文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2007.01.12
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カテゴリ: エッセイ
知り合いの年賀状に右目の視力を失ったとあった。

なにごとが起こったのかと連絡を取ってみると
眼底出血をして、その場所が運悪く視界のど真ん中で
今はひかりとぼんやりとした輪郭しかわからないのだという。

原因は高血圧、睡眠不足、強いストレスで
彼女の眼底出血というのは
脳溢血が目のなかで起こったようなものなのだという。

今はもう片方の目が見えるので
生活はそれなりに出来るが

いつもあるらしい。

「不眠がひどくて睡眠薬をもらってたんだけど
それが効かなくなってて
あまり強い睡眠薬を飲み続けるとぼけるっていうんだけど
目が見えなくなるのとぼけだったら
ぼけのほうがマシだと思って、強いのを飲んでます」

究極の選択のように聞こえてくる。

「ああ、そうだったんですか。
つらいことを聴いてしまって、お気に障ったらごめんさいね」

「あなたも本読んだりパソコンに向かったりするから
目は大切にしたほうがいいですよ。


どちらかというと物事を選び取ることに
ためらいを持つタイプのこのひとのことばが
いつになくきっぱりとしていた。

「なんか感じが変わられましたね」

「そうかもしれません。

今回ばかりは実感しましたから」


失うことはつらい。

ほかのだれでもない、わが身だけが知るせつなさを
生き続ける限り、
なんとか飼いならしていかねばならない。

わたしも経験したことだが
あたりまえに身に備わっていた機能を失うことは
その身になってみなければわからない。

そんなふうにたいせつなものを失った人間は
いままでとは違う場所に立っている自分に気づく。

その境界線にたった人間だけが見る風景は
こころのありようを変えていく。
大切なものの順番も変わっていく。

「いままでいろいろ考え込んだりしてましたけど
こうなってみると、
もうそんなのどうだっていいような気がしてます」

もうどう思われてもいいから
自分のことを大切にするのだとも言った。

ああ、あのひとも変わったなあと思っていたら
王さんがテレビのインタビューで同じことを言っていた。

もうどう思われてもいいから
言いたいことを言うのだ、と。

失うことがクリアにしてくれるものもある。







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Last updated  2007.01.13 00:21:12
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