文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2004.10.15
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カテゴリ: ポスティング
「青少年に有害なチラシおことわり」と書いてある郵便受けがある。ああ、そうだ。チラシという語感のなかにはそういうイメージもある。相手の都合などおかまいなしに無遠慮に舞い込んでくる毒素のようなもの。

でも、これはそういうものではないのよ、と胸を張っていうことはできるけれど、それでも「広告チラシお断り」とチラシの紙の裏にマジックで手書きされた貼り紙に出くわすと、ああ、このお宅にとってはいやなもんだな、と思ってしまう。

犬にも吠えられる。ドキンとする。お前は誰だ?誰だ?誰なんだ?と問うように執拗に吠える。小型犬ほどよく吠える。犬は決して嫌いではないが、どうも具合が悪い。

「あやしいもんじゃないってば」と言って通じる相手じゃない。さっさと通り過ぎるしかない。まあ、あやしいひとは「はい、わたしはあやしいおばさんです」なんて言わないよね。

ちょっと高台の一軒屋があり、10段ほどの石段を上がって入れに行く。郵便受けに手を伸ばしかけたところで、後ろから「なにか?」と声をかけられた。これまたドキンとする。

だから、あやしいものではありません、という言葉を飲み込んで、「失礼いたします。チラシを配ってます。よろしければ」と差し出す。

しっかりしたおばさんなのだろう。こちらを値踏みしているのがわかる。チラシを一瞥して「あ、いらない」と突っ返してきた。「失礼しました」と言い、背中に視線を感じながら階段を下りた。

散歩中のアフガン犬を並びながらチラシを配ったこともある。毛足も足も顔も長い優美な犬がゆったりゆったり歩く。ぷんとけもの臭がする。煙草を吸い過ぎたような声の中年女性がリードをひいている。

「もういいの?気がすんだ?帰るわよ」と言いながら自宅らしい家のドアを空けた。そこも一軒家なのでチラシを入れる。


「あ、いらない。もったいないから持ってって」とドスのきいた声で言われる。
「失礼しました」

なんだか失礼ばっかりしてるなあ。

一階がガレージで二階に住まいがある家があった。チラシを入れようとすると向かいの家の奥さんが出てきて、「そこは今は住んでないから入れないで」と言った。

空き家は入れろといわれているのだけれどなあ、と思い、ためらっていると、「そこ寮かなんかだったのよ。引っ越しちゃったみたいよ」と奥さんは言葉を継いだ。

寮なら入れなくていいや、と安心する。でもその奥さんは「うちもいらないわ」と言う。そう言いながら「ご苦労さんね」と言う。気分が上がったり下がったりする。


関電工とかの電気工事のひとが道に何人もいた。おおきな重機を避けながらチラシを配る。路地を出たり入ったりするもので、何度も出くわす。そのたびにちらちらと見られているような感じがする。

深い路地の先の先までいってまた舞い戻ってきたら、そのひとたちがお弁当を開いていた。地べたにペタンを腰を下ろして、黙々と食べている。それがちょうど門の郵便受けの前だったりする。うーん。また目があってしまう。こまったなあと思いながら「失礼します」とその後ろに回る。

がっしりとしたからだの実直そうなおじさんのおおきなお弁当には、ぎっしりとご飯が詰まっているように見えた。ご飯をほおばった顎が大きく動いていた。ああ、お腹空いた。

路地の先から別の道を行くと、だんだん自分がいまどこにいるのかわからなくなってしまう。地図を取り出して斜めにしたりさかさまにしたりして、来た道を探す。

と、そのとき、油断したのか、手にしていた40枚ほどのチラシを落っことしてしまう。



晴れた日でよかったなあ。雨の日に配ってこんなふうに落として濡らしてしまったらどうしたらいいんだろうなあ。考えるとドキドキする。

ちっともドキドキしなくなって、うつむくことも天を仰ぐこともなくなって、当たり前の顔でこの道を歩くようになるまでには、きっと、もっと、いろいろあるんだろうなあ。





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Last updated  2004.10.16 02:49:40
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