文の文

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sarisari2060

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2010.09.21
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カテゴリ: エッセイ


今年大学を卒業した社会人一年生の青年である。
ある文学賞が御縁で知り合ったひとだ。

デパートの包装紙の下の美しい桐の箱のなかには
垢ぬけた今様のお線香が並んでいて
アロマコーナーのような清潔感のある薫が湧いてでる。

添えられた一筆箋の冒頭には
「御母堂様三回忌の御法要にあたり
謹んで哀悼の意を表します」
というかしこまった言葉が並び
それを読んで、
こちらもしゃきんとかしこまる。

思わず「まあどうしましょ・・・」
と言ってしまう。
家族は軽く「使えばいい」と言う。

「そういう問題じゃなくて・・・」
と口ごもりながら
どういう問題なのかと思案する。


この青年は、2年前、
姑である「ばさま」の告別式の日
わたしの友人のなかでただひとり
電報を送ってきてくれた。
彼はまだ大学生だった。

その時も大いに感謝し、恐縮し
その若さでそういう心遣いができることに
心揺さぶられた。

恥ずかしながら
このひとよりも30数年年上のわたしは
そういうことをしたことがない。

これまでそういう距離感で
ひとと付き合ってこなかったんだなと
反省を込めて感じ入る。

地方の大家族の長男として育った境遇が
育んだのかもしれないし
このひとの資質なのかもしれないが

誰かを大切に思うこと
その思いを形にして伝えること
わすれずにいること
自然にそうすること
そのすごさ。

ことひとからはいつも
たくさんのことを学ぶ。


一筆箋の言葉は 
「今年も九月の暦の秋分の日の文字に
ばさまの笑顔を思い出しました」
と続く。

そう、こんな笑顔だった。

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ばさまの生前、ネットで書いた
遠距離介護の日記のあれこれを読み
ばさまのことを忘れずにいてくれることが
もうもう有難く、
ほおーっと、心温かになる。

昨晩お礼の電話を入れると
猛烈に忙しい日々なのだという。
そんななかの気遣いがいよいよ有難く
電話口で頭を下げたのだった。


今、いろいろあるなかの
ひのきの薫のお線香に火をつけて
そのまっすぐな薫を嗅ぎながら

「次はいつ、ばさまの話が現れてくるのか
楽しみにしています」
という一筆箋の最後の一文を
ぐっと噛みしめている。









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Last updated  2010.09.21 09:44:50 コメントを書く


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