くれーじーくえいる ぶろぐ

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2008.08.02
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カテゴリ: 作品色々見聞録
 今年夏の邦画界3大アニメ映画3作の2、押井守監督の最新作 『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』 が本日2日より公開となりました。
 今日は職場の地域交流イベントが夕方からあったのですが、この猛暑で行く気を失った管理人は去年に続いて放置扱いにして早速午前の初回上映を押さえてきました(^^)
 なお、管理人は『スカイ・クロラ』シリーズの原作小説は読んでいないので、原作と比較しての評価云々はできないことを先にお断りしておきます。

<ストーリー>


 ヨーロッパ戦線のとあるロストック社前線基地に配属された、"キルドレ"である戦闘機パイロットの青年・函南優一。ユーイチは土岐野尚史ら仲間と共に戦いと平穏を繰り返す日々を送る中で、同じく"キルドレ"である女性基地司令官・草薙水素との間にいつしか奇妙な愛を紡いでいく。
 スイトに殺されたと噂されるユーイチの前任者の謎、決して超えることのできない"大人"の敵・ラウテルン社のエースパイロット"ティーチャー"の存在とスイトとの因縁、戦死した同僚と同じ癖を持つ後任の登場、"キルドレ"たる自分の存在意義に苦悩する仲間・・・やがて、流転の果てに"キルドレ"の背負う永遠の宿命の一端を垣間見たユーイチは、己の宿命に挑むかのように一人"ティーチャー"との私闘に臨んでいく――――――





 重厚・観念的・難解な作風でお馴染みの押井監督が"敢えてこれまでの演出手法を封印する"として臨んだ本作ですが、いざ実際に作品を見てみると 何だかんだでやっぱり押井作品だな と感じました(笑)
 押井作品の影の常連キャラともいえるガブちゃんことバセットハウンドは今作でも健在だし、お馴染みの長台詞も数は少ないもののあるし、何よりも押井作品に通底するイメージである "現実と夢の境界が曖昧な世界" や "物語の終わりがまた始まりとなる永遠の繰り返し"
 一方で、一見してまず、 全編を通して漂う生々しさを伴った空気感と寂寥感 が非常に印象に残りました。そうそう蘊蓄を語れるほど押井作品を沢山見ているわけではない管理人ですが(苦笑)、本作の雰囲気は今までの押井作品とは確かに一味違ったものを感じたような気がします。
 あと、ユーイチと夜を過ごす娼婦フーコや、彼の前で制服のブラウスをはだけさせてみせるスイト、さらに拳銃を手にしたままのスイトとユーイチのキスなどのシーンで漂うエロさは今までの押井作品にはなかった要素で、ある意味新鮮さを感じました。
 先日、NHKの『課外授業ようこそ先輩』に押井守監督が出演したとき、監督は 「同じ風景でも視点を変えるとまったく違って見える」 という点に特にこだわっていましたが、本作でも 「いつも通る道でも違うところを踏んで歩くことができる。いつも通る道だからって景色は同じじゃない」 というユーイチの台詞としてしっかり反映されていたのが印象的でした。

 軍ヲタ的視点では、やはり戦闘と兵器の描写は流石押井監督といったところか。しかし、エンディングテロップで軍事監修に岡部いさく氏が名を連ねていたのにはちと吹きました(笑)押井監督と岡部氏の縁は、岡部氏が現在執筆中の『世界の駄っ作機』の単行本での対談コラム以来ですが、それだけにどう見ても"俺様の考えたスーパー震電"臭がプンプンの"散花"や、Fw190をスピットファイア化したような"スカイリィ"のデザインラインがどうにも岡部氏の趣味に見えてしまってしょうがありません(爆)あと、スカイリィのエンジンデザインを見た宮崎駿監督が「押井さんは何もわかってない」と文句を付けたら押井監督も「宮さんは何もわかってない」と反論したという話には何となくらしさを感じてしまいました(笑)
 他に細かいところでは、作中に登場する拳銃がワルサーPPKとコルト・ガバメントという辺りに、兵器テクノロジーが敢えて制限されているという世界観を事細かく表現するこだわりが垣間見えます。ハンマーが落ちないよう親指を噛ませながら拳銃を掴み押さえる動作とかの細やかさも銃器描写に定評のある押井作品ならではといったところでしょう。
 今回、軍ヲタ的に気になったのはユーイチと一緒にワインを呷っていたスイトのこの台詞の一文。ちなみに今作唯一の押井調長台詞でした(笑)

「戦争がどんなものなのか、歴史の教科書に載っている昔話だけでは不十分なのよ。本当に死んでいく人間がいて、それが報道されて、その悲惨さを見せ付けなければ平和を維持していけない、平和の意味さえ認識できなくなる」

 これを聞いて管理人がふと思い出したのは、『新機動戦記ガンダムW』でのドロシー・カタロニアのこの台詞でした。物語のクライマックスでカトルと一騎打ちした彼女は、彼らの今までの戦いを甘いと断じ、コロニーの指導者として堂々と戦争すればよかったのだと言い放ってこう続けます。

「そして、人類のすべてに見せ付けてやるべきだったのよ。もう戦いなんか見たくないと思わせるような悲惨な戦争を! 人類から戦争をなくすためには武器を取り上げるだけじゃダメなのよ、人間の心そのものを変革させないと!」

"平和を実感するために戦争の悲惨さを知る" "戦争の悲惨さを思い知らせることで人類を平和に指向させる" のに対し、『スカイ・クロラ』では "すでに恒久平和が実現した世界でその平和を実感させるための手段として悲惨な戦争が演出されている" というある意味真逆の方向性となっているのが非常に興味深いですね。

 本作は主役の草薙水素役に菊池凜子、函南優一役に加瀬亮、土岐野尚史役に谷原章介等々、従来の押井作品にはない俳優メインのキャスティングですが、押井作品の常連声優である榊原良子や兵藤まこ、『機動警察パトレイバー2』『イノセンス』で押井監督と組んだ竹中直人といった実力派の出演陣もいい味を出してました。また、押井作品には欠かせない音楽担当の川井憲次のスコアも相変わらずいい仕事してますね。

 思春期の姿のまま戦死しない限り死ぬことはなく、もし死んだとしてもその技能や特性、癖は新たな肉体に移されて別の個人として再生産され、終わることを許されない"戦争ショー"に永遠に投じられ続ける"キルドレ"たちの宿命。基地の整備主任として長年彼らを見続けてきた笹倉も、トキノたちが通うダイナーのマスターも、トキノとつるんでいる娼婦たちも、自分の目で見て恐らく理解しているであろうその真実に敢えて目を瞑り続けるしかない。例えスイトやユーイチがそれを終わらせたいと願って実行したとしても、彼らが一度"キルドレ"としてこの世に生まれた以上、それは永遠に叶わない望みでしかないのでしょう。ただ、最後の最後で新たに基地に配属されてきた、恐らく戦死したユーイチから再生産されたであろう新任の"キルドレ"を前にしたスイトがユーイチとの初対面の時とは違う接し方を見せたことは、今度こそ永遠の繰り返しではない二人の愛が始まるかもしれないというほんの僅かな可能性なのかもしれません。



 なお、『スカイ・クロラ』は宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』および北野武監督最新作『アキレスと亀』と共に今月27日にイタリアで開幕する第65回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門への出品が決定しています。世界的な評価を受ける日本の映画監督3人が揃って世界有数の映画の檜舞台に乗り込むわけですが、果たして1997年の北野監督の『HANA-BI』以来の金獅子賞を獲得することはできるのか・・・個人的にはやはり世界的には未だ無冠である押井監督に取っていただきたいところではあります。





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Last updated  2008.08.08 11:15:38
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