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2006/08/05
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彼女が籍を置く竜騎兵隊50名は、二列横隊を作り射撃訓練を行っている。
朝からたっぷり陣形の組み替えを練習させられ、上着の中に着込んだシャツが汗で背中に張り付いてくる。
集中力を途切らせまいと、ティアナは唇をひき結び目標を見据えた。
なにしろ今月は、彼女の仕えるべき相手が、教官補佐として調練の指揮を執っているのだから。
「銃身は外角15度に固定だ。」
候補生の間を巡回するユベールが、ティアナの隣に並ぶ少年の構えを直す。
「前列、一斉射撃用意!」
撃ての合図と共に銃口が火を噴き、目標の白い的が跳ね上がった。

「ぷぁーーっ!」
洗い場で頭から水をかぶったティアナは、ようやく人心地ついた。
上着は無惨に泥にまみれ、シャツにも土がこびりついている。
走行しながらの射撃訓練中、反動で派手に落馬した者がいて、ティアナまであおりを食って地面に叩き付けられてしまったのだ。
汚れを落とそうと水桶を抱えた途端、背中を固い銃口でこづかれた。
「なっ・・・!」
「気合いが入ってるじゃないか。何べんも水をひっかぶって、行水か。」

よく知る同胞の声だと分かって、体の緊張がゆるむ。
「なんだ、アドルフ殿か・・・。」
フライハルトから同行した下士官アドルフが、ライフルを片手に立っていた。
アドルフはティアナがいるのもお構いなしに、水盤に近づいて水を飲もうとするので、あやうく大きな影に覆いかぶさられる形になって、彼女は慌てて身をひいた。
私兵あがりの、いわば叩き上げな軍人であるアドルフは、ティアナのような貴族の跳ね返り娘にも遠慮がない。
満足いくまで乾きを潤してから、アドルフは黒い瞳を彼女に向けた。
「不服そうな顔だな。」
「・・・落馬したんです。」

彼女自身の責任でないとはいえ、落馬を不名誉に思う気持ちはあったし、第一これが戦場であれば、彼女は歩兵の銃剣の餌食になっていたかもしれない。
ユベールなら、あのような状態でも上手くさばけたのではないかと、ティアナは思う。
彼は候補生たちの前で、馬術も射撃も、見事な手本を示してみせたのだ。
「足手まといにならないという約束で、お仕えしたのに・・・。」
若い生真面目な悩みを、アドルフは一笑に付した。
「あれと馬上で張り合おうったって無駄さ。なんせ、自分の足で歩き始めるより前に、馬に乗ることを覚えたって話だ。」
「ほ、本当に?」
「まぁ、ロイ・コルネール殿の言うことを信用する気があればだが。」
「そんな、信憑性の薄い情報源で慰めなくてもいいです・・・。」

再びうなだれたティアナの様子にアドルフが吹き出し、つられてティアナも口元をゆるめる。
ティアナは水盤にもたれかかり、水面に映る軍服姿の自分を覗き込んだ。
「まだまだ訓練を積まなきゃ・・・今度の視察で、ローレンツ様の随行に選ばれたいんです。絶対に。」
戦場に立って、ユベールを守る・・・その経験は、いずれアルブレヒトを守ることに繋がるはずだ。
「焦りなさんな。成長ってのは、人それぞれ歩みの速度があるんだ。そいつを追い越すことはできない。」
アドルフは銃を肩に担ぐと、練兵場に向かって歩き出した。
「あんたは随分たくましくなったよ、ティアナ殿。」
ティアナの頬が紅潮する。
職業軍人であるアドルフの言葉に、自分がここに居てよいと許されたような気がした。

宿舎に戻ると、入り口のホールで出迎えた宿の女将が、前かけで丸々とした手を拭きながら近づいてきた。
「ティアナ様、今さっきローレンツ様にお迎えが来られましてね・・・」
言い終わらぬうちに、階段を数歩、早足で降りてくる音がする。
「ティアナ。」
軍装を解いて礼服に着替えたユベールが、階段の中ほどで彼女に声をかける。
「これから伯爵邸に行く。同行できるかい?」
「はい、今すぐにでも!」

女将とユベールの視線が、ティアナに集中する。
「ティアナ様、今すぐというのは・・・」
「うん、少し支度をしたほうがいいね・・・。」

言われて、彼女は自分がまだ泥まみれの衣服をまとっていることに気づいた。
一歩後ずさると、ブーツの中の小石と砂がいやな音を立てる。
「すっ、すぐに支度をして参ります!!」
転がり込むようにして自室へ戻るティアナの後ろ姿に、女将は首を振った。
「せっかくお綺麗なのにねぇ・・・はぁ、もったいないこと。」

(2)ヘ続ク





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Last updated  2006/08/06 08:49:31 PM
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