文の文

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sarisari2060

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2011.03.24
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カテゴリ: エッセイ

空の中
来年で70歳になる宮じいという人が出てくる。
四国高知の仁淀川の知る人ぞ知る川漁師だ。

この宮じいと佳江という女の子が交わす
土佐弁の会話が、
今、とてもこころに響く。


****

「ねえ、宮じい」佳江は尋ねた。
「何かいっこ間違ったとして、
間違った方向へどんどん押し進んだら
そのうち正解に着くと思う?」

「ようわからんが、間違うたほうをずんずん行っても
正解にはならんろう。
正しいように見えるとしたら
それはそう見えるように取り繕っちゅうだけよ」

「いっぺん間違ったことを正解にすることはできる?」

「そらあ無理よ
いっぺん間違うたことは間違うたことよ。
それは人間がごまかしても
世の中とか道理とか
そういうもんがしっちょらあ。
それが間違いじゃとね。

どれだけ上手にごまかしちょっても
後になったら
間違うちゅうもんは間違うちゅうと
ちゃんと分かってしまうもんよね。

ごまかそうとすればするほど
後の揺り戻しはひどうなるわね」

「じゃあ、間違ったらどうしたらえぃと思う?
間違ったら、もうどうしようもないが?」

「ないのう。

間違うたことを正しかったことにしようとしたら
いかんわえ。
神様じゃないがやき
あったことをなかったことにはできん。

間違うたことは間違うたと認めるしかないがよね。
皆、そうして生きようがね。
辛うても、ああ、自分は間違うたにゃあと
思わんとしょうがないがよね。

人間は間違う生き物やき、
それはもうしょうがないがよね。

何回も間違うけんど
それはそのたびに間違うたにゃあと
思い知るしかないがよ

間違うことをごまかしたらいかんがよ。
次は間違わんと思いながら
生きていくしかないがよ。

けんど、わしはこの年になっても
まだまだ間違うぜよ。
げに人間は業が深い。
死ぬまで我と我が身を律しちょかないかんがやき」

「間違ったことでーー誰かを巻き込んだら
それはどうしたらえいが?」

「そらぁ、謝るしかない」

「でも、誤っても許してもらえんようなことやったら?」

「それでも謝るしかないわえ
 …
 許してもらえんかったら仕方がないわね。
許してもらえんようなことをしたがやと
やっぱりそれも思い知って覚えちょくしかないがよね」

****







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Last updated  2011.03.25 12:34:41 コメントを書く


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