今年最後のオペラツアーのお仕事で、イタリアに行ってきました。前後の単独行動(パリ、スペインのビルバオ)をはさんで、およそ半月の日程でした。
今回ツアーで訪れたのは、パルマ、ブッセート(ヴェルディの故地)、ミラノ、ボローニャ、そしてトリノ。
観劇したオペラは全部で6本。それぞれ独特の味わいがあり、楽しめました。ヴェルディイヤーでもあり、全演目ヴェルディで通しました。結果、「ナブッコ」から「ファルスタッフ」まで、いろんな時期の作品が体験できたのもよかったんじゃないか、と思います。
個々のオペラの感想はまたおいおい書くことにしまして、真っ先に書きたい、というか改めて思ったのは「イタリア」の(劇場めぐりの)魅力でした。
イタリアがオペラの故地であり、オペラがさかんな国(といってもかなり危うい状態ではありますが)なのは確かですが、オペラの旅先としても、ほんとうに魅力的だということを痛感したのです。
イタリアは、魅力的な町がたくさんあります。それは、この国がずっと中小の国々に分裂していたせいなのですが、そのために、どの町にもちょっとずつ異なる特徴がある。たとえばパルマとボローニャは車で飛ばせば1時間の距離ですが、ハプスブルク家の支配下だった宮廷都市パルマと、都市国家そして教皇領だったボローニャの雰囲気はずいぶん違います。ハプスブルクイエローがあちこちに見られ、どことなく優雅なパルマと、いろんな意味で「赤い」、誇り高い町、ボローニャ。
この2都市の劇場も、やはり相当に雰囲気が違います。もちろんいずれもイタリアの伝統的な歴史ある劇場なのですが、馬蹄形で華やかなパルマと、独特の円形?をしていて渋い色調のボローニャ。そんな劇場は、見るだけでも楽しいものです。そしてパルマから1時間も行けば、大都市ミラノと華麗なるスカラ座があるのです。
今回はとくに、ブッセートの客席300(オケピットを作ると240くらいか)の小劇場、ヴェルディ劇場でもオペラが見られましたし、トリノのモダンな劇場でのオペラもあったので、ほんとうにバラエティ豊かでした。町をめぐるように、劇場を巡る、という気分に浸れました。
イタリアのいいところは、繰り返しですが、このような劇場のある、そして歴史ある町が、車で行ける距離に点在していることです。これだと、旅もしやすい。とくに、ツアーだと行きやすいし、やりやすい。
対してスペインとかフランスとかいう国になると、これがなかなか難しいのです。
フランスにもそれなりのオペラハウスはいくつかありますが、パリを除くとみな遠い。トゥールーズ、ボルドー、ニース、ストラスブールなどなど。リヨンは比較的近いですが、それでもバスでパリから1時間というわけにはいきません。そのように遠い距離にある町を、劇場でいい出し物がある時につないで、たとえばツアーを作るのはまず不可能です。
スペインも同じ。スペインにはバルセロナ、マドリッド、バレンシアなど有名な劇場がいくつかあり、今回自分で初めて行ったビルバオの劇場もよかったですが、やはり遠い。バスで半日、1日がかりになってしまうのですね。
その点、イタリアというのは実に旅がしやすい国だなあ、と、つくづく感じました。
もちろん、町も魅力的です。観光スポットのローマだヴェネツィアだはもちろんですが、イタリアの小さな町をめぐるのは旅の醍醐味だといいたいくらい愉しいものです。どの町にも個性があり、それぞれの空気があり、それぞれの全盛期の美術品が残ります。ふと入った教会で、素晴らしい絵に出くわしたりすると、もうけもの、という気分。今回の旅では、時間のある日にはフェッラーラやベルガモといった町を訪れましたが、いずれも町歩きの愉しい小都市でした。
そして、食べ物がおいしい。
イタリア人の「食」へのこだわりは、日本人にも勝るとも劣らないものですが、とくに彼らは、「郷土」の食にこだわります。グルメ番組も多いですが、お店の紹介というよりその土地の料理の紹介のほうが多いような。だから、それぞれの町にそれぞれの自慢料理があるのです。パスタ料理もしかり。北イタリアでは、いわゆる乾麺のスパゲッティはまず出てきませんが、そのかわり町ごとにお得意のパスタ、あるいはお米料理があります。中身が入っている、いわゆるぎょうざのようなパスタもとても種類が多い。それを、地酒=地ワインといただくのは、オペラに勝るとも劣らない愉しみです。
ドイツも劇場の数はイタリアより多く、その点でもオペラ王国といえばドイツなのかもしれませんが、そういう愉しみは、正直限られていますよね。
そしてイタリアでは、オペラにも、「地」の香りがあります。
決してうまくはないけれど、「ナブッコ」になると抜群にノリがいいオーケストラとか。これも決してうまくはないけれど、なんとなく熱血で客席を沸かせてしまう歌手とか。伝統芸能、郷土芸能的なオペラ。それもまた、匂いがあって面白い。
今回のツアーで、あるお客様が、「完璧なオペラ、っていうのはなかったかも」という感想を漏らされていました。それは、そうかもしれません。「完璧なオペラ」を求めるなら、たとえば、ロイヤルやウィーンやメトやザルツブルクのいい時に行った方がいいのでしょう。
けれど、完璧でなくとも、強烈に印象に残るオペラ、というのが、イタリアにはあるのです。
7月にローマで聴いたムーティの「ナブッコ」。そして今回聴いたなかでは、ボローニャで聴いたマリオッティの「ナブッコ」がそうでした。
より完璧なオペラに近いものなら、今回ならスカラ座の「ドン・カルロ」のほうが完璧に近かったといえます。けれどボローニャの「ナブッコ」は、歌手は決して高水準とはいいがたいながら、マリオッティの素晴らしい、天才的な指揮で、忘れられない公演になりました。
また今年の前半でいえば、「完璧」=揃っている、に近いのは、ドレスデンで聴いたティーレマンの「ばらの騎士」だったかもしれない。けれど、これも歌手はドレスデンほどではなくとも、ムーティの指揮に持って行かれてしまったローマの「ナブッコ」のほうが、はるかに鮮烈な公演でした。少なくとも、私にとっては。
ひとりの天才が決める公演。そういうのが出てきやすいのも、イタリアなんじゃないかな、と思うのです。
イタリア、やっぱりやめられません。
PR
キーワードサーチ
カレンダー
フリーページ
コメント新着