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カテゴリ: Tomoest
その27 ~金糸雀(かなりあ)~



金糸雀が鏡の前で小さくしゃがみこんで泣いている。


「うえ~ん。うえ~ん。」


私が近づいてきたのがわからないのか一向に動かない。

小さい体をわなわなと震えさせて、両手で顔をうずめて泣きじゃくっている。


「ど、どうしたのよ!? 金糸雀。どうしてここにいるの?」


膝をついて金糸雀の高さまでしゃがんで、そっと肩に手を優しく置いて声をかけてあげた。

そのまま泣き止もうともせずに振り返った金糸雀の目からは大粒の涙が幾度となくあふれていた。


「うう………。ともちゃん?」




それ以上は声が出ないのか、喉をつまらせて泣き出す。


「どうしたの? 雛となんかあったの?」


スカートのポケットからハンカチを取り出してそっと拭いてあげた。

床に涙で出来た水溜りがある。かなり長い時間泣いていたんだろうな、可哀想に…。


「うう…。」


拭いている間は我慢しているのか歯を食いしばって私を見ている。

それでもどんどん瞳に涙が溜まって行くみたいだ。


「はい、綺麗になったわよ。大丈夫だからね、金糸雀。」


私がそう言って顔を拭き終えるとすぐに、金糸雀が私の胸に飛び込んできた。

そんな金糸雀をそっと抱きしめてあげたら、金糸雀は堪え切れなかったのか再び泣き始めた。


「ともちゃ~ん。ひどいかしら、ひどいかしら。雛苺ったらひどいかしら。」




気の強い雛苺とはまた違った泣き方だなと思った。


「ほらほら、泣かないで金糸雀。ここじゃ暗いからあっちに行ってお茶しましょ、ね?」


「うん…。」


泣きながら一度だけ顔を上げてそう言うとまた顔をうずめる。


とにかくこのままじゃ話にならないわよね。





そのまま金糸雀を抱きかかえて立ち上がった。

ふわりとゆれた金糸雀の髪からいい匂いがした。花の香りだ。

なんだっけ、この花の匂いは? やさしくて、春の青空みたいにすっきりしてあたたかい…。

最近流行のお部屋の芳香剤みたいな嫌味な植物の匂いが全然しない。

摘みたての花でもここまでやわらかい匂いはしないと思う。

そうだ。やわらかいだ。この表現が一番あっている。

雛苺のイチゴの甘い匂いとはまた違ったいい匂いなんだわ。


ふと思った。みっちゃんさんが金糸雀にマサチューセッツする気持ちが痛いほど理解できる。

こんなにかわいくてこんなにいい匂いなんだもの。

ずーっと嗅いでいると幸せな気分で満たされそうな誘惑にかられてしまう。

そのせいで抱きかかえるのがまったく苦にならない。

いつまでもこうしていたいと思ってしまったほどだ。


今までなんども金糸雀とは会っているけど、金糸雀を抱きかかえたことはない。

いや、こんなに間近で見たこともない。だから気がつかなかったんだ。


雛苺が帰ってきたら同じように抱きしめてあげよう。そう思った。

雛苺だって負けないくらいいい匂いなんだから。

理紗みたいに『練乳かけて食べたい』なんて私は言わないけどね。

気持ちはわからないでもないけど…。


「じゃあ、おいしいお茶を入れてあげる。金糸雀はセイロン茶が良かったかな?
 それとも…。そうだこの間、おいし~いジャスミン茶を手に入れたから、そっちにしよっか?」

顔をうずめたままコクコクとうなづいて返事をする金糸雀。


「なら決まりね。理紗がいるからなにかデザートでも作ってもらいましょ。」

我ながらいいアイデアだわと思った。事情を話せば喜んで作ってくれるでしょうしね。

こんな可愛いお化けがいたなんてわかったら、どんな顔をするのやら。

理紗はたぶん金糸雀を見るのが初めてだから絶対感動するでしょうね。雛苺の時みたいに…。



黄色い光点のピチカートがフワフワと金糸雀の後ろで漂っている。

なんだか心配そうな動きって感じね。


「大丈夫だから、あなたもいらっしゃい。」


そう言うと安心したのか、ふわっと金糸雀の背に留まった。

金糸雀の人工精霊ピチカートは主人想いの素直な良い子なんだろうなと思った。

なんとなく金糸雀に似た礼儀正しいかわいいメイドさんの姿を想像してしまう。

どこかの頼りなげな兄(アン)ちゃんとは大違いだろうな…。

そんなことを考えて部屋を出る時、鏡の方を見た。


「ベリーベル! そこにいるのはわかってるのよ。隠れてないであなたもついて来なさい!
 あなたにもたっぷり事情を聞かせてもらいたいんだからね。」


鏡の裏に隠れていたのかすーっと淡いピンク色の光を放ちながらベリーベルが出てきた。

あいかわらずのビクビクした動きに思わず苦笑してしまう。

本当に同じ人工精霊なのにどうしてこう違うものなの。まさにピンキリというか…。

雛苺の力を考えればこんなものなのかもしれないけど、ちょっと…ね。

仮にもローゼンメーデンのドールに仕える選ばれた高位の人工精霊でしょうに。


「もう、今日は怒らないから。早く来て。」


そういう言い方だと毎日怒っているみたいだ。別に怒っているわけじゃないのよ。

雛苺の人工精霊なんだから、雛苺のかわりに教育しているだけなの。

まあ私もどっちかというと体育会系だから多少の厳しさは仕方ないというか、実際厳しいけれどね。

ある意味、雛苺と私の二人に責められる平社員って感じがする可哀想な存在ってところかなあ。


ベリーベルは私のすぐ後ろにフワフワとついてきたので部屋を出ることにした。

その間も私の胸にずっと顔をうずめていた金糸雀だったけど、何とか泣き止んではくれたみたいだ。


さてと…、あとは理紗を安心させてあげるのが先かな。



                         …つづく。





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最終更新日  2006/10/22 04:27:22 PM
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