文の文

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sarisari2060

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2006.06.07
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カテゴリ: 読書感想文
読めといわれて、よしもとばななの「イルカ」を読んだ。

ものがたりというのは書き手は読み手の手をひいて
その世界に誘い込むものだと思っている。
てだれの書き手のいうのは一種のタラシだな、とも思う。

で、書き手はあるところで読み手の手を離す。
決して親切に山の頂上までガイドしてくれない。
たとえば行間を読むなんてこともそうだし
あとはあなたの想像力で読んでくださいということであり
それがものがたりの余韻を生む。


このイルカという作品の途中で
なんどもばななさんに手を離されたような気分になった。
ありていにいうと「ようわからんな」と呟くことが多かった。

その繋いだり離したりの繰り返しを重ねてものがたりは
あたらしいいのちの誕生を描くのだが、
おもに何がわからんかというと
主人公の女性の感覚的なもの、ものごとの捉え方だ。

妊娠した女性の思いの不安定さにくわえて
この主人公の抱える生きづらさ
所属しないという選択
そういう余人にはわかりえないものが

へー、そういうもんかなあと思うには思うのだけれど
わたしはなんだかおいてけぼりになってしまうような気がするのだ。
くるりと身を翻るひとのスカートの端っこだけが視野に残るような感じだ。

でも次の瞬間はまた手を繋いでもらって
主人公に繋がる


そうやって最後まで読みきってしまうと
その点滅するようにわかることとわからないことが
現れることの意味がなんとなくわかってくる。

わかることはわからないことを支え
わからないことはわかることの奥行きなのだ
ということがわかってくる。

主人公の妹やご飯を作ることや恋人の五郎のことばは
とてもよくわかり、それらは主人公を支えるものである。
そうやって支えられている主人公のよくわからない思念は
よくわかるものたちの陰影になって
このものがたりに深みを与え
より立体的に際立たせているのかもしれない。

そしてまた。このわからないもの、得体の知れなさを抱えることが
妊娠するということなのかもしれない。

よきもの、あしきものを感じながら妊婦は胎児とともに日を送る。
そのなかで見えてくるものが感動的だ。

マミちゃんという女性との精神の結びつきもとても美しい。
五郎の思いもあたたかい。妹の存在も大きい。

あたらしいいのちの誕生が世界を変えていく。
主人公もまわりのひとも変わっていく。
要約してみればそういうことになるのかもしれないが
このたぐいまれな感性は妊娠をこんなふうに描いた。






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Last updated  2006.06.07 10:39:25
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