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「あ、ありえないですぅ…。」

その声は力弱く発せられ、消えていった。

翠星石の見開かれたオッドアイには異質なものが映っている。



レンピカはゆっくりと人の形をなしていき、一瞬ボウッと光を放つとやがて実体化した。


「お呼びでございますか、シスター?」

レンピカだったものが蒼星石に話しかけた。硝子の鈴の音のようなきれいな声だった。


レンピカはひざまずいて頭を垂れて現れたあと、ゆっくりと立ち上がった

そしてその姿は一点を除けば明らかに少女の体だった。



紺色のスカートから見え隠れする膝が人間のそれと変わらないことから人形ではないことがわかる。

透き通るような白い肌とは対照的なほんのりと薄紅色の唇が優しく微笑む。

右手の袖口からのぞく細い手首が全体的に華奢な感じを覚えさせるのだが、その手にしたものは…。


不吉な色と不似合いなほどに禍々しい大きな鎌であった。

鎌の刃の部分だけでも今のレンピカよりも大きい。

刃先の3分の2は鋭い刃だが残りの根元に近い部分はノコギリ状になっている。

柄はさらに長く、もはや槍と言ってもおかしくないだろう。

死神が持つと言われる鎌に似ているが、道具としてはこちらの方が実用的な分、禍々しい。

それをレンピカは重さを感じさせないくらい軽々と手にしている。


「ああ、レンピカ。悪いけどこの枝葉を切ってくれないか? どうにも不自由で仕方なかったんだ。
 それと…。そうだな、あそこにいる人形にご挨拶をしてくれ。あれでも僕の姉なんだ。」




「かしこまりました。シスター。すぐに…。」

そう返事を返しきらないうちに、レンピカの手首が動き、鎌が振られた。

バサッと音を立てて、蒼星石を拘束していた枝葉が落ちる。


「な、なんだっていうですか。人工精霊が…、人工精霊が人の形をするなんて…。
 そんなのありえねぇですぅ。聞いたこともねえですぅ。それに…。



翠星石は激しく動揺した。体が小刻みに震えているのが自分でもわかる。

しかもそれを止められない。本能的に嫌悪感が鎌から伝わっているからだ。


「あれ? 知らなかったのかい? これが僕のレンピカの本当の姿じゃないか。
 可愛いだろう? 小さいけど賢い奴でね、よく気が利くんだ。」

蒼星石は自由になった両手をブラブラと動かしながら、優しくそう言った。


「まぁ…庭師の鎌はオマケだよ。僕がnのフィールドで見つけたんだ。
 レンピカにも何か道具を持ってもらいたかったからでね。
 ほら、なかなか様になっているだろう。」

蒼星石はニヤリと笑い、レンピカを誇らしげに見た。


「この姿ではお初にお目にかかります、翠星石様。
 私はレンピカ、蒼星石様の人工精霊でございます。

 ローゼンメイデンのドールに私の本当の姿をお見せすることは禁じられておりましたが、
 その禁忌も蒼星石様のお力添えゆえに、創造主にお許しを得ました。
 従いまして、今の私は蒼星石様、いえシスターのご命令により実体化を許されております。

 この庭師の鎌はシスターが庭師の10大道具よりお選びになられたもの。
 不肖ながらこのレンピカがシスターのお手の替わりに使用させていただいております。

 再びお会いできて至極光栄なのですが、シスターの命に従い、残念ながら貴女様にお別れを
 申し上げなければなりません。」


レンピカは軽く一礼をしてから薄青紫色の瞳で翠星石を見つめた。


レンピカの帽子からあふれて肩から背中へと流れる金色の真っ直ぐな髪が揺れたと思った瞬間、

レンピカは翠星石のすぐ真横に庭師の鎌を振り下ろしていた。


翠星石は間一髪かわした。地面に刺さる鈍い音が後に残った。

ほとんど無意識のうちに左方向に体を引っ張られるようにして一歩だけ体をずらしていた。


もちろん翠星石は何が起こっているのかわからなかった。

数十メートルは離れていたレンピカが一瞬ですぐ近くに来て翠星石を殺そうとしたことも。

左手に持つ如雨露に引っ張られたことも…。


レンピカは地面に鎌を打ちつけたまま顔を翠星石に向けた。その顔は優しくはにかんでいる。

「さすがローゼンメイデンのドールでございますね。かわされるとは思ってもいませんでした。
 これでも初太刀には自信があったのでございますが、翠星石様を甘く見ておりました。
 なんともお恥ずかしいかぎりです。もっとも私の技はこれだけではございませんが…。」


その声で翠星石は正気に返った。危機を察して後ろに跳び下がる。

それを追うようにレンピカは庭師の鎌を横に薙ぎ払った。

大きな鎌はかすることなく空を切った。



                           …つづく。





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最終更新日  2006/10/03 04:07:48 AM コメントを書く
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