加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

January 20, 2013
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 オペラのなかのオペラ。

 「アイーダ」は、その言葉が似合う作品だ、と思います。(有名な「凱旋行進曲」も含めて)美しい旋律、劇的瞬間、オーケストラの充実、三角関係を主軸にした物語の分かりやすさ、くっきりした人物と感情の輪郭、息抜きのバレエなど、よくできていると同時に人気オペラの条件を種々備えているからです。

 ソニア・フリゼルの演出によるメトロポリタンオペラのプロダクションは、「アイーダ」を知るのに格好のプロダクション。空想の古代エジプトにふさわしい壮大な舞台は、これぞオペラ!と言いたくなる豪華さを備えています。メト定番の人気プロダクションでもあり、ライブビューイングでも別キャストで上映されています。「アイーダ」は読み替えはなかなか難しい作品だし、これだけ豪華なものをまた作るのも大変でしょうから、何十年もメトの定番になっているのも頷けます。1989年に収録されていた映像はDVDになっており、ドミンゴ、ミッロ、ザジックという当時のスターたちの、パワフルな声の饗宴が楽しめます。「アイーダ」の映像で1枚、と言われたら迷わずこれを推しています。(ちなみに手元の映像には、演出家の名前が見当たりません!映像ディレクターの名前はあるのに。。。今はいちばん注目される「演出」ですが、それがここ2、30年の潮流なのだ、ということがよくわかります。)

 今回のキャストは、「今」のオペラ界を代表する歌手と、彗星、という言葉がぴったりのニュースターの共演。ラダメス役のアラーニャ、アムネリス役のボロディナはそれぞれこの役を世界中で歌っています。一方タイトルロールのアイーダを歌ったウクライナ出身のモナスティルスカは、ここ2、3年でスターダムにのし上がったまさにフレッシュな歌手。彼女は2011年の初夏、ロンドンで「マクベス」のマクベス夫人をきいてたまげてしまった歌い手です。とにかく低音から高音までむらなく出るし、声自体もパワフルで伸びがいいし、マクベス夫人の強いキャラクターにもぴったり。相方のマクベスを歌ったキーンリサイドが知的なタイプなので、気の弱い夫を叱咤する妻、という役割が際立ち、迫力でした。その後彼女はアイーダ役でも好評を得、今回がメトデビュー。こんな大役でメトデビュー、それもその演目がライブビューイングで世界に配給なんて、すごいことです。

 果たしてそのモナスティルスカ、「大器」を予感させる演唱を披露してくれました。 

 「アイーダ」というオペラは、敵役にあたるメゾソプラノのアムネリス役の印象が強い作品で、アイーダ役が弱いとアムネリスに圧倒されてしまいます。だからアイーダ役は相当な力が欲しいところなのですが、世界のトップ・メゾのひとりであるボロディナのアムネリスに、モナスティルスカは立派に並び立っていた、と思います。

 まずこのひと、技術的にきわめて安定しています。新人とはちょっと思えない。そして声に情感がある。実際の年齢が若いせいもあるのでしょうが、初々しさを声で表現できるのも魅力的です。色はちょっとくすみがちですが(言葉のディクションが明瞭でないせいもあるかもしれません)、柔軟性もあり、そして高音がよく通って見事です。よくコントロールされ、まったく危なげがないのも驚異的。決して絶叫調にならないのもうまさを感じます。もちろん演技も含めて未完の部分もありますが(やはりディクションはもう少し鍛えてほしいです)、これから伸びる可能性は十二分に感じさせました。将来が楽しみな大型歌手であることは間違いありません。 

 ちなみにロンドンで、「まだ英語はあまりできないらしい」と小耳にはさんだのですが、今回のライブビューイングのインタビューでは通訳つきで登場。初々しいというか、ほほえましい感じもしました。きっとあと2、3年もしたらインタビューも堂々と英語でこなし、今回のことを「あのときは」と振り返るのでしょう。その時にもまた彼女を聴いてみたいものです。

  迎え撃つ?ボロディナも立派というか、貫禄です。持ち前の深みと艶のある美声はたっぷりと豊饒で、成熟した「女」を漂わせ、恋のライバルを追いつめます。アムネリスは本来もっと若い王女ではあるのですが、まあこの迫力に免じて?降参いたしましょう、という感じ。メトでもう35回も歌っている役というだけあって、さすがに手中にしている印象で、演技も余裕です。アイーダに投げる視線の蔑みの交じった凄みには思わず頬がゆるみました。女王、の貫禄ですね。

 2人の女性にはさまれたラダメス役のアラーニャ。 この役はスカラ座で降板したという波乱もあった役で、どうかな?という気持ちもあったのですが、健闘していたと思います。出だしのアリア「清きアイーダ」がとてもていねいに歌われていて、まず嬉しい驚き。最後は弱音をきれいに伸ばして、声の輝きとパワーで押していたドミンゴとはまったく違う味付けをしていました。インタビューで、ヴェルディの指示を守ったらそうなった、過去の偉大なテノールもそうやっていた、と話していて納得。全体的にていねいに歌っていて好感が持てました。後半はより声が出るようになり、パワフルな女性陣と堂々と渡り合っていました。とくに第3幕の幕切れ、自分が国を裏切ってしまったと呆然としながら、アイーダへの愛にひきずられて迷う瞬間、男の惑いを痛切に感じさせてくれた。ああ、この部分の音楽はこんなに悲痛で切なかったのだ、と思えたのは、アラーニャと指揮のルイージの功績でしょう。

 そのルイージの指揮、ドラマの緩急をわきまえた巧みなもので、よく歌うと同時に、作品のシンフォニックな面を際立たせて、「アイーダ」の音楽の充実ぶりをよく伝えてくれました。

 他のソリストでは、アモナズロ役のギャクニッザがど迫力の演唱。スケールの大きなグルジアのバリトンで、スカラ座で「リゴレット」を歌ったりしている歌手です。野性の男、アモナズロを手中にしていた、劇的な演唱でした。

 歌手陣を振り返って改めて思うのは、同じプロダクションでも、やはり時代によって歌唱スタイルは変わっているのだなあ、ということです。私も持っている1989年の映像で歌っている主役3人は、もちろん素晴らしいけれど、今日聴いた3人と比べると声のパワー、力で押しているという感じ。技術的にも瑕はないからそれはそれでもちろん立派ですし、聴き応えはあります。今日聴いた主役たち、とくにアラーニャとモナスティルスカは、より繊細で、心理的な表現に重きを置いていた印象。これはこれで「アイーダ」の心理的な面をよりくっきりと浮き出してみせてくれ、悪くないのです。以前は、同じ劇場の同じプロダクション、しかも決定版というべき映像があるのを、なぜまた映画館で?と思ったりしたのですが、やっぱり見る価値、聴く価値があるのだ、と思い直しました。演奏は生きていて、常に移り変わっているのですから。

 ライブビューイングのもうひとつのお楽しみが幕間のインタビュー。再演だと演出家のインタビューがないのですが、その分、裏方のスタッフを紹介して、舞台裏を隅々までみせてくれました。通常は何をしているかわからない舞台監督の紹介など、オペラを知る上でとても興味深かった。

 人気演目のせいか、また日曜日の午後のせいか、会場の東劇はほぼ満員。こんなに客席が埋まったのは初めて見ました。休憩時間の女性トイレは長蛇の列で、これまた初めての体験。こういう演目でオペラ入門を果たす方も多いのでしょう。初めての方でもリピーターでも、正攻法のこの「アイーダ」は十分に楽しめる、と思います。 

 「アイーダ」は25日までです。

http://www.shochiku.co.jp/met/

  それから、アモナズロ役のギャクニッザは、9月のスカラ座の来日公演で、ヌッチとダブルキャストでリゴレットを歌います。スカラ座来日公演のサイトはこちらです。こちらでは「ガクニーゼ」という表記になっているようですが。。。

http://www.nbs.or.jp/scala2013/column03.html

  

   






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最終更新日  January 28, 2013 12:58:16 AM


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