アオイネイロ

March 16, 2013
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カテゴリ: 空狐-karagitune-


彼は気ままで、鼻歌交じりに歩みを進める。
そんな彼の横を、真っ黒な狼が寄り添うように歩く。
別に狼は彼に付き従っている訳で無く………

『オイッ、右じゃねぇ。その道は左だ』
「あれ、そうだったっけ? ありがとうテン」

ふらふらと道を間違えそうになる彼の目付役だ。

テンという名の漆黒の毛並みをしたぶっきらぼうな狼と
白銀色の髪に空色の瞳の掴みどころのない少年、ソラ


この三人(二人と一匹?)で、旅というものをしている。

「かえで、疲れてないかい?」
「あっうん。大丈夫、ソラは?」

くるりと振り返って笑顔で問うソラに、私はどきまぎとそう返す。
いまだに、他人と話しをするのはどうも慣れない。
『コイツが疲れたなんて言い出しやがったらぶん殴ってやる』
「あはは、テンは乱暴だ。だいたい、その姿でどうやって僕を殴るのさ」
ドスの効いたテンの声など堪える様子も無く、ソラはからからと笑う。

よく笑う少年だと、初めて会った時から思っていた。
ここ一週間一緒に旅をして、それはより強いものになっていた。

私はソラが怒った所も、泣いた所も、困った所も、まだ見たことがない。

私は、ソラの笑った顔しか見たことが無かった。
微笑んでいるか、朗らかに笑っているか、にこにこしてるか
笑顔に差はあれど、常に笑顔だ。

テンは気難しい顔をしたり、怒ったり、本当に時々、優しい顔をしたりする。

『何だ、楓。人の顔ジロジロ見て』


そんなことを考えていたら、テンがこちらを振り返ってそう言った。
「ちょっとテン。かえでを怖がらせちゃダメだよ。ただでさえテンは顔が怖いんだから」
そう言いながら、ソラはやっぱりおどけたように肩を竦めて笑っていた。

『テメェは………ん? 街が近いぞ』
何事か言い返そうとしていたテンが、鼻をひくつかせてそう言った。
「街ですか?」
私が思わず聞き返した。自分の故郷以外での、初めての街だ。声も自然と弾む。
「テンの近いは信用できないよ~、なんたって鼻がいいからさ。まだまだ歩くよ」
『今までの道のり考えりゃすぐだろ。少なくとも、俺が走ったらすぐ着く』
ソラの言葉に、テンが半眼になってそう返す。

そんなやりとりに笑いながら、私の心は次の街に奪われていた。







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Last updated  March 16, 2013 10:35:35 PM コメント(2) | コメントを書く
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