文豪のつぶやき

2008.07.22
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カテゴリ: 時代小説
 河井は長岡に着いた。
 河井の目には崩れ行く長岡軍が映った。
「砲を用意せよ」
 河井は機関砲隊に最新式のガットリング・ガンを準備させると自らガットリング砲を撃ちまくった。
 ガットリング・ガンは機関銃の一種で、一分間に百発の弾を放つ。
 官軍の兵がばたばたと倒れた。
(凄い)
 官軍、長岡軍のたれしもが思った。
 ガットリング・ガンの威力がである。

(これなら勝てる)
 今までは刀槍か弾を一発ずつこめる火縄銃による戦闘であった。これではどんな有能な兵士でも一度の戦さでせいぜい二、三人を倒すことしか出来ない。
(ところがどうだ)
 この最新式の兵器はわずか一回の速射で数十名の兵が斃されてゆく。
 河井は高笑いをしたくなった。
(勝てる。勝てるぞ)
 官軍は新型兵器の前に潰走をしはじめた。
 河井は特設隊の方を見やると、
「おめさんがた、退屈したろう。存分に働いてくだせえの」
 と云った。
 五人の目がきらっと光った。

 伊藤が斬り、矢口が刺す。戦場はまさに屠殺場と化した。
 形勢は長岡軍に有利に展開しだした。
 その時、ガットリング・ガンを撃ちまくる河井の左肩に敵の飛弾がはじけた。
 河井は、両足を踏ん張り辛うじて倒れることからまぬがれた。
(骨が砕かれたか)

「執政」
 横にいた機関砲隊の若い隊士が声をかけた。
 河井は脂汗を流しながらも、
「大事ない。大事ない」
 と云った。
「しかし」
 隊士が見ると、左肩がみるみるうちに血で真っ赤に染まった。
 近侍していた数名の者が、河井のもとのばらばらと駆け寄った。
「執政、とりあえず退却しましょう」
 手当てをしながら一人が云った。
「いや」
 河井はかぶりを振った。
「今下がってはせっかくの戦機が失われる」
 そこへ急報をうけた五人が戻ってきた。
 伊藤は負傷した河井をみると逆上した。
「おのれ」
 官軍に向かって飛び出そうとする伊藤に、白井と加藤が抱きつき止めた。
「伊藤さん、無駄だ」
「とにかく城に戻るのだ。河井先生が先だ」
 青木が云った。
「いや、いま退いては」
 という河井を遮り、矢口は、
「先生、こらえてください。なあにまだまだこれからですよ」
 からっと云うと近侍の者に指示し、河井を無理矢理担架に乗せ長岡城まで運ばせた。





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最終更新日  2008.07.22 23:40:03
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