文の文

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sarisari2060

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2004.01.30
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カテゴリ: エッセイ
本日は東京ドームで開催されている「東京国際キルトフェスティバル」へ足を運んだ。

東京ドーム。普段は野球を生業とする大きな男たちが駆け回るフィールドに、女たちの静かな時間の結晶、渾身のキルトが色とりどりに満ちていた。

アメリカニューヨーク州のフェニモア美術館所蔵の18~19世紀に作られたキルトやそれと同時代にフランスプロヴァンスで作られた「ブティ」「ピケ」を見た。キルトは文化であると、きちんと評価されているのだと感じ入る。

それでも、歴史の向こう側でたくさんの名もない女のひとたちが、家族や友人を思いながら、あるいは自分のなにかを証明するために一針一針縫い続けた作品が、暮らしのなかでそれぞれの用をなしながら、長い時間を経て、ここに至っているそのめぐり合わせを、私は単純に喜んでいる。

布を選び、デザインを考え、出来上がった作品を思い描きながら、忍耐強く縫い続ける。300年という時間の流れを超えて、同じ思いがこのフィールドに満ちている。それがうれしい。

ウズベクスタンの伝統の手刺繍「スザニ」というものをはじめてみた。宇宙や人生を現すデザインもいいし、なによりその手仕事のもつ素朴なあったかさに胸が熱くなった。婚礼のお祝いにと作られた刺繍の針目を見ながら、それが使われたシーンや暮らしを思った。

田川啓二さんのゴージャスで緻密なビーズ刺繍に目を見張った。ビーズの前であこがれと賞賛のため息が繰り返し聞こえた。その作り主はまことにハンサムな若い男性だった。

こういう大きな展示会では個々の作品の印象は散漫になる。
たくさん見たから、たくさん忘れてしまう。作った人への礼儀、そこに費やされた時間と労力に対する敬意やねぎらいの思いを欠いてしまいそうな気がしてならない。



技巧を凝らした作品が溢れる中で、香苗さんの作品はシンプルな四角つなぎだった。明るい色、かわいい絵柄、その一枚一枚の布を香苗さんは大好きなんだなと分かる。

キルト界のはやりすたりなんかとは関係なく、自分が大好きな布を生かすためのそのなんでもないデザインが、うれしかった。

休憩場所になっている三塁側の観客席、普段は応援の声が響く場所で、会場全体を眺める。展示場やショップに人が沸いて出るように溢れている。そこにいるのは、おおむね中高年の女性だ。

ショップをのぞいていたひとが手荷物をもって観客席の階段を上がってくる。何を買ったのだろう。布だろうか、かばんのもち手だろうか。大きな産業なのだなと改めて思う。ちっぽけな布切れが縫い合わさって大きなキルトになっていくように、この産業も大きくなっていったのだろうなあ。

山葡萄のかごを買おうか買うまいか迷っていたら、店員さんがおまけしますと言ってくれた。2千円もまけてもらってうれしくて、その2千円で水牛の角のブレスレットを買った。
そう、もう金輪際布は買わんぞ!と引越しの時に誓ったのだから・・・。







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Last updated  2004.01.31 00:12:51
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