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前へ プロローグ ジェロームの声が追いかけてくる。アーロンは駆ける足を止めない。いつもジェロームの後を追いかけて育ってきた。だから今日くらいは、自分を追いかけてくるジェロームも気にせず、走りたかった。自分が育った孤児院。コルシカ島の山と海に挟まれた草原。春には黄色いミモザの花々に彩られ、夏にはブドウ畑の木々と旅人が賑わいをもたらす。秋には収穫を喜びながら冬の準備をする。冬は冷たい山おろしに耐える。そうやって唯一つの『家族』とともに生きてきた孤児院。アーロンは丘の上に上り、孤児院のある草原や、その向こうの海を見渡す。ジェロームが追いついてくる。見上げた空。見晴るかすコルシカ島の山々とそこから広がる草原。そして信じられないほどの青い海。海も、陸も、空も、全てがブルーに染められている。アーロンはジェロームに語りかける。「みんな、いなくなってしまったね」「ああ」ジェロームも同じことを感じているのだろうか。力強いまなざしが影をおび、優しさをたたえる。「ママに会いたいな」「ああ」アーロンは孤児院を開いて自分達を育ててくれたマダム・プチエの顔を思い浮かべる。「アリムやカロリーヌやマリーや、あのジョゼでさえ、懐かしくてたまらないよ。会いたいな、この家で暮らした皆に」「ああ、そうだな。俺も、会いたい」「でもね、僕が一番会いたいのはね、やっぱり、ジェロームだよ」『ああ』と声が聞こえたような気がしたが、そこにもうジェロームはいなかった。夏のはじめの風が吹き、アーロンのブロンドの髪をふわりと浮かせる。「みんな、いなくなってしまったね」風が答えることはない。昔、孤児院に宿泊した旅人がつぶやいた言葉を思い浮かべた。『コルシカ島は、草や木までもがブルーに染まっているね。青がキレイだ』ジェロームはその青に、アーロンの瞳も染められたのだろうといった。その青には、いつも幸せがうつっていたはずだった。そう、アーロンはたしかにここで、幸せだった。しかし孤児院にはもう誰もいない。アーロンが一人、丘の上から見下ろしているだけ。アーロンの瞳から、涙が一粒、二粒、そしてとめどなく流れた。涙までもが、爽やかな青に彩られている。 アーロンは涙をふいて、それでもまだ滲む目で草原を、海を見る。空と海の青に染められた大地の青。青に浄化された人間の心。それら全部を含めて、それを本当の、青という。コルシカブルーを、青という。コルシカブルーに彩られ、いくつかの捨てられた命を優しくはぐくんだ孤児院は今日、取り壊される。一章へ
Aug 18, 2008
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Aug 12, 2008
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