PR

×

Free Space

PVアクセスランキング にほんブログ村

Keyword Search

▼キーワード検索

2006/08/05
XML

練兵場に号令がくだり、ティアナは士官候補生たちと共に馬上で「構え銃(つつ)」の姿勢をとった。
彼女が籍を置く竜騎兵隊50名は、二列横隊を作り射撃訓練を行っている。
朝からたっぷり陣形の組み替えを練習させられ、上着の中に着込んだシャツが汗で背中に張り付いてくる。
集中力を途切らせまいと、ティアナは唇をひき結び目標を見据えた。
なにしろ今月は、彼女の仕えるべき相手が、教官補佐として調練の指揮を執っているのだから。
「銃身は外角15度に固定だ。」
候補生の間を巡回するユベールが、ティアナの隣に並ぶ少年の構えを直す。
「前列、一斉射撃用意!」
撃ての合図と共に銃口が火を噴き、目標の白い的が跳ね上がった。

「ぷぁーーっ!」
洗い場で頭から水をかぶったティアナは、ようやく人心地ついた。
上着は無惨に泥にまみれ、シャツにも土がこびりついている。
走行しながらの射撃訓練中、反動で派手に落馬した者がいて、ティアナまであおりを食って地面に叩き付けられてしまったのだ。
汚れを落とそうと水桶を抱えた途端、背中を固い銃口でこづかれた。
「なっ・・・!」
「気合いが入ってるじゃないか。何べんも水をひっかぶって、行水か。」

よく知る同胞の声だと分かって、体の緊張がゆるむ。
「なんだ、アドルフ殿か・・・。」
フライハルトから同行した下士官アドルフが、ライフルを片手に立っていた。
アドルフはティアナがいるのもお構いなしに、水盤に近づいて水を飲もうとするので、あやうく大きな影に覆いかぶさられる形になって、彼女は慌てて身をひいた。
私兵あがりの、いわば叩き上げな軍人であるアドルフは、ティアナのような貴族の跳ね返り娘にも遠慮がない。
満足いくまで乾きを潤してから、アドルフは黒い瞳を彼女に向けた。
「不服そうな顔だな。」
「・・・落馬したんです。」

彼女自身の責任でないとはいえ、落馬を不名誉に思う気持ちはあったし、第一これが戦場であれば、彼女は歩兵の銃剣の餌食になっていたかもしれない。
ユベールなら、あのような状態でも上手くさばけたのではないかと、ティアナは思う。
彼は候補生たちの前で、馬術も射撃も、見事な手本を示してみせたのだ。
「足手まといにならないという約束で、お仕えしたのに・・・。」
若い生真面目な悩みを、アドルフは一笑に付した。
「あれと馬上で張り合おうったって無駄さ。なんせ、自分の足で歩き始めるより前に、馬に乗ることを覚えたって話だ。」
「ほ、本当に?」
「まぁ、ロイ・コルネール殿の言うことを信用する気があればだが。」
「そんな、信憑性の薄い情報源で慰めなくてもいいです・・・。」

再びうなだれたティアナの様子にアドルフが吹き出し、つられてティアナも口元をゆるめる。
ティアナは水盤にもたれかかり、水面に映る軍服姿の自分を覗き込んだ。
「まだまだ訓練を積まなきゃ・・・今度の視察で、ローレンツ様の随行に選ばれたいんです。絶対に。」
戦場に立って、ユベールを守る・・・その経験は、いずれアルブレヒトを守ることに繋がるはずだ。
「焦りなさんな。成長ってのは、人それぞれ歩みの速度があるんだ。そいつを追い越すことはできない。」
アドルフは銃を肩に担ぐと、練兵場に向かって歩き出した。
「あんたは随分たくましくなったよ、ティアナ殿。」
ティアナの頬が紅潮する。
職業軍人であるアドルフの言葉に、自分がここに居てよいと許されたような気がした。

宿舎に戻ると、入り口のホールで出迎えた宿の女将が、前かけで丸々とした手を拭きながら近づいてきた。
「ティアナ様、今さっきローレンツ様にお迎えが来られましてね・・・」
言い終わらぬうちに、階段を数歩、早足で降りてくる音がする。
「ティアナ。」
軍装を解いて礼服に着替えたユベールが、階段の中ほどで彼女に声をかける。
「これから伯爵邸に行く。同行できるかい?」
「はい、今すぐにでも!」

女将とユベールの視線が、ティアナに集中する。
「ティアナ様、今すぐというのは・・・」
「うん、少し支度をしたほうがいいね・・・。」

言われて、彼女は自分がまだ泥まみれの衣服をまとっていることに気づいた。
一歩後ずさると、ブーツの中の小石と砂がいやな音を立てる。
「すっ、すぐに支度をして参ります!!」
転がり込むようにして自室へ戻るティアナの後ろ姿に、女将は首を振った。
「せっかくお綺麗なのにねぇ・・・はぁ、もったいないこと。」

(2)ヘ続ク





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006/08/06 08:49:31 PM
コメント(6) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
たゆたう~  さん
ティアナがんばってる!!でも心配やわ、おばちゃん。。。←また出た!
ユベール君と一緒に戦地に行くの?何かホンマ心配やわ・・・
と、とにかく心配になる今日この頃でした^^; (2006/08/07 09:42:42 AM)

Re:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
金比羅系  さん
男臭い集団の中でも前向きにがんばってるティアナ・・!
応援したくなりますね。
アドルフもきっと、そんな気持ちなのでしょう。
好きです、ティアナさん。

自分の足で歩くより先に乗馬を覚えたってスゲエ・・と思いきや、ロイの発言ですか。
もし本当だとしたら、ユベールってやばいぐらい強い騎士なんでしょうね・・。 (2006/08/07 09:38:49 PM)

Re[1]:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
black_obelisk  さん
たゆたう~さん
色々とご心配をおかけして、すみません。(笑)
でもユベールひとり戦場に出すより、彼女がいる方が安心かもですよ。大体、ユベールは自分を守ろうという意識が希薄ですから。
次回は、「あんたら、こんな時に何やってるの!」と、別の意味で心配になる事うけあいです!
(2006/08/08 02:06:45 AM)

Re[1]:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
black_obelisk  さん
金比羅系さん
ティアナは頑張ってます、いい子です☆
彼女を見てると「よし、俺も仕事やるぞ!」みたいな、癒し系&励まし系な戦士です。(笑)

>自分の足で歩くより先に乗馬を覚えた
120%嘘な香りがしますね。^ ^;
ロイはユベールの幼少時代のことを、ほとんど知らないと思います。
ただ、ユベールに流れる東方の血は、源流が馬を扱う民でした。
その関係で、幼い頃にある人物から馬術を学んだのは確かなようです。
(2006/08/08 02:49:52 AM)

Re:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
ユベールって騎士の血でも引いてるの?馬に強いって。。。東方系?なんかよく分からんわ^^;

反省。歴史の勉強たらんですな(ノ_<。)

にしてもティアナ、女将も言うてるように、もったいないなぁ。 (2006/08/09 12:49:46 AM)

Re[1]:天空の黒 大地の白(4-5'5)間章.ティアナの事情(1)(08/05)  
black_obelisk  さん
凪坊ヤ★クゥ。さん
シリアとか、中央アジアの騎馬民族の血が流れ・・・ているのかもしれません。(^ ^) 個人的に好きなんです、騎馬民族。
でもこれは裏設定ですし、知らなくて本編読んでも全く問題なしです。
単に乗馬の上手い人ってことで。(笑)
ティアナは綺麗なんだから、日焼け対策ぐらいしてほしいんですけど・・・無理でしょうねぇ。
誰かと恋が芽ばえたりとか・・・それも無理かなぁ。(えっ)

(2006/08/09 07:58:40 PM)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: