとしても、
口も聞いてもらえないほど嫌われたわけではなさそうだ。
「ん、どうした?」
離すまいと掴んでいた手をゆっくりと彼女の頭に移動させてなでる。
麻衣が緊張していた力を抜いたのがわかった。
「・・・さっき、ちょっとだけモドシちゃったの・・・。」
「え?」
驚いて麻衣の顔を覗き込む。
言われてみれば顔色が悪い。
「だ、大丈夫か?」
「ん・・。」
大人しくうなだれた彼女は、
「でも、ちゅーはお風呂にはいってからしたいの・・・。」
と言ってから、また俺に抱きついた。
急いで風呂にはいらせて、
「風邪かな?寒かったのか?」
手のひらをおでこにやったが、熱くはないようだった。
口元まで布団でかくしている麻衣のかわいらしい瞳が、
俺のことをジッと見ている。
「昨日麻衣ね、ずっとベランダでお兄ちゃんのこと待ってたから・・。」
布団越しにくぐもった声がする。
麻衣の存在に対応しかねて、わざと遅く帰った俺のことを、
彼女は外にでて待ってくれていたっていうのか。
「バカだな。」
バカなのは自分だと思いつつ、そう言った。
「部屋で待ってれば、俺はすぐにかえってくるよ。」
どうすれば彼女を安心させることができるんだろう。
さっきの動揺で、
俺は自分の中の麻衣の存在の大きさを悟ってしまっていた。
「でも、麻衣、早くお兄ちゃんに触ってほしかったから・・。」
触る?
そうだった。
俺はなんのためらいもなく、脇から布団に手をいれて、
麻衣のパジャマの中にすべりこませた。
「くすぐったくない?」
身動きをしない彼女の瞳に聞いてみる。
手のひらではなめらかな肌の感覚をあじわっていた。
「裸にならなくていーの?」
不思議そうに尋ねる麻衣のおでこに口付けてから、
「いいんだよ、このままで。」
と答えた。
風邪をひいてるのかもしれないのに、
寒がらせるわけにはいかない。
いや、こんなことをすること自体が駄目なのか。
「お兄ちゃんの手、いい気持ちがする・・・。」
やらしい場所には触れないで、
俺は麻衣の瑞々しい体の存在をたしかめるように形をなぞっていた。
「さっきの男の子は?」
安心しきっている麻衣に、穏やかに尋ねてみる。
内心は非常に緊迫していた。
「石ノ森君は家が近くなんだって、それで送ってくれたの。」
「・・・俺なんかよりも、
あのくらいの男の子のほうがよくないか?」
プライドなんて捨ててしまって、
すがるような気持ちの俺の、なけなしの男心を、
「・・・だって子供だよ?」
クススっと笑って麻衣は笑いとばした。
自分だってまだ子供のくせに・・・。
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