加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

September 7, 2015
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 秋の音楽シーズン、オーケストラもどんどん始動を始めました。
 おなじみウィーンフィルをはじめ外来もどんどんきますが、 今月はけっこう在京のオーケストラで注目公演が多いような。 
 日本フィルは山田和樹さん、東フィルは春から首席客演指揮者になったバッティストーニ、読響はカンブルランと、どこも自慢の?指揮者を投入です。
 カンブルランは、2週続けて日曜日に「トリスタン」。満員御礼の盛況とききました。興味は大有りなのですが、どちらも外せない用事があり、断念。残念です。 
 とはいえカンブルラン、11日の定期では「展覧会の絵」をメインにしたオーケストラ作品のプログラムを振ります。ムソルグスキーのピアノ曲が原曲とはいえ、編曲はフランス人ラヴェル。原曲より洗練され、オーケストラの響きの面白さに富んだ「展覧会」を、 フランス人カンブルランがどう解釈するのか楽しみです。
コンサートの情報はこちらです。共演はあの小曽根真さん。
 ところで、「展覧会の絵」は、その前日と当日に、東京フィルでも上演されます。(珍しいのでは)。指揮はもちろん?バッティストーニ。最初に本格的な音楽修行をしたのがロシアで、だからロシアものは大好きという彼、メリハリがきいてダイナミックで、かつオーケストラらしい効果に富んだ「展覧会の絵」はぴったりだと前々から思っていたので、こちらもとても楽しみです(ちなみに私は両方聴く予定です)。
 その東フィルの定期演奏会を前にして、来日したばかりのバッティストーニが、二子玉川「ツタヤ」内で、講演を行いました。前半は彼単独で、「初心者にお勧めの交響曲5曲」というテーマ。後半は「初音ミク」を主役にした「オペラ」で、世界中で大ヒットを飛ばしている渋谷慶一郎さんとの対談です。
 後半については、フェイスブックに写真とともにまとめてアップして公開にしてありますので、ご興味のある方はそちらをご参照ください。
  ここでは、前半について触れます。
 バッティが出してきた「交響曲」は以下の5曲。モーツアルトの「リンツ」、ベートーヴェン「運命」、ドヴォルザーク「新世界」、そして(以下の2曲はいわゆる「交響曲」ではありませんが)「展覧会の絵」、ラヴェル「ボレロ」というラインナップです。時代順になっているので、交響曲というか、オーケストラ音楽の変遷もたどれます。
  実はこの5曲、バッティの著書であるクラシック音楽入門書「Non e musica per vecchi」にも、同じくくりで登場する5曲。この5曲を選んだ理由は(本でも語られていますが)、以下のようなことでした。
 まずモーツァルトの「リンツ」は、かれが子供のころ初めてきいて圧倒された作品だとのこと。そしてモーツァルトは、いわゆる「クラシック=古典音楽」の作曲家〜かれは「クラシック音楽」という言葉が嫌いだ、といいます。隔絶された博物館にある音楽のようなイメージだからです。本来の意味での「クラシック」音楽は、17−18世紀の音楽(=「古典派」の音楽)、と語っていました。その時代、音楽が純粋に音楽として聴かれるようになった。その時代の聴き手を驚かせるようなしかけがしてある、その例が「リンツ」交響曲なのだ、と。
 2曲めの「運命」。バッティが大好きな曲でもあるようです。(よく言われることですが)ベートーヴェンは革命家だ、とかれは言います。 古典派からロマン派への道をつくったひと。自己を、自分の考えをはじめて音楽に投影したひと。音楽で人生を、政治を時代を語ったひと。パトロンに頼らず、独立して生きた作曲家。「運命」は、「扉を叩くとよく言われますが、叩くどころじゃなくて、扉を蹴破っている音楽」だと。
 「ベートーヴェンは人間のために音楽を書きました。だから音楽家は皆ベートーヴェンに戻るんです」
 東フィル、今年の「第9」はバッティ。聴きたくなりますね。
 3曲め「新世界」。ドヴォルザークはこの曲で「古い世界と新しい世界を結びつけた」つまり、古典的な交響曲の枠組みを使いつつ、「メロディにフォークロアを取り入れた」。
 新旧の結びつきは、今の音楽界の課題。だからドヴォルザークは「今のひとがやっていることを先取りしたのです」。なるほど。
 4曲めの「展覧会の絵」で、いわゆる「標題音楽」が登場。「標題音楽は、音楽以外のものからインスピレーションを得ていると言われます。 けれど実際は、エモーションを伝えている」。つまり、具体的なものを必ずしも伝えているわけではない、ということ。たとえば「バーバヤーガ」の音楽は、バーバヤーガが何かを知らないひとには、「戦いの音楽だと言われればそう聞こえますよね」。だから音楽は「コンセプトや理論ではないんです。理屈を感情によって混乱させる力がある。だから、音楽を聴くことは刺激的なんです」
 なるほど、面白い。このへん、「バッティストーニ節」といいたくなる内容でした。
 そして5曲目「ボレロ」。
 「「ボレロには音楽がない」といった指揮者がいます。トスカニーニだったかな。たしかにそうです。二つの部分に分かれた同じテーマの繰り返し。古典派からはずい分遠いところにきました。」
 「とてもセクシー、官能的な音楽だと思う。何かを脱ぎ捨てていくような感じがします。でも楽器は増えていく。繰り返すたびに新しい音色が増える。官能的なダンスを見ているみたいです。
 「そして最後に破局が訪れる」
 この繰り返しと破局を、バッティストーニは、ラヴェルが大好きで収集していた時計にたとえました。規則的に回り続ける時計の歯車。それが、投げ出され、こわれる。
 この見方にはすごく想像力を刺激され、かつ納得してしまいました。
 この2月に開催した「リゴレット」の講演会でも実に雄弁だったバッティストーニ。かれには語る言葉があふれていて、見方も新鮮で、同時によく勉強しているので説得力があります。そして情熱的。音楽への愛が溢れている。
  
  繰り返しになりますが、バッティストーニは「クラシック音楽」という言葉が嫌いだといいます。「「教養的な音楽musica corta」という言葉もありますが、もっと悪い」という。かれのレクチャーには、そんな姿勢がいつも滲んでいて「バッティストーニ節」だなあ、と思うのです。

 バッティストーニが振る「展覧会の絵」は10日、11日です。11日には話題の若手ピアニスト、反田恭平さんとの共演もあります。1曲目は「運命の力」の序曲。これも、聴きたい!
  





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最終更新日  September 7, 2015 09:25:16 PM


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