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その10 ~夜の風景~




なんとまあ長い1日だったことか。

満員電車で体を押しつぶされてもケーキとプレゼントは何とか死守した。

それでもスーパーで買い物する時点でKO寸前だった。

他の物には目もくれずに目的の物だけをかごに放り込み、撤退する。

普段なら帰り途中の蔦屋でDVDをレンタルするんだがそんな気力すらなかった。


ようやくたどり着いた自分の部屋の前でため息をひとつ。

ポケットを探り部屋の鍵を取り出そうとして別の感触に顔をしかめる。


鍵と一緒にそいつを取り出し、描かれた汚い文字を再確認した。




一応、確認しとかないとな。

もし買い忘れでもあったら何言われるかわかんねえしな。

うん…、OKだろう。

まあ買い忘れがあったとしてもだ、今さら戻る気になれないんだが…。


我ながら律儀だと感心する。


不本意ながらに特注のケーキどころかプレゼントまで用意したんだからな。

これで文句のひとつでも言われようものなら間違いなく叩き出してやる。

そうは言ってもだ。逆にこのプレゼントでメロメロにでもなられるのも困るんだが…。


………………………。

思わず想像してしまった。

なんて気持ちの悪い光景なんだ。



やっぱり、そっちのほうが俺的に性に合わない。

どうせまた文句をさんざん言われるだろうけど、そのほうが悪魔人形らしいってもんだ。


はぁー、俺ってなんでこういう運命なのかねぇ?


再び、ため息。

いかんいかん、なんだか癖になってるぞ、俺。



彼女が欲しいとか結婚したいとか、そんな無謀な望みはしません。

一人で静かに過ごせたらそれでいいです。


…って、信心深くない俺としては誰に祈ればいいのかねぇ?

とにかくあんな奴でも寂しさを紛らわすには役にたってるわけだし、まあいいか。

紛らわすってレベルをはるかに超越しているがな…。

騒音公害とでも言うべきなんだろうか?


紙切れを再びポケットにしまい、鍵を差し込もうとして手を止める。

なんだかんだ言っても俺は楽しんでいるのかもな。

あれでも一応家族だ。増えるのは悪くない。

だからこそ1年も普通に過ごしてきたんだろうな。


プレゼントの包みを見て感謝にはこれで充分過ぎるだろと思った。


さて、『ただいま』を言うのはこれで365回目なのか。早いものだ。

『おかえりなさいですぅ』と言われるのも365回目なんだろうな。

その後に続く小言も365回…。

俺ってやっぱりけなげだよな。うん、俺って本当に偉い。偉いぞ!

どこかで誰かに功労賞を戴きたいものだ。努力賞でもいい。

とにかく褒めてくれ! でないと俺があまりにも可哀想過ぎる。

あんな人形ごときに責めさいなまれる毎日を送る俺にエールを!


そんなことはさて置き、ドアのノブをひねろうとして嫌な予感がした。


なんだかとてつもなく悪いものが待っている気がする…。

いや、それはいつもの事なんだが今日はレベルアップしていると言うか何と言うか。

とにかくそんな感じだ。


オイオイ…。今日の俺になんら引け目を感じることはないはずだ。

だってそうだろ? 下僕らしくちゃんと注文どおりに揃えたはずだぜ。

自分で下僕っていうのもなんだが…。

しかし、俺、なんでこんなに卑屈になっているんだろうな。

あれか? 昼間の一件か?

ありゃ不可抗力だ。俺のせいじゃない。しかもセクハラでもないだろ?

それに俺の女でもないただの人形に何の引け目を感じる必要がある?

そうだとも俺は悪くない。健全な成人男性なんだよ。

突然のアクシデントに煩悩を乱されてもいいじゃねえか。

てめえの硬そうな胸とは違うんだよ! フンっだ。

だいたい俺は人形に好意を寄せる趣味はねえ! 悪魔人形ならなおさらだ。

くやしかったらピチピチの制服美女でも用意してみやがれってんだ。

そん時は感謝のひとつでもしてやるさ。

まあ人形ごときには無理な話だがな。


…と、身に迫る違和感を下手な強がりで払拭してみる。


どうせ俺の部屋の中だけいつもの非日常な空間なんだよ。いい加減うんざりだ。


だが拭おうとして拭いきれない泥みたいな感じがどうもいただけない。

なんとなくだが違和感みたいなものが背中を這っているような気がする。

かと言って、このまま自分の部屋の前で躊躇するのも馬鹿らしい。

手にした買い物袋やらプレゼントやらを見つめてウンとうなづく。


俺に落ち度はない!


そう信じてドアを開けた。

平静を保ちつつ、いつものように365回目の台詞を言った。

今日くらいはもっと自信を持っても良さそうなものだが自重する。

そういうポリシーだ。


「ただいまー。 おいっ翠星石。ちゃあんとお望みのやつ、買って…。」


そう言って、目立つように買い物袋を掲げて見せようとした時に俺は凍りついた…。


「おかえりなさいませ、マスター。お仕事ごくろうさまでした。」


そこには制服姿の美少女がいた…。それもセーラー服!? はあぁ~?


なんにせよたいした事は………あるじゃないか!? なんだそれ?


                         …続く。





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最終更新日  2007/03/22 02:39:33 AM
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