文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2004.07.22
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カテゴリ: 未分類
同じく水曜のこと。帰りの山手線で、ドアの点検だとかで電車が止まった。待っている間中、隣にすわった女の子が前にたつ男の子に、鼻にかかった声で話す。

「あたし、夏休み、一日に一冊本読むことに決めたの。おとうさんにそう言ったら一万円くれたの。でもね、文庫本で薄いので一冊500円として60日あるんだから3万円かかるから、足んねえよ、とか思ってんの」

「へーおまえってお嬢なの?」
「おとうさん、社長」
「へっ?」
「えーと、薬局やってんの。大田区のひとがみんな健康になったら倒産するかもしんないけど、春と秋はあんまりよくなくても、夏と冬は処方箋がいっぱいきて儲かるんだって」
「病人で儲けるのか。そういえば医者も病院もそうなんだな」
「あんまりよくしんないけど」

聞くつもりがなくても聞こえてきてしまう。大学一年生同士の会話のようだった。電車内の明治大学の広告の反応していたので、そこの学生なのかもしれない。



そうこうしているうちは話はどんどん飛んでいく。

「で、あたし、大学院いきたーい」
「行ってなにすんだよ」
「文学のお勉強」
「ああそうですか。おれはわからんな」
「ね、大学院って何年?二年?四年」
「うーん。二年が三年かな。よくわからない」
「絶対大学院でたほうがいい会社に入れるでしょ」
「まあな」

そうでもないこともあるみたいよ。

話が途切れたなと思うと彼女は鞄から貯金通帳を出して眺めている。気になってこちらも、ちらと眺めてしまう。



「一万もないんじゃん」
「でもさあ、これからバイトしたらお金はいるし、使わなかったら10万円になるんだよ。10万円って打ってある通帳みたみたいじゃない」
「でもやっぱ使うだろう?」
「ううん。おかあさんとかに借りるの。10万円て打ってもらってから使うの」

そういうもんかなあ、と思っているうちにいつの間にか動き出した電車がわたしの降りる駅に着いていた。


と話は続いていた。

階段を上りながら「文学のお勉強」とつぶやくとなんだか頬が緩んできた。自分にもあんな時代があったのかもしれない。






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Last updated  2004.07.22 07:28:13
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