文豪のつぶやき

2008.07.29
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カテゴリ: 時代小説
 白井は足軽横町の辻に出た。
 そして、左に折れ新町に向かって駆けに駆けた。
 新町では白兵戦が行われていた。
 薩摩兵らしいのが三十人、長岡軍はわずか五人である。
 伊藤と矢口はいない。
 白井は白兵戦に飛び込んだ。
 白井のまわりを十人の薩摩兵が囲んだ。
 皆、独特の構えをしている。
 薩摩藩の剣技は示現流である。

 あとはない。
 いわば捨て身の剣法で初太刀をはずされればなすすべはない。斬られるだけである。
 しかし、この初太刀を防いだ者はこの幕末の時期ほとんどいない。
 薩摩兵がその独特の掛け声とともに一閃すれば相手は常に二つの肉塊と化した。
 それほど凄まじい。
 薩摩兵は次々に白井の体めがけて刃をふりおろした。
 白井はそれを髪の毛ほどの間合いでよける。
 ふれれば即死である。
 薩摩兵のふりおろす刀の風圧が白井の顔をなぶる。
 白井はいなごのように飛び回りながらもキラッキラッと切っ先を返してゆく。
 またたくまに五人の薩摩兵を斃した。

 が、白井はなおも手をゆるめない。
 天才、といわれた白井の剣は舞を舞うように優雅に流れてゆく。
 また薩摩兵が三人たおれた。
「引けえ」
 隊長らしき男の声で薩摩兵は四散した。

 倒れている薩摩兵の袖で血糊のついた刀を拭うと、町屋の軒下で壁に寄り掛かって休んだ。





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最終更新日  2008.07.29 09:56:07
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