ココロの森

ココロの森

2010.09.06
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失踪中の夫が帰ってきた。ただしその身は海底で朽ちていると。
死後の軌跡をたどる2人。心震わせる哀しく深いゴースト・ストーリー







とても静かな、
愛、 というより、 に満ちたお話。



ある夜更け、
主人公の女性は急に「しらたま」が食べたくなって台所に立つ。
すると隅の暗がりに3年前に疾走した夫がぼうっと姿を現す。

彼女にはそれが不思議でもなんでもなく
前もってわかっていたかのような感覚に陥る。
しらたまは夫の好物だったのだ。


ふたりは夫が 姿を消した 道を遡りはじめる。


「3年かかって歩いて来た」と夫の言う、
「その道」 を。









物語の冒頭と終わりに出てくる「しらたま」が
「たましい」の象徴でもあるように感じました。

つかもうとするとつるりと逃げて
やわらかで、ほんのりあまくて、
いつまでも味わっていたいのにすぐのど元をすり抜けていってしまう、、、





この、何十億という人々の中で巡り逢った
人生の伴侶と呼べる人との生活というのは


10年だったとしても、たった3年でも、

ふと 思い返せば みなおなじく
喉元を通り過ぎるしらたまのような
ほんの一瞬のあまやかさなのかもしれない。



通り過ぎた記憶はたしかにあるのだれど

ゆめまぼろしだったかのような。










彼岸から戻って来た夫とのふたり旅が
特別大きな事件もなく、ただただ淡々と続いてゆきます。

その、一見退屈ともおもえるようなふたり旅は
此岸と彼岸の境の川辺を
どちらにも渡らず、ただただずうっっと遡っていくかのよう。




なぜ、夫は もどってきた のか。

あの時、最後になんと言葉をかければ
夫は本当に「 もどってこられた 」のか。





いつか、必ず来ると分かっている「わかれ」が
すぐ先にあるのに、
ふたりはただただ寡黙です。


双方の、夫婦だからこその
言葉にならない気持ち。

それが、静かな筆致と世界とで
とてもよくあらわされていました。




心の隙間、
阿吽の呼吸、
夫婦だからこそさらけだせないもの、
どうしようもないずれ、、、



電車に乗り、バスに揺られ、
行く先々で様々な人と関わり合いながら
今まで知らなかった相手の一面に触れ、笑い、助け合うたびに、

でも、もうどうやってもとりかえしがつかない、
すべては「すぎさってしまったこと」なのだ、という
どうしようもない空しさとせつなさが胸に迫ってきます。




湯沸かし器や、滝や、波音など
ふたりの滞在する各地で水音が耳に残るのも印象的。

その水音は、時に激しく、時に優しく、
人生の川のようでもあるし、
体内を荒々しく巡る赤い液体のようでもあります。




相手の、今まで知らなかった一面を
滞在先の人たちが当たり前のように知っていて受け入れるさまは
なんだか前世の記憶を遡る旅のようにも思えたりも。








ひとはみな、「わかれ」へ向かって、
日々一歩ずつ進んでいくというのは
皆が知っていることだけれど

でも、自分が生きていると
(あるいは生きている人と一緒にいると)
そのことはなかなか実感できなくて

逆に、死者とともにいると
その事実がぐっ、ぐっと
それこそ一歩ずつ胸に迫って来る。


それはとてもかなしいけれど
とてもたいせつなことで
その過程を経なければ
生と死は、いつまでも断絶したままなのだ。


「死者は断絶している。生者が断絶しているように」


と、主人公の亡父や夫が言うように

生者と生者、あるいは死者と死者というのは
同類ゆえに隔てられていて
死者と生者というのは
異類ゆえに近しく、溶け合い、ゆるし合えるものなのかもしれない。




ゆるしたからといって
決して荷物は軽くはならず
ふたりぶんの荷物を持って
主人公は現実に還ってゆく。

それでも、その荷の重さは
「ふたりで生きた証」として
彼女の記憶に残るのだろう。


手や肩に食い込む程に重くとも
あたたかい思い出とともに。














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最終更新日  2010.09.06 22:39:18
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