何度かこのブログにも書きましたが、私には吃音があります。親しいひとたちからは「そうなの?(わからないよ?)」と言われたりするのですが、やはり大勢の前で話す時には出ることがあります。あと、電話も吃音が出やすい。電話があまり好きでないのは、そのためでもあります(だからメールという通信手段ができて、ばんざいなのです)。「えーと」を連発することもありますが、これははやい話が吃音隠し、です。
とはいえ、図々しく講義や講座はさせていただいているわけですが、どうにも苦手なのが「放送」。
昨年の暮れ、初めてNHKFMの解説の話が舞い込んだのですが、編集しますからと言われて思わずOKしたものの、本番はさんざんで、担当の方を「緊張されるんですね~!」と悩ませてしまいました。感じのいい方だったので、申し訳なかったと思っています。編集、大変だっただろうな。
それから1年。ふたたび「放送」の話が舞い込みました。しかもこんどはテレビです。wowwowで放映している、メトライブビューイングの、「解説」をしてくれないか、というお話でした。
最初はもちろんためらいました。だって、下手すれば迷惑をかけてしまいますから。 けれど、とりあえず「打ち合わせにきてください」ということで、出かけて行き、担当の方達(大勢いました!)を相手に解説めいた話をしていたら、「それでいいから、出ませんか」といわれ、さらに「対談形式ですから、大丈夫」などなどと言われて、その気になってしまった、というわけです。
収録当日、指定された芝浦のスタジオへ。運河沿いの超高級マンション、とはいえオフィスばかりのような、の一室。 入ってびっくり、天井が高く、アンティークのシャンデリアや額縁、毛皮張りの椅子やソファなど、不思議な空間が展開していました。きけば収録する番組にあわせて、スタジオを選ぶそう。そんなところからの準備、大変です。
スタジオでは若いスタッフが大勢、きびきびと働いていました。そんな活気のなかにいるのは、とても気持ちがいいものです。カーテンで区切られたスペースでメイクをしてもらい、また気分が高揚。ふだん女優さんのメイクをしているメイクさんにしていただけるなんて、贅沢ですよね。
対談形式の解説の相手をしてくださるのは、八嶋智人さん。不勉強で知らなかったのですが、 「眼鏡王子」とあだ名されるくらい、眼鏡にこだわっていらっしゃるとか。なるほど素敵な眼鏡でした。
収録は3本。2月に放映される「カプリッチョ」、3月の「西部の娘」、4月の「オリー伯爵」、それぞれについての解説を、八嶋さんにリードしていただいてお話しする、という形式です。
解説といっても、見所聴き所に加えて、(興味をもっていただくために)エピソード的な話もいろいろ盛り込みました。
「カプリッチョ」の場合は、主役を歌うフレミングについて詳しく、ということでしたので、彼女の自伝「ルネ・フレミング 魂の声」(春秋社)も紹介。これは2006年に翻訳が出たものですが、たちまち3刷になったもので、たしかに面白い。歌手の本はあまたあれど、本人が書くことは珍しいし、どうやって歌手になったかにとどまらず、人間として、女性としての悩みとか、あるいはオペラ歌手という仕事の特殊性について、読者によくわかるように書いてくれています。売れたのももっともの、好著です。
「西部の娘」にかんしては、ちょうど今年公開された映画「プッチーニの恋人」で、作曲当時の彼の「恋人」が明らかになったというタイムリーな話題がありましたので、そちらに話をふりました。
「オリー伯爵」は、まずはフローレスがいかに凄い歌手か(彼を発掘したパラシオさんの話も交えて)、そして、「食通」ロッシーニのエピソードの数々を。フォアグラ、トリュフてんこもりのレシピから、特注の「銀の注入器」を使って作るマカロニの話など。この作品に関してはとくにお話しすることが多く、楽しんでいただけたのではないかと思います。
すっかり感服してしまったのは、八嶋さんのフォローの巧みさと回転の速さ、話題の幅の広さ。打ち合わせでは出てこなかった内容もどんどん出てくるし、私が言葉につまりそうになると、さりげなく私が言おうとしている言葉を重ねてフォローしてくださる。こんな経験は初めてでした。やはり司会などで活躍している方は、その辺りの読みも的確なのですね。
その後、もうひとり、八嶋さんと「対談」する役目の、宮本亜門さんが到着。私は打ち合わせだけ同席させていただきましたが、やはり宮本さんも「さすが」と思わされることの多い方でした。周囲への気配り、話題の豊富さ、オペラへの視点など、私にはないものをたくさん持っていらして、とても勉強になりました。やはり、活躍し続ける方は違うのかな、などと、勝手な感慨を抱いてしまいました。
ぎりぎりまで迷いつづけたお話でしたが、今回は、お受けしてよかった、という充実感を持つことができました。 推薦してくださった関係者の方や、現場のスタッフの方には、ほんとうに感謝しています。
放映予定、今のところ決まっているのは、2012年2月11日(土)、午後9時からの「カプリッチョ」です。 3月、4月の予定は改めてご報告させていただきます。
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