あれから何年たっただろう。
いつまでも立ち直れないでいる俺に、
友達の真一とその彼女の真奈美は、
なさけないといってたきつけてくれるが、
特にクリスマスだけは、俺は一人で過ごしていたかった。
特定の彼女が出来る時期もあったが、
長続きなどしたためしがない。
俺の中ではもう、
恋愛など出来ないのかもしれないという気さえしている。
彼女以外に魅力を感じないのだ。
思い出は美しく残ってしまうというが、
時間がたつにつれ、ヘタな思い出し方ができないほど、
大切な存在へとかわっていっている。
もう彼女はこの世にはいないっていうのに。
彼女に会うまで俺は、
植物の細胞から人間の形をした生物をつくる
なんて話をSFの世界の出来事だと思っていた。
異様に軽い体重や、
俺から養分を与えなければ弱っていく事実を、
まのあたりにしてさえも、
最後まで、今でも、あまり現実の出来事だったとは思えない。
ゆわば試作品だった彼女は、
研究者の中の一人に逃がされて、
本人はわけもわからずに俺に頼ってきていた。
自分の運命などしるよしもなく。
もともと三ヶ月程度の命なのだと、
すべてが終わってから聞かされた。
それならば彼女に恋をしなければよかったと、
俺は教えてくれなかったその研究者のことを心底恨んだが、
あとの祭りでしかなかった。
電飾で賑わう街並みのことを不思議そうにしていた彼女に、
クリスマスという日が近付くとこうなるのだと説明すると、
木のように綺麗に飾られたいという意味だったのか、
大きく両手をひろげ、
自分はクリスマスなのだと言っていた。
まとわりつく長い髪が、
透き通るように白い肌が、
飾りたてなくてもすでに俺の心をとらえていたのかもしれない。
引き離される時、
水分の関係で涙なんて出ないはずの彼女の瞳から、
一粒だけ大きな水のしずくが俺の頬に落ちた。
養分を補充する為のキスも、それが最後だった。
お互いに言葉は出なかった。
そんな暇はなく一瞬で連れ去られたからだ。
俺はさんざん泣いたがもう探さなかった。
さがしてもいない現実をつきつけられることのほうが耐えられない。
毎年この時期になると、
容赦なく歌が流れ、街は光で飾られる。
俺はあからさまな現実に気が付かないふりをして、
時間をやりすごすしかない。
つらいなんて思うこと事態が、
彼女にたいして申し訳ないような気もしていた。
店先で街角で、さまざまな大きさのツリーが、
綺麗に飾られてそこにあるのを見るたびに、
本当はそれは彼女ではないのかという気にすらなっている。
あたたかそうに灯る明かりを寒さに震えながら眺めて、
俺は小声で、そこにあったツリーに話しかけてみた。
「・・・こんなところにいたのか。」
返事があるはずもなく、自分の言葉を鼻先で笑う。
どこにあんな力が残っていたのだろう。
弱っていたはずの彼女が、
最後に俺の顔にしがみついた感覚を忘れられない。
ずっと俺はこうしているつもりなのだろうか。
毎年この日はやってくるというのに。
『グレープフルーツと猫』 2006.03.24 コメント(4)
『ぬいぐるみのくま』 2006.02.28 コメント(6)
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