2002年10月02日
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新宿にカトリックの司祭が開店した店がある。できてもう22年になるその店は、「エポぺ」という。フランス人で日本に宣教にいらしたジョルジュ=ネラン神父が、フランス語で、叙事詩もしくは英雄的な行為を意味するこの言葉を、「美しい冒険」と訳している。私は、この店で15年ほど前まで働いていた。

その店から今日突然電話がきた。T氏が亡くなったというのだ。
9月15日、くしくも私の誕生日。知らなかった。奥様から、店に電話がきたそうだ。まだ、信じられないと。

私が20代の「ひよっこ」のころ、真剣に語り合えて、尊敬できた数少ない大人の一人が、T氏だ。店の客であり、人生の先輩であり、父親のようであり、仕事の上司のようでもあり、それでいて、愛すべきいろいろなくせや趣味があった。いまでも眼前に浮かんでくる。店に入ってくるときの、背中を丸めた足早の歩き方。いつも、ウィスキーを炭酸で割り、レモンスライスを入れて飲んでいた。ほとんど食べないが、サラミとチーズを頼んでそれに塩をかけて食べていた。話しかけると考え事をしているからと断るかと思えば、突然、「おたくさぁー、この店でバイトしてどんないいことがあった?」名前を覚えてもらうまで、おたくといわれたっけ。

息子さんを亡くされて、悲しんでいた姿も、部下を連れてきてはしゃいでいた姿も、山の写真を恥ずかしそうにでも自慢げにみせたときも、あらゆる場面が目にうかんでくる。

Tさん、あなたにもう一度会いたかった。五年ほどまえ失恋して、どん底の状態だった自分が、なぜか一番会って話したかったのがあなただった。バイトを辞めて、もうずいぶん経っていたのに、喜んで家に迎えてくれて、いろんな話をしてくれた。なぜ、それから遊びに行かなかったのだろう。しょっちゅうあなたの住む町を訪れていたというのに。悔やまれてならない。
今こうして元気にやっている姿を見せたかった。

ご冥福をお祈りしています。 





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最終更新日  2002年10月17日 00時44分14秒
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