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紫色の月光
後編
「で、ゾフィーさんよ。一応、助けてくれたことには例を言う」
マーティオはゾフィーと対峙した状態で、尚且つ物凄く偉そうな口調で喋り始めた。
「アリブンタもギロン人も本気を出したこの俺の足元にも及ばん。余計な手出しって奴だぜ」
「そうか。それは申し訳ないことをしたな」
普通なら怒る所だが、綺麗に流すところに冷静さを伺える。
「だが気を抜くな」
ゾフィーが言うと同時、洞窟内から次々と異様な殺気を感じ始める。
直後、奥からわらわらと小さなアリブンタが姿を現した。大きさは自分や今のゾフィーとそう変わらないが、元のアリブンタと比較すると、殆ど『リトルアリブンタ』状態である。恐らく、子供かギロン人が人工的に作り上げた量産型と言ったところだろう。
「正しく蟻がわらわらと群がってくる光景じゃねーか。こりゃあ歓迎されてるな」
「君、気を抜くな。小さいとはいえ、相手はパワーが段違いだ」
周囲を完全にアリブンタの大群に囲まれ、退路は防がれた。
そんな状態でも、ゾフィーはファイティングポーズをとり、体勢を整える。
同時に、マーティオもギロン人から奪った大鎌を構え、ゾフィーに背中を向ける形で構える。
「忠告するぜ、ゾフィー。俺の名前はマーティオ・S・ベルセリオン様だ。気安く君呼ばわりすんな、馴れ馴れしい」
お前の方が馴れ馴れしいな、とはゾフィーは突っ込まない。
ただ、そうか、と頷いただけだ。
「気をつけろ、マーティオ。この数が相手では、私は君のことを気にかけている余裕は余りない」
「はっ、誰に向かって言ってやがる。片っ端からぶった切ってやる!」
マーティオが走り出すと同時、ゾフィーは突撃してきたアリブンタ相手に脳天チョップを食らわせる。その後、素早く蹴り倒し、次のアリブンタを相手に投げ技を披露した。
一方のマーティオも宣言どおりに片っ端からアリブンタの首を切り落とし、更には至近距離で弾丸をお見舞いする。それで完全に倒せるのか、といえばNOだが、怯ませるには十分すぎる。その後は鎌で切り落としてしまえばOKだ。
だが、いかんせん、数が多すぎる。
マーティオの計算が正しければ、既に30体は首を切り落としている。だが数は一方に経る気配がない。
「ちっ、数が多いぜ」
「慌てるな、マーティオ」
舌打ちし、明らかに苛立っているマーティオ。
だが、彼の背後にいるゾフィーは、やはり冷静である。
「勝機は必ずある。諦めてはいけない」
「誰が諦めた発言しやがった! そっちこそエネルギー切れとかでぶっ倒れるなよ!」
次の瞬間、二人は見た。
お互いの背後。話している隙を狙って攻撃を仕掛けようとする、アリブンタの存在に、だ。
『!?』
気付いた時には、二人とも走っていた。
マーティオは伏せてから銃を構え、ゾフィーは素早く腕を組んでから、前方のアリブンタに向けてそれを突き出す。
発砲音と、腕から飛び出した閃光がアリブンタに命中した音はほぼ同時だった。
マーティオの弾丸はゾフィーの背後に迫るアリブンタの目を傷つけ、ゾフィーのZ光線はマーティオの背後に迫っていたアリブンタを一瞬で吹き飛ばす。
「ちぃ、ほんっとにしつこい!」
立ち上がり、体勢を整えるマーティオ。
だが、次の瞬間。
「!」
突然、洞窟内に大地震が襲い掛かってきた。
その振動はあまりにも大きく、洞窟内の天井から岩石が落下してきたほどだった。
「いかん!」
ゾフィーはマーティオの手を掴むと同時に、一気に巨大化。そのまま彼を手に乗せ、飛翔する。
それと同時、地盤が崩れていき、アリブンタの群れは巨大な岩石の雨によって次々と押し潰されてしまう。
「何だ!? 地震にしては妙に不自然なタイミングじゃねぇか」
ゾフィーの手の上でマーティオがぼやくと、ゾフィーも納得したように頷く。
「確かに。恐らく、地上で何か起きているのは間違いないだろう」
その時、マーティオの携帯電話に着信音が来た。
見てみると、あの同僚が電話を寄越してきたらしい。
『あー、やっと出たなベルちゃん! 今何処をほっつき歩いてたのかなー!?』
どうやら何度も連絡を入れてくれていたらしい。ありがたい事だが、今まで気付く余裕なんてなかったのだ。勘弁してくれ。
「今丁度地下鉄から地上に出たところだ。長いアトラクションだったぜ」
『何、テーマパークにでも行ってたのベルちゃん? そんな事より、大変だよ大変! 大佐の頭がカツラじゃなくなるより大変なんだって! 後、整備班のマサさんがロリコンじゃないこと並に大変なんだって!』
「OK,取り合えず落ち着け。後、大佐の頭がヅラなのはデフォルトだし、マサがロリコンなのも誰もが知っている。変な例えはいらん」
率直に用件を聞くと、同僚は慌てたままでテンションが変なのか、ちょっと暴走状態のままマーティオに伝える。
『あー、もう大変なんだって! 近くの火山が異常活動したかと思えば、馬鹿でかい怪獣が出てきたりしてもう大変なのよ! そいつ、この近くで暴れてたのさー! しかも連邦のダガータイプも量産型ヒュッケも全然歯が立ちませーん!』
成る程、地上でその怪獣と連邦がドンパチ起こしたなら、確かに地下の空洞はいい迷惑だろう。
だが、連邦の戦力を壊滅させ、地下にすら落石を起こしたのだ。相当な化物と考えていいだろう。
「その怪獣のデータ、あるか?」
『メール見てないのかなー? ベルちゃん宛てに7回も画像データ送ったんだけど?』
見てみると、確かに7件。怪獣の画像付きのメールが届いていた。
早速中を見てみると、巨大な鳥が口から火炎放射を吐き出しながら量産型のヒュッケバインを焼き払っていた。
「この怪獣は……!」
「知ってるのか!?」
ああ、と空を飛びつつ答えるゾフィー。
「名前はバードン。かなりの強敵で、私も一度敗れた」
それを聞いた瞬間、マーティオは不謹慎にも口笛を吹いた。
「そいつぁ、かなりの強敵だな。どうする気だ?」
「無論、私が行く。場所は分るか?」
電話で場所を尋ねると、同僚はすぐに答えてくれた。
『そう遠くないところで確認されてるよ。現在位置は……ポイント、F23。丁度連邦の基地もある位置だね。多分、戦闘に入ってると思う………ところでベルちゃん、さっきから話し声するけど、誰と話してるのさ?』
「俺の嫌いなタイプだ」
『あっそ。でもでも、早めに戻ってきてくれないと困るかも。この状態だから、大佐が五月蝿いんだよねー』
一時の沈黙。
ゾフィーが『送るか?』と言うが、マーティオはそれを拒否した。
「悪い、俺もう戻らない」
『へ? 何それどういう事かな原稿用紙1枚で足りる程度に先生に分り易く教えてほしいんだけどなと言うか本当に困るんだけどユー分ってる?』
「こっちに話す余裕を与えろ馬鹿」
む、と黙り込む同僚。
その隙を逃さず、マーティオは言い放った。
「俺はもう二度と戻らん、アァーンドゥ! もう二度と貴様等連邦の面を見る気もない。ドゥーユーアンダースタンッ!?」
『ちょ、え、マジ―――』
同僚のマシンガントークが始まる前に、素早く電話を切る。
更に、今まで築き上げてきた連邦時代全てと決別するべく、彼はゾフィーの掌から、その携帯を放り捨てた。
「すまん、時間を取らせた」
「いや、いい。気にする事はない」
だが、とゾフィーは続ける。
「いいのか? 仲間なんだろう? 命令違反してまで私に付き合うことは――」
「おっと、冗談言っちゃいけねーな。別にお前の道案内するためとかそんなんじゃねーよ」
ただ単に、『本当の自分』を見つけただけだ。
元の自分に戻るため、連邦とは決別する必要があった。
それだけである。
「見つけた、あいつだ!」
空は一段と暗くなっており、連邦軍基地前にはバードンが威勢よく暴れている。
頬袋が妙に印象的な巨大鳥なのだが、嘗てウルトラマンも倒したことがある怪獣である。見かけに騙されてはいけない。
「基地内に降ろしてくれ。後はこっちでなんとかする」
「分った」
ゾフィーは基地の前に着地すると、マーティオをその場に降ろす。
彼が掌から降りるのを確認すると、彼はすぐさまバードンと向き合った。
「!」
ゾフィーの姿を確認すると同時、バードンは大きな翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こす。その威力は、巨体のゾフィーすら前に進めないほどに強力な物だ。
更に、休む間なくバードンは飛翔。
真上から鍵爪でゾフィーに襲い掛かるが、
「!?」
抜群の反射神経でかわされる。
その後、素早く腕を組み、バードンの腹目掛けてZ光線を発射。
「―――!?」
モロにZ光線を受けたバードンが悲鳴をあげながら倒れる。
だが、まだ完全に倒した訳ではない。
「!」
バードンが起き上がり、ゾフィー目掛けて猛突進してきた。
いや、正確に言うならクチバシで攻撃を仕掛けてきたのだ。
それを見たゾフィーはジャンプ。一気に飛ぶことでその攻撃を回避しようとする。
「!」
だが、バードンはスピードを上げて猛追撃。
羽ばたくことでその巨体を宙に浮かばせ、ゾフィーの後を追う。
「む!?」
その勢いに追いつかれるゾフィー。
だが、気付いた時には時既に遅し。彼は右足をバードンに思いっきりつつかれ、そのまま地上に落下してしまう。
「ぐお!?」
だが、更に追い討ちをかけるようにバードンの足の爪がソフィーの背中を抉る。そのまま大きな身体で何回もゾフィーを踏みつけ、徹底的に痛めつける。
攻撃を受けるたびに身体が悲鳴を上げるが、それでもゾフィーは耐える。耐えている。なぜなら、
(必ず勝機はあるあるはずだ……! 今はそれに賭ける!)
しかし、バードンは容赦がない。
十分痛みつけたと判断したのか、その巨体は再び宙を浮き、またしてもクチバシで攻撃しようと構える。今度はゾフィーの背中を貫き、決定的なダメージを与えるつもりなのだろう。
だが、今正にバードンが垂直落下する形でゾフィーを貫通しようとした、その時だった。
『ヘーイ、鳥さんよぉ。カモン、ベィビィ!』
何処からかデンジャラスなヘビメタ音楽が喧しいとさえ思えるボリュームで流れてくる。その大音量に驚いたのか、バードンは攻撃を中断し、音楽が流れる方向を向く。
すると、其処には近くにある連邦基地から飛び出したと思われる、高機動性を誇るガーリオン(カラーリングは何故か青)が一機。見たところ、武装は固定の物以外はショットガンとコールドメタルナイフくらいだろう。
「その青い機体に乗っているのはもしや……!?」
地面に倒れながらもガーリオンを見るゾフィー。
そして同時に、そのガーリオンのスピーカーを通じて聞こえる声には聞き覚えがあった。
「マーティオ……なのか?」
『へい、どうした!? かかって来いよ、ハンバーグにしてやるぜ!』
器用にガーリオンの右手の中指を縦に上げてみせるマーティオ。偉そうなのは相変わらずである。
「!」
その挑発と思える言葉(ハンバーグと思われる)に反応したのか、バードンは口内から火炎放射を吐き出す。その容赦ない炎は倒れこんでいるゾフィーを通り越し、ガーリオンに迫るが、
『嘗めるな!』
ガーリオンは高い運動性を活かし、バードンの火炎放射を回避。真上に飛ぶ形で回避した後、ショットガンを構える。
が、しかし、
「!?」
火炎放射を更にこちらに向けて発射してくるバードン。少しでも当たれば、装甲が頼りないこのガーリオンだと非常に危険だ。
『ちぃ、そういや鳥だからフライドチキンだったな! 訂正しとく!』
ぼやいても攻撃は止まらない。
しかも、回避運動を取りながらではあるが、マーティオは気付いた。
(やべぇ、奴が徐々にこっちに近づき始めてる)
火炎放射を止め、巨大な羽を羽ばたかせてバードンが飛翔。
そのまま空を飛ぶガーリオンを追いかけ始める。
「ちっ、ポリ公にしちゃあ、ちょい厄介だな」
ならばと急降下。
地面ギリギリのところで停止し、また一気に飛翔してみせる。
「どうだ!?」
バードンはガーリオンが停止したところまで急降下してくるが、ガーリオンが飛翔するのが早すぎたためか、すぐに上昇しようと身体と羽を傾けてくる。
だが、その直後。
横からゾフィーがバードン目掛けてタックルをかまし、その巨体を吹っ飛ばす。
バードンはその衝撃で地面に激突。地面を抉り取るかのような痕跡を残しながら、その場に倒れこむ。だが、あれではまだ決定的なダメージを与えたとはいえないだろう。
『おい、大丈夫かゾフィー。お前、さっき思いっきり痛めつけられてなかったか?』
ガーリオンのコクピットからゾフィーに呼びかけると、彼は一度頷いてから、答えた。
「正直に言うと、危険だな。エネルギーが残り少ない」
見ると、ゾフィーの胸の中央にあるランプのような突起物が青から赤に変わり、しかも点滅し始めている。
「先程のアリブンタでエネルギーを消費してしまった事や、この場が夜ということもあって、太陽エネルギーが残り少ない。エネルギーが切れれば、私は消滅してしまうだろう」
だが、とゾフィーは続ける。
「私は負けない。いいか、マーティオ。例え相手が強大な敵だろうと、決して慌てて、自身を乱してはいけない」
彼は力強く拳を握り、そして力強く言った。
「この戦い、先に焦がれた方が負けだ。マーティオ、君はどうにも熱くなりやすい。も少し冷静になるんだ。そうすれば、必ず勝機はある」
『ゾフィー………』
マーティオが何処か感慨深げに呟く。
だが、彼は思わず突っ込んでしまった。こんな台詞を聞いたあとだということもあるが、今言っておかないと後先大変な事になると思ったのだ。
『お前、焦げてるぞ』
「何?」
言われると同時、ゾフィーは気付いた。
自身の頭に、何時の間にか火が点っていたことに、だ。
「うお!? 熱い、熱い!?」
見事に頭の一部がライターと化している状態の彼は、ようやく気付いた熱の痛みと共に、必死に頭の火を消そうと手でもがく。しかも焦げ始めてるんだから厄介である。
恐らく、先程のバードンの火炎放射が何らかの形で近くにいたゾフィーに襲い掛かってしまったのだろう。
『落ち着け、ゾフィー。近くに湖がある。そこで頭冷やして来い』
その湖を発見したゾフィーは一目散に飛び込み、頭の火を消化する。
「はぁ……はぁ……よし、なんとか助かった。礼を言うぞ、マーティオ」
『……ああ、そうだな。ありがたく受け取っておく』
何処か白い目でゾフィーを見るマーティオ。先程の言葉の威厳が何処かに吹っ飛んでしまう光景である。
『で、どーする? オメー、エネルギーがそろそろやばいんじゃねーのか?』
マーティオの言うとおりだった。
ゾフィーのエネルギーの輝きを表すランプ、カラータイマーの点滅が激しくなっているのである。それはつまり、残された時間が無くなって来た事を意味する。
「こうなったら、M87光線しかない」
『何、なんだそのMなんたら光線とかいうのは?』
マーティオの疑問を前に、ゾフィーは簡単に答える。
「今の私が使える最大にして最強の技だ。これでバードンを倒すしかない。だが、バードンの動きは厄介だ。パワーもある。これで避けられたら、全て終わりだ」
『なら、俺の考えを発表させてもらおう』
すると、マーティオは遠慮と言う物を知らない為か、言いたい事を言う。
『俺が奴を食い止める』
「何!?」
思わず反応してしまうゾフィー。
「危険だ。君のそのロボットでは、バードンのパワーには耐えられない!」
『だが、かわすことなら出来る。その隙に、オメーがそのMなんたら光線をぶっ放せばOK。分りやすくていいだろ?』
ショットガンを手に持ち、突撃体勢を整える。
『大丈夫大丈夫、いざとなったら脱出するさ』
じゃあ、と呟き、ゾフィーに何も言わせないまま、次の言葉を口にする。
『信じてやる、ゾフィー』
ガーリオンが青い閃光となり、バードンに襲い掛かっていく。
それを見届けた後、ゾフィーは、思わず呟いた。
「信じてやる……か。ならば、その信頼に応えるしかないな」
言い方は相変わらず棘がある。だが、その言葉には、確かな『暖かさ』を感じることが出来たのだから不思議である。
「死ぬんじゃないぞ、マーティオ」
バードンの攻撃を一度でも受ければ、この機体はアウトだ。
なんといっても、整備途中の代物を『盗んだ』のだから当然と言えば当然である。しかし、動かせる機体は全てバードンにやられ、残っていたのがこれだけだったのだから仕方がない。
(だが、お陰で必殺のソニックブレイカーが使えない。俺に出来ることは、きっちりやっておくさ!)
バードンが火炎放射を放出する。
一直線に走る炎は、同じく一直線に走るこちら目掛けて襲い掛かってくる。
だが、ガーリオンはショットガンを火炎放射に向けて投げつけた。ショットガンは火炎放射の渦に飲み込まれた後破裂し、爆発を巻き起こす。
だが、バードンはその衝撃で怯んだ。
ならばパイロットが直接ダメージを受けないこちらは、回り込んでから、
『コールドメタルナイフを、』
引き抜き、バードンの右羽に向けて、
『ぶっさす!』
刃がバードンの羽を刺し抜き、バードンの動きを封じると共に、その存在に痛みを与える。
だが、バードンはそれでもまだ暴れようとする。
羽に刺したはずのコールドメタルナイフの刃が、その暴走するかのような激しい動きによってへし折られてしまったのである。
「!?」
直後、バードンは力任せにガーリオンを振り払う。力で勝てないガーリオンはその圧倒的なパワーの前になし崩し的に吹っ飛ばされてしまい、機体各部にダメージを受けてしまう。
『ちっ、機械はこういうときにデリケートだな。根性見せやがれ!』
気持ちは分るが、世の中には出来ることと出来ないことがあるわけである。
だが、そんな彼に追い討ちをかけるようにバードンが口を開く。強烈な火炎放射でガーリオンを焼き尽くそうと言うのである。
強烈なパワーによって、整備が不足状態のガーリオンは完全に動かなくなっている。機械と言うのは本当にデリケートな物なのだと実感できる。
『ちっ』
舌打ちすると同時、マーティオはコクピットを乱暴に開け、脱出。直後、まるでタイミングを見計らったかのようにバードンの火炎がガーリオンを直撃。
「うお!?」
脱出するタイミングが遅れたマーティオは、ガーリオンの爆風によって吹っ飛ばされ、近くの木に叩きつけられる。
「がっ――――!?」
その衝撃に耐えながらも、マーティオは気絶することなく生きてはいる。
しかし、身体が受けたダメージは大きい。普通の人間だと爆風の時点で死んでいたのだろうが、生憎マーティオは鍛え方が一般とは違う。怪盗を名乗るからには伊達ではないのだ。
「けっ、最後に俺まで焼き払おうってのか?」
バードンはガーリオンから脱出したマーティオを追っていた。
しかも、そのまま追いかけ、止めを刺そうと近づいてきているのである。距離はまだ結構あるが、火炎放射でも出されたら近くの木々に引火し、消し炭になってしまう。
だが、そんな絶望的な状態の中、マーティオは笑っていた。
何故か。
理由は簡単だ。彼の目は確かに捉えていたからである。
バードンの背後。そこでエネルギーを溜め終え、右腕を突き出しているゾフィーの姿を、だ。
突き出された右腕に点るのは、何処までも果てしなく輝いているように見える光の輝き。
突き出されたその右腕から放たれた閃光は、バードンに向けて放たれる光の波動。希望の光矢。
そしてそれに命中するバードン。光はバードンを包み込んでいき、その熱量を持ってバードンを消し去ってしまう。
轟音と共に消し去ったバードンの爆発が起こり、マーティオとゾフィーはそれを見届ける。
そして完全に消し去ったのを確認すると、マーティオはその場で振り返り、ゾフィーを見る。
「何時か―――」
すると、ゾフィーは突然喋りだした。恐らく、マーティオだけに聞こえるテレパシーなのだろう。
「何時か、君たち人類が私たちと肩を並べるその日が来るまで、私たちは地球を守る盾のつもりでいた。嘗て地球で戦った、兄弟たちと共に」
「もう肩を並べてる奴等がいるぜ?」
ああ、とゾフィーは頷く。
「ロンド・ベル隊。外宇宙での彼等の戦いは、私たちも知っている」
しかし、同時に地球が、まるで紙切れのように薄っぺらい守りになってしまった。
それだけロンド・ベルという存在が大きかったのだろう。
しかし、今回のようにバードンやアリブンタ、ギロン人のような脅威が現れたのなら、自分たちが対処するしかないのではないだろうか。
「ならいいじゃねぇか。ロンド・ベルは確かにあんた等と肩を並べたんだろうぜ。……なら、それでいいじゃねぇか」
もし、もしも気になるというのなら、
「また来ればいいさ。あんた等『ウルトラマン』がなんで地球を其処まで守ってくれたのかは知らない。知らないけど、来たい時に来ればいいさ」
「君は、これからどうするのだ?」
ゾフィーの問いかけに、マーティオは答えない。
ただ別の答えを言い放っただけだ。
「じゃあな」
それだけ言うと、彼は振り返り、木々の中へと消えてしまった。
それを見たゾフィーは、空を仰ぎ、そのまま宇宙へと―――ウルトラの星へと帰っていったのである。
後に、ゾフィーは報告にこう書き記している。
地球で出会った青髪の青年がいた。
彼は最初から私と対等な位置で話し、自分が守られることを嫌った。彼は巨大な怪獣に恐れることなく立ち向かい、そして闘志を消すことなく燃やし続けている。
今、ロンド・ベルと呼ばれている部隊が外宇宙へと旅立ったが、
「恐らく、何時か彼も旅立つのだろう。きっと、そんなに遠くない内に」
因みに、その後の地球では、ロンド・ベルがいない間に様々な組織と思惑が交差する中、暗躍する者が一人現れることになる。
黒の仮面でその素顔を隠し、一度狙ったターゲットは絶対に逃がさない大泥棒。
通称、『怪盗シェル』。
彼の素性は不明だが、以前現れた『怪盗シェル』との最大の相違点は、髪型が青髪の長髪だと言うことである。
「さあ、行くぜ!」
だがその数年後、彼はその姿を突然消すこととなる。
その後、彼がどうなったのかを知る者はいない。
一説によれば、地球に飽き飽きして、宇宙人から宇宙船を盗んで外宇宙に旅立ったと言われている。
因みに、到着した星の名前の候補には、あくまで推測ではあるのだが、『ウルトラの星』が挙げられたそうである。
完結
おまけ
ジャンル別一覧
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