オペラファンの目(と耳)が、肥えている。
そう思うことは、けっこう日常的になりました。コストパフォーマンスのいい公演には、みなさん敏感です。一方で、それなりの値段の公演は、なかなか難しい。公演が多いということもあるのかもしれませんが。。。。景気がまだまだ、ということだって無関係ではないと思うのですが、景気の影響を大きく受けるのは、浮動層(という言い方が適切ならば)でしょう。コアなファンはコスパをちゃんとみている、と思います。
最近そう思った好例が、昭和音楽大学のオペラ公演「オベルト サン・ボニファーチョ伯爵」でした。
「オベルト」はヴェルディの処女オペラ。習作的な部分も少なくなく、その2つ後の作品で爆発的な成功を収めた「ナブッコ」に比べるとまだまだ個性が開花している訳ではないので、あまり上演の機会には恵まれません。今回、昭和音楽大学でとりあげられたのは、生誕200年というきっかけあってのことでした。
とはいえ、これがなかなかの豪華版。指揮も演出も美術も衣装もイタリアから招聘。それも、ボローニャの来日公演だのびわ湖のヴェルディシリーズだの、藤原の公演だので日本に招かれている一流どころばかり。主役陣もそれなりに活躍しているプロですし、学生は、といえばオーケストラと合唱。彼らにとってはまたとない勉強の場です。
それで、チケット代はS席で4500円。「満席です」と関係者からききましたが、さもありなん、とうなずけたことでした。ファンの方はみなさん、知っているのです。めったに観られないオペラ、というのももちろんあったと思いますけれど、この内容で4500円は破格でしょう。
公演自体も、満足のいく水準でした。
いちばんの収穫は、スカラ座のアカデミーで活躍するベテラン、ダンテ・マッツォーラの指揮。やや荒削りなところもある若きヴェルディの音楽を、粗野になることなくうまくまとめていました。旋律線を描きだすのも自然だし、「ウンパカパ」のリズムもクッションをおいて、柔硬おりまぜてうまく聴かせます。ベテランの味わいとはこういうものか、という感じ。オーケストラのメンバーは、とても勉強になったのではないでしょうか。
歌手陣も女性を中心に収穫がありました。レオノーラ役の廣田美穂さんは、澄んだ、立体感のある声で、響かせるのがうまく、表情づけも自然。最後のアリアでは、死体となって運ばれてきた父オベルトにとりすがる演技も迫真で、涙を誘われました。クニーツァ役の丹呉由利子さんも優等生的なていねいな歌唱で、好感が持てました。
合唱も、男声を中心に、ていねいな演技とあわせて高水準。オーケストラともども、イタリアの地方の劇場よりよほどうまいのでは、と思わされました。
世界で活躍するマルコ・ガンディーニの演出は、舞台上に幕をたらし、その幕をあるときは上げ、あるときはおろし、ある時はその間に隙間を作って、幕の向こうの空間にたえず変化を与えることで、場面の雰囲気や人物の感情を示唆するという方法。基本的にはイタリア人らしい美しい舞台で、シンプルですが(限られているだろう予算のなかでうまくやっていたと思います)美しい。イタロ・グラッシの舞台美術、伝統的な雰囲気ですがシンプルで洗練されているシモーナ・モレージの衣装ともども、イタリア人の美学を体現してくれました。
そう、これで、4500円。人が入って、当然かもしれません。
いつも思うのですが、コアなファンというのは、定番の演目よりあまり上演されない演目を観たい気持ちが強いのではないでしょうか。そういう演目を、それなりのレベル、伝統的な美しさを踏み外さない舞台、そして「お得」な価格で観たい。それが、ひとつの要望なのではないか、と改めて思った、「オベルト」体験だったのでした。
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