鍋・フライパンあれこれ美味
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紫色の月光
第三話 ~VSメラニー 後編
時間は設置できた玉の数やフライパンになる地面の面積で決まるのだが、
(その熱量に直接触れよう物なら、10分もなく全身黒焦げです)
最初の5分はあまりの熱さに悶え苦しみ、最後の5分で最後通告をする。
まさか仕掛ける前に飛びつかれるとは思わなかったが、
「結果は変わんなかったみたいですね」
玉が爆ぜてから30分。
熱が冷め、地面に降り立ったメラニーは30分間しがみ付いていたカイトを見下ろした。
「大したモンです。宙に浮いていてまだマシだったとは言え、30分も焼かれてまだ生きてるとは」
だが、その方がキルアの要望としては丁度いい。
『切り札』を使う気力が残っているのかどうかは兎も角、焼かれたこの男は既に半分焼肉状態。
もう地面に降りてもあんな滅茶苦茶な動きで捕まることもないはずだ。
「さあ、降参するですか? 言っておきますけど、こっちはまた巨大フライパンを準備できますよ」
まあ、こんな事を言ったところで耳が聞こえてるかどうかすら疑わしい所だ。
先程からカイトは自分のローブにしがみ付いた状態のまま、俯いている。
生気を感じないところから元気はないのは確かだが、同時に呼吸音が聞こえるという事はまだ死んでないという事になる。
詰まり、半死半生の状態。
今、カインが審判として判断を下せば間違いなく自分は勝てるが、
「ローブにしがみ付いている為、戦闘続行の意思がある物と見なします」
この審判はあくまで戦闘続行させるつもりだった。
コレは審判としてどうなんだろう、とは思うが今の状態ではありがたいことこの上ない。
「さあ、本気を出すです。お前の『切り札』をキルア様に見せてみるです!」
それがこの戦いに出てきた最大の目的。
その切り札を幹部であるキルアに見せることが出来れば、晴れて自分の『願い』は達成される。
レオパルド部隊最強にして自慢の姉、タイラントの願いが――――
「キルアっつーのかあのガキ……」
「!!!!!!!!!!」
溢れ出る妄想の噴出をせき止めるように、男の呟きが聞こえた。
しかも間近。
審判を務めているカインも目を見開いている。
と、いう事はまさか。
「まだ、満足に動けるんですか……?」
半ば呆れ。
半ば放心したようなメラニーの呟き。
だってそうだろう。
丸焼きにされた猛獣は、焼かれた後に襲い掛かってくることはない。
焼いた者の『栄養』になるだけ。此処では自分の願いと言う栄養になるだけの筈なのだ。
ソレが普通だろう?
「なのに、どうして……!」
メラニーは気付いた。
この男は熱量を完全に防御していた訳ではない。
現にダメージを受けている。背中は至っては既に黒焦げで、醤油をかけたらさぞかし痛いことだろう。
しかし、
「熱を軽減していた……?」
「お前のローブのサイズが違いすぎるお陰で助かったよ。お陰で足や手をある程度ガードすることが出来た」
熱かったけど、と最後に付け足してから再び立ち上がる。
見れば、真正面は自分にしがみ付いていた為か熱によるダメージは見られない。
更には宙に浮いていることもあり、熱量を受けても地面から直接浴びるものと比べても大分軽減されてしまった。
(耐え切られた……!)
これが地面だったら結果は違っていただろう。
しかし最終的には宙に飛びつかれ、更にはダボダボになっているローブの特性に気付かれ、利用された。
(何て……奴!)
しかも、地面に降り立った今でも尚ローブを掴み続けている。
これでは宙に逃げれない。
逃げる前に、牙を向かれる。
「あ、あの!」
「何か?」
せめて顔だけは遠慮してくださいませんか?
やだね
心の中でそんなやり取りが行われた直後。
メラニーは顔面に飛び蹴りを食らった。
「鬼! 悪魔! 顔は美少女の命なのにいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
鼻血を垂らしつつもメラニーは叫ぶ。
しかし蹴りを入れた張本人は知るか、と一蹴した後、
「さっさとお姉ちゃんの所に帰っとけえええええええええええええええええええええええ!!」
サッカーボールでも蹴るかのようにしてメラニーの小さな身体をそのまま蹴り飛ばした。
しかしその小さな身体は空気の抵抗を受けてるとは思えない速度でレオパルド部隊の集結している観客席目掛けて飛ばされる。
「!」
そのまま観客席にゴールするかと思われたその時。
銀色の物体がメラニーと観客席の間に割って入る。
そしてそのまま、
(ゴールキーパーになった……!)
ぶっ飛ばされたメラニーを受け止めたゴールキーパー――――笑蘭は無表情な顔で妹を抱きかかえる。
しかし、その瞳は
(笑っている……)
キルアと呼ばれている子供幹部と同じ、感情を殺している分爆発したら一気に『来る』タイプだろう。
カイトとしてはあまり好きじゃないタイプだ。
「あ、あふぇ……」
メラニーを抱きかかえつつ、彼女は目を爛々と輝かせる。
まるで新しい玩具を見つけて、それで遊びたがっている子供のような印象を受けたが言葉が上手く話せていない。
こんな時どう言えばいいのか判らない様だ。
何か言われてもどう対応すればいいのか困る訳だが。
「メラニー、大丈夫?」
「あ……お、お……」
吹っ飛ばされた妹分に話しかけてみるが、腹部にまともに受けた蹴りが相当効いているようだった。
目が完全に白目を向いており、口が魚のようにパクパクと空いたり閉じたりしている。更に口内からは泡が吹き出しており、とび蹴りを顔面に受けた際に歯が折れていた。
どう見てもこれ以上戦えそうにない状態だった。
「やるね、君……!」
先程まで無表情だった笑蘭の表情が、突然ぱぁ、と輝いた。
今まで死んだ魚の目だったが、今ではちゃんと光が点っている。
どうやら彼女の興味対象になったらしい。
「どけ、笑蘭」
「あ」
何時までもメラニーの容態を見ようとしない次女に痺れを切らし、長女タイラントが負傷した妹分に歩み寄る。
しかし、その状態は見るまでもなく戦闘続行不可能。
既に意識を失っている。
「蹴り一撃、か……カイン!」
「はい」
メラニーが直接受けた攻撃は最後の二つ。
顔面へのとび蹴りと、腹部への強烈な蹴り。
それまでは殆どメラニーの一方的な攻撃だった。
「確かに左腕は使わずの勝利ですね。文句なしで新入り君の勝利です」
「どーも」
カインの声が会場に響くと同時、会場にざわつきが生まれた。
事実上蹴りだけで最強候補であるレオパルド部隊の代表格を倒してしまったのだ。
倒せたとしても、もっと苦戦すると読んでいた者が多かっただろう。
(正直なところ、結構しんどい……)
巨大フライパンの熱一身に浴びた背中は、もう黒漕げでまともに駆け抜ける事が出来そうになかった。
残された右腕が機械ながらも機能してくれて何とかなった結果と言ってもいい。
だが、アシュロント戦で左腕を削ぎ落とす羽目になった直後に、背中の大きな負傷。
(もう、限界だ……)
カイトがアシュロントとメラニーに勝利を収めた最大の要因はその脚力にある。
しかし身体全体に蓄積されたダメージは、ソレを徐々に削り取っていくであろう事を彼は知っていた。
「カイン」
「何でしょう?」
故に、彼はここで提案する。
これ以上の戦闘続行の不能を、だ。
最強の一角であるレオパルド部隊の代表を倒した以上、当初の目的は達せられたと思っていいだろう。
左腕と背中の治療にも専念したい。その為にはここで戦闘を切り上げておきたかった。
「コレは以上は流石にきつい。ダメージの治療を頼みt」
「出来ない」
こちらの言葉を問答無用で切り捨てる声が響いた。
しかし切り捨てたのはカインではない。
彼は寧ろ『やっとか』と呆れた顔をしていて、先程の声で表情が凍り付いていた。
詰まり、これは彼にとっても想定外の介入。
「キルア――――」
声の主はよく知っていた。
先程メラニーから教えてもらって名前も知る事が出来た。
ガーディアン戦闘特化部隊を率いる要塞を動かす『幹部』。
そして彼女を納得させてテディベアに取り込まれたシデンを救い出すのが彼が此処にいる理由だった。
「図々しいですが」
しかし、そんな幹部相手でも審判は食い下がる義務があった。
カインは一歩前に出て、観客席よりも更に上からこちらを見下ろすキルアに言う。
「理由をお聞かせ願いたい。いかに新入りとは言え、審判を務めている以上は納得する理由が欲しいのですが」
「そんなのは簡単だ、カイン」
カインの講義を気にもしない様子で、彼女は言った。
「ソイツはまだ『切り札』を使ってない。本気ではないんだ」
「……!」
『切り札』に気付かれていた。
カイトは瞬時にそう思ったが、
「何の根拠がある。言っておくが、俺は十分本気だった」
「ああ、分かっているさ」
十分本気を出していたので反論してみたが、何故か納得されてしまった。
そうなるさっきの発言に矛盾が出てくると思うのだが。
「だから、それを見極める為にもう一戦やってもらう」
キルアが言うと同時、彼女の横に控えていた黒の鎧――――ペルセウスが立ち上がった。
「相手は私のペルセウスがする。生半可な物が一切通用しないのは知っての通りだ」
キルアが言い終えると同時、再び会場がざわついた。
審判のカインも困惑している。
そりゃあそうだ。自分だって今十分に焦っているのだから。
(やばいやばいやばい! この状態でアイツを相手にしろって言うのか!?)
此処につれてこられる前。
エイジと二人がかりでも何も出来ず、シデンを取り込んで見せた黒い鎧。
今こうして見上げているだけでも十分理解できる。
(勝てない……っ)
アシュロント戦で左腕を失い、メラニー戦で背中にダメージを受けた。
目立ったダメージはこれくらいだが、
(俺に抑えられる相手じゃあない。それこそ『切り札』を使わない限りは、恐らく)
確信は無かった。
しかし今『切り札』を使えば何とかなる可能性はある。
(メラニー戦であいつが本気を出せって言ったのはこういうことか。俺を無理矢理スカウトしたのといい、どうやら最初からソレが目当てと見る)
キルアは自分に『切り札』を使わせたがっている。
それに何の意味があるのかは判らないが、メラニーが失敗した以上、今度はペルセウスをぶつけて切り札を使わせたいと思うのも納得だった。
だが、彼女にメリットがあっても自分にメリットが無い。
(無駄に『切り札』を使わせて俺にメリットなんかあるもんか! デメリットばっかだぜクソ!)
心の中で悪態をつくが、黒の鎧はこちらの事情なんぞ知ったことか、と言わんばかりに戦闘体勢に入る。
審判のカインが納得すれば、すぐにでも始めるつもりだ。
「……確かに、今までのが本気ではないならペルセウスとも戦えるとは思います」
審判の判断はややこちらに傾きつつも、続行のつもりだった。
(やばい……!)
右腕も何処まで持つかわからない。
そんな状態の中でペルセウスと戦ったら、
(キルアが納得できない場合、最悪そのまま殺される可能性も――――)
そこまで考えた、その時だった。
「待った!」
ペルセウスがこちらに向かってくるのを静止するかのようにして、凛とした声が会場に響いた。
その存在は既に試合会場――――カイトと相対する位置に存在しており、新入りながらもカイトはその名前を知っていた。
「タイラント……!」
レオパルド部隊筆頭であると同時に、シルバークラス最強と聞いている女性、タイラント。
腰にまで届きそうな長い黒髪を揺らしながらも、彼女が割って入ってきたのである。
「キルア様、今の話は本当ですか?」
「?」
だが、カイトは更に嫌な予感がしてならなかった。
何故ならタイラントの目は笑っていなかったからだ。
心に余裕が無い――――怒り狂っているような激しい光が瞳の奥に見える気がしたからである。
「私の妹は、本気を出していないこの男の負けた、と?」
「そうだ。本気を出させればまだ戦えるはずだ」
何となくだが、タイラントが何を言い出すか予想が出来てきた。
「ならばその役目、このタイラントが引き受けます」
全く持って予想通りの展開になった。
彼女は妹がやられて悔しくない訳ではなかった。
しかしカイトが全力で相手をして、それで負けてしまったのなら仕方の無いことだと割り切ってくれただろう。
だが本気でないというのならば話は別だ。
「このタイラントの妹を侮辱し、レオパルド部隊を舐めきった行為だ……! 許せん!」
「ま、待ちなさいタイラント!」
今にも拳を振るって来そうなタイラントに静止の声をあげたのは審判を務めるカインだった。
「どんな形であれ、レオパルド部隊代表で出てきたメラニーは負けたんです! ルールにより、同じグループであるあなたが出てくるのは許されません!」
「知らん! それ以上私に理屈を言うのであれば、先ずは貴様を先に屠るぞカイン!」
タイラントが右拳を突き出す。
だがソレと同時、カインはマントを目の前にはためかせ、
「!」
その拳を回避した。
――――それは間違いない。突き出された拳が空を切り、カインが無事に立っているのだから。
だが、問題は。
(なんでタイラントの目の前にいた筈のカインがその後ろに回ってるんだ?)
動体視力に自信のあるカイトでも、カインが一瞬にしてタイラントの攻撃を避けたカラクリが判らない。
少なくとも『動いていない』のは確かだ。
突然別の場所に移動した。今の回避行動を見る限りこちらに言い換えた方が妥当だろう。
「タイラント、僕はあくまで公平な審判を務めさせていただきたいのです。ペルセウスはまだ許せますが、貴方の介入は認めない!」
「ほーぅ。私は一向に構わんぞ。その場合、殴り飛ばすまでだが」
だが、そんな芸当が出来るカインでも焦りの表情が見えていた。
寧ろ攻撃を避けられた筈のタイラントの方が余裕そうにさえ見える。
(それだけ、やばいってことか)
メラニーが姉と慕っているだけあって、流石に相当凄そうではある。
しかしペルセウス相手にして負けるよりだったらまだ彼女の方が納得してくれそうな気がした。
(次女の方は、多少の興味を持ってくれていたな)
タイラントは確かに許してくれないだろう。
だが、次女の笑蘭は自分に興味を抱いていてくれている。
あの笑みと喜びのタイミングから考えて、『今度は自分と戦ってね』と言った感じだと思うが、
(死んだらそれは無理だ。無理でも生かしてくれると可能性はある)
ソレに対し、ペルセウスを相手にした場合は生き残れる可能性が皆無に等しい。
先ず勝てる気もしないし、鎧はキルアの所有物だ。
主が気に入らないと言えば、問答無用で『処理』にかかるだろう。
「それなら――――」
「待ちなぁ。早まった考えは持つんじゃねぇ若いの」
こちらの思考が見透かされたかのようなタイミングで、妙に渋い声が聞こえた。
今度は何なんだろう、と思い声のする方向を見る。
そこはカイトがコロシアムに入ってきた時に使った入り口だった。
そしてその場に居たのは、
「…………」
カイトが思わず絶句してしまう生物だった。
先ず、人間ではない。
しかし人語を喋って、こちらのアクシデントに介入してきている。
「おいなんだよ若いの。お前のアクシデントを止めてやったんだぞ。もう少し感謝の意を示したらどうなんだ?」
「あ……す、すまん」
「ありがとう、だろうが! お前は人に感謝されるとき『すまん』って謝罪の意を示すのか!? ちゃんと感謝の意を示せぃ!」
「ありがとう! これでいいか!?」
「ありがとうございますだ馬鹿野朗! 年上に敬意の意くらい示せる歳だろうが!」
「おいカイン、こいつ殴りたいんだがいいか!?」
「止めてください! また更にややこしくなります!」
やれやれ、と大げさに手を上げてからこの場に介入してきた生物――――平たく言えばペンギンはぺたぺたと音を立てながらカイトの前に立つ。
丁度カインやタイラント、ペルセウスにキルアの視線を真正面から浴びる位置だ。
「おおい、キルアちゃん。どうしたんだい突然……こんな新入り虐め俺は聞いたこと無いぜ」
「ペン蔵……何故お前が此処に!」
ペン蔵って言うのかあのペンギン。
意外とまんまなネーミングにやや呆れつつも、カイトはペンギンとキルアの会話を見続ける。
「なぁに、今度の新入りがレオパルド部隊のメラニー。そしてジャッカル部隊のアシュロントを倒したって言うからよ。どんな奴かと思って急いで来たんだよ」
メラニー戦終わった後来たとしたら随分急いできてるな、とカイトは思う。
しかしメラニーはカインに聞いていたから兎も角としてアシュロントも何気に組織では有名なようなのは初耳だった。
まあ、目立つ存在だとは思うが。
「しかしいざ着いたと思えば、キルアちゃんが言いがかりとつけるわタイラントがいちゃもんつけるわ……見てられなくてな」
「ペン蔵氏、貴方といえども私は納得しません!」
タイラントが一歩前に出てペン蔵に抗議する。
足にまで身長が届かないペン蔵に話しかけるタイラントの図はかなりシュールだったのだが。
「我が誇り高きレオパルド部隊は新入りに舐められたのです! 手加減されて倒されたのではメラニーが浮かばれません!」
「うーん、まあ俺も人の上に立つ身だから気持ちは判るよ」
人の上に立ってるんだこのペンギン。
嫌だなぁ、と思いつつもカイトは会話を見続けた。
「だがなぁ。中継で見せてもらったが、結構一杯一杯だったぜ? お前だって、アシュロント戦で左腕を削ぎ落としたのを見ただろうが」
「そ、それは確かにそうですが……!」
正直なところ、『切り札』は確かに無しだったが今の自分としては結構真剣だった。
その上でアシュロントに寄生植物を植えつけられ、身体能力で大きく上回っていたにも関わらずメラニーを捕まえるのに時間がかかった。
「ま。確かに何かしらやベー能力を持ってたり、武器を持ってたりする可能性は否定しない。だが文字通り身体を削って戦ったんだ。大目に見てあれないかなぁ?」
「そーだそーだ。痛いんだぞー」
どうやらペンギンは自分側に着いてくれる様なので、ここは流れに乗っておく。
まさかペンギンに言葉で助けられる日が来るとは思っても見なかったわけだが。
「……確かに、切り札があるのかどうかを置いておいて身を相当削ったのは認める」
意外にも、タイラントは思ったよりもあっさりと頷いてくれた。
キルアは面白く無さそうではあるが、渋々、と言った具合だろう。
「しかし我がレオパルド部隊がこの件で舐められたのも事実!」
前言撤回。タイラントは根本的なところでは頷いていなかった。
あくまで認めたのは『やりあって、ダメージを受けていた』ということだけである。
「やはり私としてはソイツをきちんとぶちのめさなければ筆頭として気が収まらん!」
どうあってもタイラントは自分を叩きのめすつもりらしい。
それならそれで迎撃するのが何時ものスタイルではあるのだが、
(難しいな……カインに攻撃を仕掛けたときの拳と余裕を見る限り、まだ全力じゃ無さそうだし)
それに身体に蓄積されたダメージの事もある。
もしここでタイラントと戦うなら、それこそ『切り札』がないと辛い。
今のままではほぼ確実にボロ雑巾にされるのがオチだろう。
「ったく、しょーのねぇ。これ以上やったって新入りがボロボロになるだけだろうが……おいカイン」
「は、はい!」
審判ながら殆ど縮こまっていたカインがペンギンの一言でびくり、と立ち上がる。
イケメンがペンギンより立場が無いというのもどうなんだろう。
「この場合、新入りが戦闘不能になるまで続けられるのか……?」
「敗北することになりますが、これ以上の実戦テスト続行が出来なくなりますね。他には本人が待ったと降参すれば負けではあるんですが……」
「ま、それで納得しない奴が二人居てこうなった訳だ」
羨ましくもないモテ方してるぜ、と呆れつつもペン蔵が自分の方に近づいてくる。
こう見てみるとペンギンなだけに身長はかなり低い。
全体の身長は成人男性の平均といわれる170程の自分の、腰にまで届いていないほど小柄であった。
まあ、ペンギンが自分より身長大きくて見上げる形になったとしたら物凄く嫌なのだが。
「おい新入り。名前は?」
「神鷹・カイト」
こちらを見上げるペンギンから放たれる『オーラ』は本物だった。
そして今回はコチラが迷惑をペンギンにかけてしまったのもあり、大人しく本名を名乗っておいた。
横でカインが『あれ? 山田・ゴンザレスじゃ……』と言ってるが知ったことではない。先に仕掛けてきたゲイザーが悪いのだ。
「そーか。悪いがお前の為だ。ボロ雑巾にならないように手加減はしてやるから、ちっと我慢しろい」
は、と疑問の声を挙げる間もなく。
ペン蔵の小さな羽根がこちらの頭上から振り下ろされた。
(あれ? ペンギンは確か俺よりも身長下だよな? なんで何時の間に上に居るんだ?)
それはあまりにも突然すぎた。
殺気も、気配も、間近に居たにもかかわらず察知できない。
だが、それだけあればこのペンギンにとって十分だった。
小粋なジャンプでカイトの頭上に飛び、その可愛らしい羽から放たれたのは『拳骨』。
古来から子供の注意の為に使われたその行為がカイトに襲い掛かったのである。
しかしその一撃はあまりに強烈。
例えるのならば交通事故があったとしよう。
交通機関に大きくぶつかり、身体的な損傷を負ってしまう事故だ。
それで撥ねられたと仮定して、この拳骨の破壊力は、
「あ―――」
恐らく、普通の人がジェット機にでも撥ねられたらこんな威力なんだろう。
拳骨をされてその場でダウンしたカイトは、意識がブラックアウトしながらもそう思った。
そして同時に思った。
ペンギンぱねぇ、と。
「これでコイツはコレ以上の戦闘続行不能だ。完全に目ぇ見開いてぶっ倒れてる」
「クレーターできましたけど、突っ込む気力もないです」
余波から逃げるの苦労するんですよ、とカインは疲れた顔で言うがペン蔵はそこまで気にかけるつもりは全くなかった。
(ぶっちゃけ、逃げに関してはこいつスペシャリストだからな)
あんま自慢できることじゃないけど。
カインが緊急で手配した担架で運ばれるカイトを見つつ、ペン蔵は思う。
(切り札があろうがなかろうが、お前じゃキルアちゃんを振り切れない……寧ろ、ソイツがあるから振り切れないのかも知れねぇな)
ペン蔵は組織の中でも相当な古株だった。
今では数人しか居ないゴールドクラスに最初に就任したのも彼だし、キルアが幹部として組織に組み込まれた時も当然ながら先輩として先に存在していた。
故に、組織全体の構成員の顔は大体把握しているし、彼らの能力や願いも極力聞いて先輩として力になりたいと思っていた。
キルアもその一人だ。
彼女は最初からガーディアンの構成員だった訳ではなく、強大な『力』を持っていたが為に組み込まれた幹部だった。
簡単に言えば、彼女も願いを叶える為に此処にいる。
だが、幹部でも願いを叶えることができるのは最大の力を持つといわれる頂点に立つ『ゼロムス』のみ。
(ま、この事を知ってるのは幹部と俺達一部のゴールドクラスくらいだが、な)
キルアたち幹部は命令する権利は与えられるが、敢えて言うならゴールドの上を行く『プラチナクラス』と言ったところ。
これは『ゼロムス』を除けば2人しか居ないので、幹部と言う形で省かれているが。
(だが、キルアちゃんがムキになって行動するとは……どうやら奴の『切り札』。何かある、な)
しかし贔屓するつもりはない。
新入りがその為にリンチになろう物なら身体を張って中断させるのが自分のやり方だ。
身体を張るのは被害者だけだが。
「タイラント、オメーもたいがいししろぃ。人の上に立つ者は、感情的なばっかじゃいけねぇのさ」
「ちぃっ……!」
何かしらの形でカイトとレオパルド部隊は衝突を免れないだろう、とペン蔵は思う。
確かに次女からは気に入られたようではあるが、長女が目の仇にしている。
シルバークラス最強の暴君。彼女を抑えるのは難しいだろう。
「さて、どうやって新入り君を馴染ませてやるか……」
「ペン蔵さん。少しいいでしょうか」
「ん?」
考え込もうとしていると、審判のカインが話しかけて来た。
「先ずは助かりました。あのままでは彼はペルセウスとタイラントを相手にして、ボロボロにされるのがオチでしたから」
「手荒な新入り歓迎会だが、ここまで手荒な歓迎会はないな。その二人相手はペルセウスと同じ階級の俺でも辛い」
手っ取り早く終わらせる為に対象を急いで病院送りにするのがあの場では一番ベストだと思った。
ついでに治療を早いところ受けてもらった方がいいだろう。
見ていて痛々しい。
「しかし、実戦テストのルールでは新入りの配属されるグループは実戦テストで彼に勝てた者が決めることになってます」
「判ってるよぉ」
詰まり、介入する形になってしまったがペン蔵がカイトの配属するグループを決めなければならないのだ。
あまりにも突然の連続で正式に戦いが開始されたわけではないが、そうした方が手っ取り早いだろう。
タイラントは少なくとも納得してくれるはずだ。
「問題だよなぁ、それ」
「彼はポイントを一番多く稼げるグループへの配属を望むと思いますが……レオパルド部隊は女性限定。我々ジャッカル部隊はゲイザーがかたくなに拒否するでしょうね」
「実力は認めるんだが、多く稼げる人気グループに入れないってのも乙なことだぜ」
実戦テストの結果はペン蔵の目から見れば悪くない。
少なくともシルバークラス相手に十分に戦える。
危ない場面もかなりあるが、『切り札』の存在を考えるとゴールドクラスの相手も出来る存在かもしれない。
「一応、パッと見ランクはシルバーランクの上位ってところか」
それじゃあ目を覚ましたら一緒にシルバーのグループ回って決めてやんないとねぇ。
ペン蔵は溢れ出る『親父オーラ』を身にまといつつも、そんな事を考えていた。
続く
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