文の文

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sarisari2060

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2011.11.30
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カテゴリ: エッセイ



新幹線の回数券二枚もらって
好きな時間を選んで旅立つ。

文袋まみれの日々をお休みして
文さんだったり
ハンサンだったり
文ちゃんだったりした
あたしのためだけの時間。

宿は家人の実家。
ばさまが亡くなってからは無人の空間。
とりあえず仏壇の線香をあげて
手を合わせる。

「ただいま」

ここでは
掃除洗濯も飯づくりもなし。
出来合いの食料を調達して
こーこさんを待つ。

滋賀県から車でこーこさんがやってきて
ノンアルコールビールを飲んで
なんやかんや食して
途切れることなく話はつづく。

日々のたいへんなこと
やりきれないこと
世の中のこと
原発のこと
アジアの隣人の傍若無人ぶりへの不満
若かりし日の武勇伝
こーこさんおお父さんの伝説

心痛めたり、憤慨したり
驚いたり、大笑いしたり

なんだろうなあ。
指先からすーっと屈託が抜けていく感じ。
ひとときの語らいが
徐々に自分たちを新たにしてくれる実感。

気がつけば時間は0時半。
おお~、もうこんな…。

「また会おうね」


翌日は朝から紅葉の百万遍の知恩寺へ。

知恩寺.jpg

お墓の草取りをして手を合わせる。
めったにないことなのだけど
ばさまたちに、ちょっとお願いことなどしてみる。
自分ではどうしようもないことを願う。


午後一時、四条河原町にてムゲと待ち合わせ。
ムゲは乳がんの手術をした友人だ。
毎日放射線治療に通っているものの
もう以前と変わらないくらい元気なのだという。

それはよかった、と安堵しつつも
それでも心配の種はある。
もともと細いのだが、
やはり痩せたな、と思う。

食事のあと、八坂神社から高台寺へ歩きながら
たくさんのことを話し
ふふふ、と笑いあう。
高校時代とおんなじ。

ムゲがあたしの家に来た時、母が
「おざぶあてておくれやす」
「あいやのばしとくれやす」
と言ったそうだ。

そんなきれいな京都弁を初めて聞いたという。
30年以上も前のその言葉を
ムゲは今も覚えている。

「やさしそうなおかあさんやったなあ」

いっしょに居た時間の思い出。

いっしょに居なかった時間のことも聞き
彼女はあたし以上に
たいへんな時間を過ごして来たのだと知る。
時給830円の暮らしはたいへんだった、とか。
職業訓練校へ行って、職を得て
ようやく落ち着いたと思ったら
今度はこんなたいへんな病気になってしまって…

それでも彼女が生きていてくれることが
あたしにはうれしいことで
いっしょに過ごす時間がとても貴重で
この日みた夕日は

ゆうひ.jpg

きっと一生忘れないと思う。


30日は朝から
庭になっているユズを切ってご近所に配る。
いずれは京都に帰り、住むことになる町内の足固め。
ふふふ、意外と策士。

さても、二泊三日の夢の時間も終わる。

あれこれ後片付けして
家を出て、駅にむかい
あたしの実家に連絡し、
兄嫁に会いにいった。

実家でもあれこれ難事があり
気をもむ兄嫁の愚痴を聞いた。

「人生、わからんもんや。
こんなことになるなんてなあ」

ずっしりと重い言葉だ。

だから、今日一日をしっかり暮らすのだと
兄嫁は言う。

あたしに出来ることは
この言葉を聞くことだ。
それ以外にはない。

「気つけて帰りや」

そんな言葉に送られて
駅に向かった。


こんな時間が持てたことに感謝しつつ
品川で降りる。
平日の午後七時、
勤め帰りのひとが満ちる構内にまぎれた。
日常に帰った。





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Last updated  2011.12.01 06:49:01 コメント(3) | コメントを書く


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