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2008/01/09
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「ローレンツ様・・・っ。」
ティアナは数歩手前で立ち止まると、ユベールの顔を物言いたげに見上げた。
「・・・シャルロットに言って、中で待っていればよかったのに。」
「いいえ・・・ここでお待ちしたかったんです。」
「とにかく、中へ入って。」

そう言ってティアナを促し、ユベールは部屋に明かりを灯した。
「エルヴィンに会ってきたよ。」
「はい・・・。」

ユベールが次の言葉をためらう。
その苦しげな表情に、ティアナは胸が詰まりそうになった。
そして、これから彼に伝えようと決めた事は正しいのだと確信した。
「ローレンツ様・・・聞いていただきたい事があります。」
ティアナは迷いを払拭し、己を鼓舞する。
「私はもう、エルヴィン様と個人的にお会いすることはしません。少なくとも・・・この戦争に連合軍が勝利して、私が務めを終えるまでは。」
「ティアナ・・・・」
「昨日の晩、私はエルヴィン様に考える時間がほしいと申し上げました。考えて・・・こうするのが良いと、思えたんです。」

エルヴィンに惹かれる気持ちに、変わりはない。
以前より一層、側にいて彼を知りたいと感じている。
だが、ユベールを失望させてまで貫きたい気持ちだとは、どうしても言えなかった。
ユベールが信頼を示してくれた時、ティアナは彼に応えたいと願ったのだ。
「・・・わかった。君にはつらい思いをさせて、すまない。」
「ローレンツ様。」

ティアナは首を横に振った。
優しすぎる人だ。部下の失態に、自分が心を痛めてしまうほど。
ユベールが心を悩ませ苦しんでいる姿を目にした瞬間、他の選択肢はないとティアナは悟った・・・エルヴィンと距離を置くことが、己の心と良心に最も忠実なことなのだ。
ティアナは、胸の奥でそう確認した。



1796年の暮れ・・・国外の情勢に翻弄され続けたフライハルトの宮廷に明るい話題が持ち上がり、人々は活気づいていた。
身分ある男女がせわしなく談笑するホールの中心で、満たされた笑みを浮かべ祝福を受けている娘は、下級貴族の娘ながらレティシアの寵愛厚い侍女、イルゼである。
その隣に、彼女の手をとる騎士フォルクマールの姿があった。
二人が惹かれ合っている事を知っていた女王は、彼らに婚姻の許しを与えただけでなく、十分な財を持たぬイルゼのために恥ずかしくない程の用意を整えてやった。
かたや相手のフォルクマールは女王にかしづく騎士達の副首座であり、アルブレヒトが遠くマインツにいる現在、実質的に騎士の頂点に立っている。
今日、めぼしい貴族達を招待して晩餐の席をもうけ、婚約の披露目をしたのも、フォルクマールが重要な地位にあるからだ。
「ご覧なさいな。イルゼの誇らしげなこと。」
礼服を着込んだレオンハルトに近寄り、レティシアは耳打ちする。
「えぇ、本当に。」
答えたレオが目を細めたのは、レティシアが心から幸福そうに微笑んでいるせいだ。
妹同然に可愛がってきたイルゼが愛する者と結ばれるのは、彼女にとって我がことのように嬉しいのだろう。
「あなたも今日は、気むずかし屋さんのことは忘れて楽しむといいわ。」
そう言うとレティシアは、次の賓客の挨拶を受けに彼の前を通り過ぎていった。

ほっとするわね、と老婦人は会場に馳せ参じた面々を見回して言った。
「近頃は、似つかわしくない連中も我が物顔で出入りするものですからね。でも今夜は申し分ありませんわ。」
隣にいた壮年の紳士が同意する。
「さすがに陛下も、この場は騎士達の感情を害さず花を持たせようという所でしょう。今夜の主役はフォルクマール殿ですからな。」
視線の先では、フォルクマールが感謝をたたえた笑みでレティシアと言葉を交わしている。
この宮廷に異分子が顔を出すようになったのは、半年ほど前からだろうか。
富家の家長やら商工ギルドの長といった連中を頻繁に見かけるようになった。
それも仕事のために呼びつけられるのではなく、女王の客人として招かれて。
特にプロイセンから移民してきた一団(女王の亡き夫、エグモントの遺領を売却した際フライハルトへ移住した住民達)の中に、金物や銃器を扱う工房主らがおり、とりわけ厚遇を受けていた。
しかし格式と伝統を重んじる女王の騎士達は、彼ら技術屋が土足で宮廷に上がり込むのを歓迎していないという噂が水面下では囁かれていたし、こうした変兆の元凶は平民出身の宰相グストーにあると人々は考えていた。
女王がフォルクマールにイルゼを与えたことや、この場に新たな階級の者達がいないことに出席者たちは安堵を禁じえなかった。
「まぁ、そう難しい顔をなさらず、今宵は大いに楽しもうじゃありませんか。フランスとの戦争にも勝った。じきにアルブレヒト殿も帰国されるでしょう。そうすれば・・・」
王家の守護たる黒獅子の騎士は、秩序の象徴・・・彼さえ戻れば物事は収まるべきところに収まると。
新たな一年が訪れようとしていた。
それがレティシアとユベールにとって忘れえぬ年になるとは夢想だにせず、フライハルトの夜は美酒と踊りに酔いしれ、暮れていった。


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Last updated  2008/01/10 12:41:46 AM
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