ココロの森

ココロの森

2008.04.16
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(左:単行本 右:文庫本)


宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。
何もしないひっそりした生活。
そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。
孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。
かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。
芥川賞作家が絶妙な語り口で描く、哀しく美しい孤独の三重奏。





この物語はいい!!!
今まで絲山さんの小説をいくつか読んできて
おそらくあと2,3作品で読破できそうなんだけれど、
中でもこの作品が飛び抜けていい!!!
154ページという短い物語の中に、人生の悲喜交々が凝縮されていて
珍しく中盤で落涙してしまった。


部屋で一人でじっくり味わいたい、
手元においてまた読み返したい、
そう思える数少ない本にまた巡り会えた。

この作品は第130回芥川賞候補だったそうなのだけれど
この時の受賞者は確か最年少記録を更新した若い二人。
なぜ、本作が選ばれなかったのか。
こういう良書こそ、話題になって多くの人に読まれて欲しいのに。





私は、お涙頂戴的に人の死を扱う物語が嫌いだ。
主人公の過去のトラウマや心の傷で読者の憐憫を誘う作家も苦手だ。

それらは程度や種類の差こそあれ、誰でも抱えているものなのに
それをさも特別な悲劇であるかのように描かれている文章を読むと



本書の中にも、そういった「影」の部分は出て来る。
主人公の男性は幼少期の体験から性的不能だし、大切な人を失ってしまったりもする。
でもそれは物語に起伏をつけるためだけのものではなく
ましてや、悲劇的に主人公を飾るものでもなく、
それにけなげに立ち向かう『こころの強さ』を強調するがゆえのエピソードでもない。


そしてみな、悩みながらも、それをそのまま噛みしめ、受け止めている。
誰のせいにもせず、もちろん自分のせいにもせず、
痛みを抱えた自分を、そのまま受け止め、生きている。
その真摯な姿勢が、潔く心地いい。

もちろん、そんな傷を自分ひとりでそのまま引き受けるにはつらすぎて
誰かに頼りたくなるときもあるけれど
そんなときも主人公たちは、「自分の輪郭」を崩さない。
大切な相手だからこそ、依存しない。
誰かがつらいときにはそっと寄り添う。
寄り添うけれど、踏み込まない。
自分がつらいときには、寄り添って欲しいと願い、友達や恋人に「たのむ」。
でも、「頼らない」。

登場人物ひとりひとりが、本当の意味でオトナであり、
自分と他者との距離のとりかたを、きちんと心得ていて「甘え」がない。
それが物語を安心して読み進められる所以でもある。



 外との関係ではなくて自分のあり方だよ。
 背負っていかなくちゃいけない最低限の荷物だよ。
 例えばあたしだ。あたしは一人だ、それに気づいているだけマシだ。



主人公に思いを寄せる女友達のこの台詞には
絲山さんが 真摯に 自分と向き合ったココロの軌跡が確かにある。




また、ぜんぜん役に立たない神様である「ファンタジー」の存在もいい。
見える人と見えない人がいるから、「ファンタジー」なんだけれど
なんだか俗っぽいいい加減な神様。
でも、その台詞が「さすが!」なのだ。


「役に立たないがゆえに神なのだ」

「俺に救われるんじゃない。自らが自らを救うのだ」

(「ファンタジー、なにかをするってことは前に進むってことなんですか?」)
「どっちが前かわからんがな。
 物事が連鎖するのは間違いないから、前に進む事もあるだろう」

「ただ、人間が生きていくためには俺様が必要なのだ」

「だから思い出せないのが一番正しいのだ。
 真実とはすなわち忘却の中にあるものなのだ」



いい加減な中で、ぽろっというひと言がいい。

「真実」を、どこにも書いていないところが、またいい。




この話はストーリー展開がすべての肝なので
ここに詳細を書けないのが歯がゆいのだけれど、
生きて行く上でおこるさまざまな出来事を
ただ淡々と受け止めて、仙人のように静かに生きる主人公のその姿勢こそが
あえていうなら唯一の『真実』なのだと思う。





意外な展開を見せる中盤からは、随所で涙がぽろぽろ落ちた。


  自分は本当に最初から最後まで手前勝手だった、なにもわかっていなかった



大切な人をなくし、主人公が自問するシーンでは
何かを突きつけられた気持ちになる読者も多いのではなかろうか。









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最終更新日  2008.04.17 03:21:05
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