記憶の記録

2009.08.10
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カテゴリ: 住宅革命
あらためて仕事をする気構えで現場に立つと、わくわくするような、体を動かしたくて仕方ない衝動に駆られる。しかもこの家はいたるところに問題点が隠れているのだ。僕にとってこれほど嬉しい仕事はない。どうしても顔がにやけてしまう。僕には高山邸を究極の家にするという使命があり、それは既に僕の心を鷲づかみにしてしまっている。当分は、飽きることのない楽しい作業が続くのだ。これが笑わずに居られようか。
僕がまず初めにしなければならなかったのは高山との意思の疎通だった。この家に対する高山の思いや将来の住まい方を僕は全く聞いていなし、僕が彼の家に何をしてやれるかを正確に伝えなければならない。家創りではこれはとても大切なことだ。クライアントと建築家の意思の疎通がなければ思い描いている家になる筈もない。しかし、高山の家は既に着工してしまっている。そして早急に変更しなければならない部分がある。これを直さなければ工事を進めることは出来ないほど致命的な過ちがあった。
僕は、高山にこの家が目指すべき完成形を提案し、その事を話し合いながら意思の疎通を深めていく事にした。

「高山、この家のことで提案がある。完成したときの家の性能を今決めてしまおう。目標となる性能が決まっていなかったら、仕様を決める事が出来ない。」

「へー、今の段階で性能を決める事が出来るのか。依存はない。どんな風に決めるんだ?」

「どんな風にということはない。とにかく、まず決めるのだ。まず、島根の冬は雪が降るだろう?しかも、湿度も高い。ならばまず断熱性能を決めていこう。暖房しなくても暮らせるほど暖かい家にしたいとは思わないか?」
高山は僕の顔を見てにやりとしながら、
「シード!おまえ島根の冬を知らないだろう。断熱せずに暮らせるほど山陰の冬は甘くないぞ。この地方の冬は雪が降り、且つ湿気が高いのだ。暖房せずに暮らせる筈がない。」
「それはわかっている。暖房機がなくても暮らせる家というわけじゃないんだ。ただ、暖房せずに住宅内を15℃以上に保つ事が出来るようにしたいのだ。15℃では少し寒いが凍えるほどじゃない。カーディガンを一枚羽織ればなんとか寒い思いをせずにすむだろう。15℃を維持できたら暖房負荷を約1/3にする事が出来る。これは家計への負担もかなり減るはずだ。」

「任せておけ、取って置きのアイディアがあるんだ。まず、決めなければならないのは気密レベルと断熱レベルだ。」
高山の家の基礎はいわゆる <べた基礎> だった。床下を換気する目的で基礎パッキンという建材を使用していた。
基礎パッキンは基礎コンクリートと土台の間に設置され、20mm程の換気用の隙間を作る。その隙間を利用して床下を換気しようというのだ。しかし、これには大きな落とし穴があった。この家の致命的な過ちの一つがこれだった。
床下の乾燥は居住者の健康にも、建築物の耐久性にも影響する重要な部分だ。木材は乾燥するほど長持ちし、カビやキノコなども生えにくくなる。しかし、乾燥するためには換気すれば良いというわけではない。特に夏は床下の気温が外気より低く換気するほど相対湿度が上がってしまう。殆どの床下は夏季に露点を超えてしまっているのだ。これは、基礎を断熱せず、むやみに換気したことでおきる現象だ。この家の立地条件は北側に山があり、湿気を帯びた空気の下降流が絶えず流れる。基礎パッキンでは、この湿気に対応できない。しかも、山間部には数百種類の昆虫が生息している。床下に隙間を作るということは、床下の環境が好きな虫たちに快適なテリトリーを供給する事になり、更にその天敵たちを招き寄せる事になる。蟻のような小さな昆虫をげじげじやムカデが狙う。トカゲやヤモリ、蛇と連鎖していく。昆虫や小動物の食物連鎖は、厳然と存在するのだ。
僕は、基礎を断熱・気密化し、この問題を解決しようと考えていた。









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Last updated  2009.08.10 09:03:40
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山陰  
セキロくん  さん
山陰の冬は寒くても、お酒で乗り切れそうです。
夏は床下は露天を越えてしまっているのですね。あんまり考えていませんでした。 (2009.08.10 09:26:40)

え~  
いずもの床下 さん
炭○入れとけば大丈夫だと思っていたのに (2009.08.10 10:57:10)

Re:え~(08/10)  
いずもの床下さん
炭は、たしかに吸放湿します。
たとえば床下空気のたった5%の湿気を吸ったとして、夏の90日間で2トンくらいの水を吸ってくれるキャパが要求される事になります
このキャパが在ったとして、
床下に2トンの水がある状態が
果たして健康かどうか・・ (2009.08.10 13:53:19)

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