文の文

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sarisari2060

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2004.09.22
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カテゴリ: 未分類
息子1と連れ立って新宿を歩いた。

「おかあさんと二人だけで出かけるの、久しぶりだね」と息子が言う。吐き出す息と一緒に出てきたような言葉だった。

年子の長男である彼は、ものごころついたときには弟がいて、どんなときもおにいちゃんであるという現実に追いかけられてきた。

甘えたいと思ったときに、わたしの膝にはいつも弟がいたにちがいない。彼が独り占めできるものは少なかっただろう。

4月生まれの彼が楽にこなすことを1月生まれの弟はいちいち躓いた。かあさんは弟ばかりを気にかけていたから、彼はいつも寂しかったのかもしれない。

かあさんの言うことをちゃんと聞いて、聞き分けのよいおにいちゃんでいる時間が長くて、だんだんしんどくなっていたのかもしれない。期待されることと現実の距離が開いていくことに耐えられなかったのかもしれない。

そんな長い時間を取り戻すように、今、彼は家にいる。わたしと過ごす日も随分と長くなった。

そんななかで、この秋からカルチャーのシナリオの教室に行ってみようかな、と彼の心が動いた。未知のことだから、ちょっと興味がある、と言う。

その申し込みに新宿まで彼と連れ立って歩いた。家にいれば伸び放題のひげがそられ、髪も整えた。



何年も通っているのに未だに迷いそうな新宿駅からの道順をものしり顔で教える。息子はうんうんとうなづく。

「平日の昼間なのに、人が多いね」と彼が言う。「新宿だから」とわかったようなことを答える。

人波を縫いながら、連れ立って歩く。聳え立つビル群のなかに吸い込まれる。

申し込みのカウンターで、カルチャーなどとは無縁に過ごしてきた彼の視線があちこちに飛ぶ。「取材だって思えばいいよ」と言った言葉を思い出したのかもしれない。

「昼間のカルチャーはお年寄りの独壇場だね。みんな似たような顔をしてるように見えるね」と言う。
「かあさんもそのひとりだよ」
「あ、ごめん。ははは」
「ははは」

秋になったら、またこの道を連れ立って歩こう。





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Last updated  2004.09.22 23:20:17
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