文の文

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sarisari2060

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2011.06.06
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カテゴリ: エッセイ


1926年6月6日生まれの85歳。

おめでとうございます、と電話すると

「足が痛くて伝い歩きしかできなくて
ひきこもりなの」

そんな答えが返って来る。

小さくなった千鶴子さんが
手すりにすがって進む姿を思いうかべて
「あらら」としばらく言葉がでない。

思い直して
「いやいや、こちらもおんなじです」
と告げ
脊柱管狭窄症のだましだましの説明をする。

「調子が悪いときは駅に行きつくまでに
5回休むことがありますよ」
と私。

「あら。わたしの方がマシだわ。
休むのは一回ですむもの」
と千鶴子さん。


年は離れているけれど
同じ痛みを分かち合う。

…それは私の方に問題があるのだけれど…


その痛みのせいで
習い事などいろんなところに
出かけられなくなっていくことも同じだ。



「短歌の教室のみんなでご飯を食べにいくとき
連中はさっさと歩いていくのよね。
その背中をみて
その後をとぼとぼ歩くの、もういやになったの」

こちらのペースにあわせて
待ってもらうことを良しとしない矜持が
静かに伝わってくる。

「足が痛いからって、
会計を変わってもらえたから
それがうれしくてしかたないの」

なり手のなかった会計を
十数年も引き受けて来た。
「わたしはお金の交通整理をしてるだけだから」
といいながら、律儀にこなしてきた。
それを、足が痛くなってやめる。


老いは容赦なくやってきて
多くのものを奪っていく。

炊事や洗濯がたいへんになってきて
ケアホームに入った友人が
うらやましくなったりもする、という。


かつてはなんでもなかったあれもこれもが
できなくなっていく日々のまんなかの誕生日。

「なかなか死なないもんね」

そんな言葉を聞いてしまう。
うちのばさまが数えきれないくらい言った言葉だ。

千鶴子さんの口からは初めてだ。
また「あらら」の思いになる。


それでも、通っている「もみやさん」は面白くて
小説でも書けそうな気がする、という。

「もみやさんには訳ありの彼女がいて
その車のナンバーが「3535」なのよ」

そのひとはべっぴんさんで
ふたりはなかよし、で、と
千鶴子さんは「3535のおんな」の観察を
続けているらしい。
好奇心はまだまだ健在だ。


そんな話の途中にキャッチホンが入った。
友人かお孫さんからの
おめでとうの電話かもしれない。

そうならいいな。












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Last updated  2011.06.07 00:49:59 コメントを書く


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