第四章



俺は最初から、何か不気味な感じを受けていたわけではない。
何かが不自然であると思ったのが、その時は別段気にならなかった。
その時はこの世界の情報を集めるだけで手一杯で、
それをいちいち丹念に整理する余裕は無かった。

 見渡す限り続く自然。比較的背の低い草原地帯にベッドが置いてあり、
そこで俺は目が覚めた。
この目が覚めた、ということの意味を取り違えないで欲しい。
決して夢だったというわけではない。
その草原のベッドの上で俺は寝ていて、そして目が覚めたのである。
 俺は立ち上がり、周囲を見渡す。
自分がいる位置が少し高台にあることがわかった。
山が見えた。川が見えた。
そして青々と茂る森の中心に一番見つけたいものを見つけた。
街である。一本の、ねずみ色の塔を中心に広がる街である。
 彼はベッドから飛び降り、靴下を脱ぎ捨てはだしで街を目指した。
草原を抜け、森を抜け、獣のように荒野を駆けた。
草で切り傷をつくり、何かの枝で服が裂けた。
それでも彼は何かに憑かれたかのように走った。
 全力で駆ける間、彼は凄まじい開放感を味わっていた。
あまりに衝撃的な自由は彼の心に槍のごとく突き刺さった。
その初めて味わう気持ちを不安と受け取った。
自由が孤独のように思われたのである。
 そして、街が眼下に見える丘で立ち止まり彼は叫んだ。
誰にも何の叫びかわからない。孤独への不安か、自由への歓喜か。
とにかく叫んだ。
日は傾き、夕日が空を焼いている。
街の門の前に立ち、
また彼が、
今度は門番に声を張り上げる頃には日はすっかり沈んでいた。




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