わんこでちゅ

8 ヤマダくんの決断










それはまだみかちゃんがうちに来る前で、ゆりちゃんというおとなしい受付のこがいたころで、カーク君がまだ仔犬だったころの話だ。クリスマスイブの夕方に、カーク君の飼い主から電話がかかってきた。話がこみいっていて長くなるが、ともかく今晩は安静にして明日25日の朝一番に手術するからくるようにと、カーク君の飼い主に伝えたのだ。

「先生、うっうっうっ。」

おちこんでいるところを悪いのだが、来院そうそうゆりちゃんは手術の同意書をそっと飼い主に差し出した。診察もしないうちから、同意書というのもなんだが、どう考えても手術しか手がなかった。それは昨夜の電話で、飼い主も同意していた。しかしやはりいきなりの同意書で、飼い主はかなりまいってしまったようだ。言葉のひとつも出ないようだった。

「それでは今レントゲンをとってきます。それで最終的に切る位置をきめますので、、、。その間に同意書に署名捺印お願いします。」

俺はそういうと、カーク君をそっとかかえてレントゲン室にはいった。ゆりちゃんが後でいうことには、このとき飼い主さんは、ごめんね、ごめんねっておお泣きしながらサインしていたそうだ。

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!」

おれはレントゲン写真をみて、首をひねった。たしかにここにある!だが、だがもしかしたら、、、?少々危険はあるかもしれないが、俺は決断した。そしてあわてて飼い主を診察室に呼びいれた。

「カーク君のお母さん、一晩でここまで、下降結腸の近くまできているんです。手術しないでこのまま様子をみましょう。もしかしたら出るかもしれませんよ。毎日よく中味を観察してくださいね。様子がかわるようであればすぐ電話ください。」

飼い主は、カーク君をいたわるように抱いてかえっていった。

2日後、カーク君の飼い主から電話があった。

「先生!出ました。でましたぁぁぁぁぁーーーっ。」

「いや~そうですか。手術しないでよかった。電話できいたときは絶対だめかとおもったんですよう。いや仔犬の細くてまがりくねった腸ですからね、絶対そんなもの通るわけがないんです。いや、奇跡ですねぇ。聖夜だっただけに奇跡がおきたんですねぇ。」

俺まで無性に嬉しくなって、聖夜の奇跡なんてキザな台詞をいってしまったが、本当にめったにないことなのでいたしかたない。

「腸をいためて出血とか、このあと起こす場合があるので、しばらく様子みてあげてくださいね。」

そう伝えると、念のため明日来院するとのこと。コレクターの俺はもちろん、こんな珍しいものをほおっておけるわけがない。現物を飼い主さんにもらうことも約束した。

かくしてカーク君のうん○からでてきた、なんとなんと「縫い針!!!」はこうして俺のコレクションのひとつに仲間いりしたわけだ。本来なら絶対どこかに刺さるか、ひっかかるはずのものを、のみこんだ上に、うん○といっしょにひねり出すんだから、カーク君は仔犬のくせにすごいやつだ。飼い主さんはクリスマスイブにチキンの丸焼きは二度とつくらないと、笑い泣きしながらいっていたが、鳥の腹の中につめものをして、縫い針できちっと腹をとめて、家で焼いた本格派ローストチキンなら、ここのところろくなものを食べていない俺もご相伴にあずかりたいものだ。つくってくれないかな、、、。ただし、もちろん、鳥の腹を縫って、鳥の味がうつった縫い針を床に落とさぬようにする注意がくれぐれも必要になるが、、。

注 カーク君の鳥のにおいのついた縫い針のみこみ事件は、実際にあったお話です。













おとぼけカーク
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