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< Scene.1-6>
There are two pines in the hill and there are a master and a doll in the hilltop.




ベビードールはそのアナウンスが終わらないうちに立ち上がってこう言った。


「じゃあね、マスター。あたし、バスを降りてちょっと見てくるわ。
 とっくに逃げて無駄かもしれないけど、このままってのはちょっとね。
この矢の犯人に仕返ししなくちゃ気がすまないっていうか…、ああ、わかってるわよ。
目立つ行為は避けるべきだってことぐらいわね。
でもあたしにもプライドってものがあるんだから、マスターにもわかってもらいたいわ。
どちらにしてもこの忌々しい毒のおかげであと2時間も動ければ…、って、まあいいか。

 それじゃあまたね。」


言い終わらないうちにバスが停車したため。ベビードールは出口に向かう。


「ちょっと待って! ねえ!」


ベビードールは私の呼び止める声に片手だけ振って応える。

聞きたいことは他にもまだたくさんあるんだけれど…。

でも…呼び止めようとしたのはそれだけじゃなくって…、大丈夫なのかな?

あっ…、やっぱり不安的中かも…。

ベビードールは降りようとしてバスの運転手に止められたみたいだ。

だって、バスって無料じゃないよ。ちゃんとお金払わないと。

私は定期券があるからいいけど、ベビードールってお金持ってるの?

あー、なんか言い争ってるっぽい。



もしここで運転手を殺しちゃうとかの魔術を使ったりしたら…。

…って、ありえない。ありえないよね、ねっ!?

………。うー、素直に否定できない…。

他の乗客には私たちが会話しているのを間違いなく見られてるわけだし。

今さら他人のフリも難しいか…。でも私はあの子のあんな姿なんて初対面なんだよ。



さっきとは違う意味でドキドキしている私。間違いなく心臓に悪い。

でも助けてもらったから今度は私が助けなきゃ。経済的に…。

なるべくなら関わりになりたくないんだけど、仕方がないかなぁ。

それに私はあの子のマスターなんだから。そう腹をくくることにした。


私が立ち上がろうとした時、ベビードールは満面の笑みで運転手に右手を突きつける。

マズイ!! あの子ったら、本気で魔術を使う。

実際にあの子が魔術を使うところを見たことは数回しかないが、さっきの怒りようだと本気で殺りかねない。

哀れなのはとばっちりを食らった運転手という結末だ。


「待っ…、あれ?」


手にしているのは赤いお財布らしきもの…。

そしてその中からおもむろに千円札を出すと運転手に渡した。

運転手は苦い顔で料金ボックスを指差す。

ベビードールはそれを見て料金ボックスの上に千円札を叩きつけると降りていった。

後に残ったのは運転手の「お客さん、お釣り~!」って叫ぶ声だけ…。


ふーっと安堵の息をもらす。

なんだかどっと疲れた…。やはり心臓によくない。

ベビードールがどんなにきれいなお姉さんに変身しようとも、あの子はあの子なのだ。

見かけに騙されちゃいけないってことよね。うん、勉強になった。


再び動き出したバスの中でそう思った。

あれ? いつの間にか震えが止まっている?  

ある意味、ベビードールが変な緊張感を与えてくれたおかげなのかもしれない。

でも…。それも含めて私を守ってくれたと理解していいものだろうか。

それにお金持ってるなら最初から払えばいいと思うんだけどな。

いくら人工精霊だからって人間の貨幣経済ぐらいはわかると思うんだけど。


窓の外を眺めながら、今度はふ~っとため息をつく。

考えなくちゃいけないのはそうじゃない。私が何者かに狙われていること。

もちろん心当たりなんか無い。

私がドールのマスターであることすら誰にも知られていないはずだ。

『上位クラスの監察者ってところか、それとも協会の執行者…』

そんなことをベビードールは言ってたっけ?

監察者? 協会の執行者? なによそれ? 人間ってこと? 他のドールじゃないの?

薔薇水晶と一緒に戦うと決めた日から覚悟は決めていたけど相手は人間なの?

他のドールのマスターとか? ありえないことかもしれないけど…。

でもそうよね。薔薇水晶が言っていた雛苺のマスターの可能性だってないこともない。

魔術師じゃなくったって敵には違いないんだ。

ベビードールのおなかに刺さっていた矢が現実なんだ。

ジワーッと広がった血の色が頭の中に焼きついている。

あれが戦うと言う事? これがアリスゲーム?

なんでもないようなことをベビードールは言っていたけど本当に大丈夫なんだろうか?


心配する気持ちとともに生まれたもう一つの感情。

私はただ守られているだけでいいんだろうか?


「本当にそれでいいのかな…?」


私だって…、私だって戦えるはずだ。

こうして現実を目の当たりにしても何もできないのはわかっている。

ただの15歳の少女に出来る事なんてあまりにも限られている。

何も出来ない私は足手まといにすらなれないこともわかっている。

怖くないと言えば嘘になる。本当はすごく怖い。怖くて逃げ出したい。

だけど私はこの道を選んだんだ。戦う方の道を。


薔薇水晶たちが私を守るのは私がマスターだからだ。

すなわち契約を交わした力の供給源を保護するためのもの。

その力とは何なのか私にはわからないし実感もない。

薔薇水晶は『マスターは戦わなくていい』といつも言ってくれている。

『万一戦って、一時的にでもマスターを失うとドールとしての力が弱まる』そうだからだ。

しかし私にだって譲れない理由はある。

そのために薔薇水晶と利害が一致して契約したのだから、直接は戦えなくてもその目的を
果たすためも私は戦いたいんだ。 


「アリスゲームか…。」


正確に言えばこれはゲームではなくて、ドールたちの戦争だ。

でも私にとっては単なる復讐劇にしか過ぎない。

薔薇水晶はアリスゲームに便乗しているだけの殺し合い。

ベビードールは気まぐれで付き合ってくれているだけ。

そんな3人が奇しくもめぐり会い、ともに戦う事になった。

しかも敵は明確じゃなく、どれぐらいいるのかさえ検討つかない。

ドール・人間・それ以外のもの…。あらゆるものが敵になりうる可能性がある。

私が倒したいのは二人だけなんだけど、倒してそれで終わりなんてありえない。

足を踏み入れたときから抜けないものだとわかってしまった。

だから、戻れない道を進んでいる。だから、最後まで突き進んでやる。

今の私は一人じゃない。薔薇水晶だってベビードールだってそばにいる。


「一人じゃないから大丈夫だよ。私は戦える…。」


知らない間に拳をギュッと握り締めていた。

少し落ち着こうとして目を閉じた。まぶたの裏に子供の頃の光景が浮かんだ。

10年ほど前、私がまだ幼かった頃、お父さんが亡くなった時のことだ。

父の枕元に立つ二つの影。その片方にいる冷たいオッドアイが信じられない言葉を吐いた。

子供心に激しい憤りを覚えたあの日…。

私は…。私は…そう、許せないんだ。

あんなにも悔しくて、あんなにも悲しくて、あんなにも辛かった。

忘れたくても忘れられない。

いや、忘れるべきじゃない。忘れてなんてやるもんですか。


蒼星石…、レンピカ…、私はあなたたちを絶対に許さない。

いつまでもあなたたちを怨んでやる。



Scene.1 End





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最終更新日  2007/09/11 03:27:37 AM
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