BRASILの独り言
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サンパウロには日本の学習塾に当たるものは存在しない。大学受験に備えるための CURSINHO(予備校)はあり、大いに流行っているが、学校の勉強と平行して通う塾はない。だからと言って 放課後は遊びまくっていると思ったら大間違い。日本の子供に負けず劣らず多忙な日々を送っているのだ。ブラジルの学校は「朝の部」、と「昼の部」と 1日に2回転している。子供の数に対して学校数が少ないためにやむを得ず、のようだ。 よって 朝の部は7時に始業、12時に終業。うちへ帰ってからお昼を食べる。休憩時間もごく少なく 学校とは子供たちにとって 「勉強」だけの楽しくない場所だ。そして 大抵のお金に余裕のある子供は 水泳とか 英語を習う。さらに熱心な親だと それプラス バレエだとか 柔道、音楽、デザイン、スペイン語、サッカーなどの習い事もさせている。うちの日本語教室の子供の生徒たちも 結構多忙で、昔は毎日来ていたのだが 今は一週間に一度ほど。 その中でも 突出して習い事に追われているHちゃんの毎日を紹介しよう。Hちゃんは子供の頃からうちの日系クラブで日本語を勉強している14歳の女の子。子供の頃は折り紙や日本の歌が大好きで、日本語クラスに来ることが大好きだった。負けず嫌いで テストでひとつ答えを間違えただけでも涙を流してだんまりを決め込むような子で、漢字もよく覚えていた。それが10代に入ってからというもの様子が変わってきた。勉強をせず 他の生徒と遊んだり、嫌がるようになってきた。漢字も難しくなっていくと共に 勉強したがらなくなり、文を作る作業も拒否する。今日も私が指示することみな嫌がるので、「漢字を勉強しなかったら、次のステップに進めないよ。ほら見てごらん。次のレベルにはもう振り仮名が振ってないんだよ。それに作文を書くのは 少しずつ文を書く練習をしておけば この先役に立つし、日本研修の選考があったって 大丈夫でしょ?」「別に次のステップに進みたくない。別に能力試験の2級は受けるつもりない。それに日本研修だって行きたくない。」いつにもなく反抗的だ。そこで 私は聞いてみた。「じゃあ どうして 日本語勉強しているの?」「おばあちゃんやお母さんが勉強しなくてはいけないといったから。勉強しなかったら大好きなバレエをやめさせられるから。」「漢字や文がいやだったら何がしたいの?漫画を一緒に読む?それとも音楽を聴く?」「それも嫌。何もしたくない。」彼女の親の教育は どこかおかしいと前々から思っている。子供の頃からハードスケジュール。朝7時から12時まで学校。2時から4時まで毎日日本語、そのあとすぐ水泳か 英語。帰宅時間が7時ごろである。いっときは 日本語、英語、スペイン語、テニス、水泳、エレクトーン、絵画を一度に習わされていたこともあった。2時から日本語、4時から英語、6時からスペイン語といった具合だ。今は日本語・スペイン語・英語・テニス・タップダンス・体操・バレエだ。まあ、ダンス、体操のほうは彼女が好きでやっているのだが そのほかは強制的にやらされている。見ている限り 親が絶対的な強さを持っているようで、全然文句が言えないようだ。そして親も 子供の頃はいろいろと習わされていたようで それがあとあと役に立ったと言っている。それでもこの子達のようにたくさん習わされなかったはずだ。能力試験でも 準備が出来ていない時期にでも親は強引に「やらせる」と言う。コレは本当に困る。子供はつかれきっていて、日本語を勉強する気力も実はなくて かわいそうでのんびりとやらせてあげたいのだが、実力も伴っていないのに 能力試験・・・。もし落ちたらその翌年も再試験・・・・。私が言っても聞いてくれない。この間の日本児童研修の選考に申し込んだときも 「日にちが自分たちが都合が悪いから変えてくれ。」、と 選考会員に直接TELしたりと 常識もない。 「Hちゃん、どうして嫌だったら お母さんにはっきりと言わないの?」こう 私が聞くと 彼女の目には見る見る涙が溜まり 顔を赤くして 黙りこんでしまった。悪いことをしてしまった。彼女には彼女の事情があって、母親に文句も言えないような何かがあるのかもしれない。まだまだ私は人の気持ちを理解する力量が不足しているようだ。
2004年09月16日
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