くれーじーくえいる ぶろぐ

くれーじーくえいる ぶろぐ

2009.02.08
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カテゴリ: 作品色々見聞録
<←会場入口に展示されていた舞台セットの"鉄人"の雛形モデルと看板。商品化は実現するのかな?>

 本日、管理人は早朝0630から高速バスに乗って大阪まで出かけてきました。管理人にとっては2006年夏のポケモン映画オフ以来久々の大阪上陸です(笑)
 今回の大阪行きの目的は、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演される 舞台『鉄人28号』 の見物。管理人にとっては人生初の舞台観劇です(^^ゞ

*舞台『鉄人28号』特設サイト  <梅田芸術劇場公式サイト内>
(注:公演終了に付きサイトが削除される場合があります)

 漫画『鉄人28号』といえば、1956年から連載開始した故横山光輝の代表作の一つ。旧日本軍が太平洋戦争末期に極秘建造したロボット兵器"鉄人28号"とそれを操る少年探偵・金田正太郎たちの活躍を描く本作は、日本における巨大ロボットSF漫画の金字塔的存在となりました。これまでに派生作品を含めて何度もアニメ等として映像化され、最近でも2005年に実写映画版、2007年には劇場アニメ版が公開されていますが、今回は初の舞台化となります。脚本・演出は、昨年のアニメ映画『スカイ・クロラ』で話題を集めた日本アニメ界の鬼才・押井守監督。氏にとっては初の舞台演出となる意欲作です。

 本作の上演は東京公演が天王洲銀河劇場にて1月10~25日、大阪公演が2月5~8日の日程。東京公演の初日は実は管理人が上京していた日だったわけですが、朝霞に行っていたので見に行けるわけがありません(苦笑)というわけで、何とか都合を付けて大阪公演最終日の8日と相成った次第です。
 バスが梅田のバスターミナルに到着するのは1130頃。会場の梅田芸術劇場までかなり距離があるので1200の上演時間に間に合うかどうか不安でしたが、幸いにもバスは1105頃に到着し、余裕で開場前に現着出来ました。
 見る人を極端に選ぶ押井監督の作品だけに観客の集まりが気になってましたが、蓋を開けてみれば座席の9割ほどが埋まる大盛況。まさか集まった客が全員押井ファンなんてことはないでしょうから、やっぱり公演最終日は人集まるもんなんでしょうか(笑)

[ストーリー]





 時は1964年。戦後の終焉を告げる一大国家イベント、東京オリンピックの開幕を前に、首都・東京では警視庁が徘徊する野犬の駆除に乗り出していた。警察署長・大塚は戦後的なるものの一層を目指し、野犬捕獲隊や機動隊を率いて野犬のみならず無政府主義者、社会主義者、テロリスト、立喰師に至るまであらゆる反国家的存在の排除に躍起となっていた。一方、太平洋戦争末期に旧日本陸軍の決戦兵器"鉄人"の開発に関わった敷島博士は「変わることが正義」という考えを抱きつつもその試製28号機を戦後民主主義の守護神として甦らせるべく調整作業に取り組んでいた。そして、その"鉄人"の操縦者となった戦後民主主義の申し子たる少年探偵・金田正太郎は、敷島博士の言う愛と正義を信じて操縦訓練に励んでいた。
 そんな中、東京最後の野犬たる"有明フェリータ"がついに警察に捕獲されるが、犬走一直率いるテロ集団"人狼党"は野犬収容所の襲撃と"有明フェリータ"の奪還を予告。大塚署長と正太郎、敷島博士は警戒を強化するが、犬走の計略によって"有明フェリータ"は奪われ、正太郎まで攫われてしまう。人狼党の野犬島に連れてこられた正太郎は、自由に生き自分を愛する女立喰師"ケツネコロッケのお銀"と出会い、さらに犬走の言う野良犬の思想に心を揺さぶられる。お銀の手引きで島を脱出して研究所に戻った正太郎だったが、何が正義で何が悪かを自問自答するあまり、己の信じてきた愛と正義が見えないと苦悩する・・・
 そして東京オリンピックの開幕の日。警戒された人狼党の動きもなく平穏に過ぎるかと思われたが、開会式で空に五輪を描くはずだった航空自衛隊のF-86Fブルーインパルスの1機がトラブルにより引き返すというアクシデントが発生してしまう。それこそが、東京オリンピックという一大国家イベントに後ろ足で犬の小便を引っかけようという人狼党の陰謀! 打つ手がない大塚署長は頭を抱えるが、敷島博士は"鉄人"を起動させてジェット噴射で飛行させF-86Fの代役を務めさせようと発案、悩み続けていた正太郎もお銀の言葉を胸に自らの正義のために戦うべくようやく立ち上がる。だが、敷島博士の考えを先読みした犬走率いる人狼党が研究所に乱入して"鉄人"の起動を阻止せんとする。警察と人狼党の攻防の中、正太郎は操縦リモコンを奪おうとする犬走を拳銃で撃って制止し、ついに"鉄人"を起動、"鉄人"は大空へと飛び立っていく。そして、東京の空にちょっと歪な五輪の輪が描かれる――――――

 再び2008年。44年前のあの日から戻ることなく、黄色い花に埋もれた埋立地の片隅で朽ち果てた"鉄人"。そして正太郎もまた鉄人を探して姿を消した。そして、その両者を追い続けた敷島博士の成れの果てこそ、かの盲目の老人であった。彼の目にはもはや朽ちた"鉄人"も変容した首都の姿も、思い描いた未来も見えない・・・・・・嘆きながら地に倒れる老人。と、そこへ現れた真っ赤なコートの人物が叫び、謳う――――――「裏切りの空に未来を描け! 飛べ、鉄人!」


◆◆◆◆◆◆

 かつて故横山光輝氏が押井監督に提案したものの実現しなかった鉄人28号の劇場アニメの企画案をベースに作られたという本作は、全体的には押井作品のお家芸の一つである "虚構に仮託した戦後日本史の総括" というテーマを鉄人28号の世界観とキャラクターを使って表現した作品といえます。それは昨今の映画やドラマ等でよく見られる"1950~60年代の古き良き昭和へのノスタルジー"ではなく、監督に言わせれば 「僕らが一番捨てたかった嫌な思い出の世界」 。戦後の荒廃から抜け出そうと汗水流して働き、"科学の発展がもたらす幸せな未来"を信じ、やがて東京オリンピックを契機に"戦後"から脱却して高度経済成長の時代を迎えるも、やがてそんな時代に疑問を抱いて安保闘争や学生運動に身を投じ、しかしその革命や変革の思想もまた幻に過ぎなかったという当時のリアル世代である監督自身の原体験ともいえるものです。本作における正太郎や敷島博士、大塚署長、犬走はそんな時代の様々な人々の象徴と位置付けられ、その中心に旧日本軍の秘密兵器という"戦中世代の残滓"たる"鉄人"が鎮座するという構図になっています。もっとも、あくまで描かれるのは問題提起であってそれをどう読み取ってどう解釈するかは観客に委ねるというこれまた押井作品のお家芸的な終わり方なので、この辺はやはり見る人を極端に選ぶ作品といえるでしょう。

 作品設定こそ鉄人28号ですが、そこは押井作品らしく犬・立喰師・夢と現実・長台詞等々のお馴染みの要素が随所に盛り込まれ、ファンであればニヤリとさせられます。序盤の野犬捕獲隊のシーンで東京における野犬駆除の歴史について明治にまで遡って細かく語る辺りなんか如何にも押井作品のパターン(笑)ちなみに、本作に登場する犬走一直は押井監督が脚本を担当した『機動警察パトレイバー』TV版に登場したテロリストの名前でもあります。また、大塚署長や野犬捕獲隊の服装やリアクションが妙にナチスじみてるのはパトレイバー新OVA版の押井脚本の怪作『火の七日間』を思わせ、野草が生い茂りカモメの声が響く埋立地の荒野という構図も、これまたパトレイバーの特車2課の庁舎がある埋立地や、劇場版パトレイバー2におけるカモメの群れる埋立地を彷彿とさせるものがあります。
 物語自体は場面が進むにつれてじわじわと重くなっていきますが、押井監督曰く宝塚歌劇をイメージしたという歌とダンスを織り交ぜた演出でテンポ良く展開していきます。敷島博士の掲げる正義と犬走の説く野良犬の思想の狭間で翻弄される正太郎の姿を、敷島&正太郎の"正義の歌"と犬走の"野良犬の歌"のおかしなアンサンブルで巧妙に描いていたのが印象的。また、犬走を演じるダイヤモンドユカイと大塚署長を演じるサンプラザ中野くんの歌は流石に本職だけあってお見事。大塚署長は哲学的な作品世界を和ませるコミカルキャラとなっており、序盤で何故かM20スカウトカーじみたミニ装甲車に乗って砲塔を振り回しながら登場し、得意の美声で歌を披露したかと思えば捕獲隊の面々との絶妙な間を利かせたやりとりは笑いを堪えるのが辛かったです(爆)なお、音楽は押井作品には欠かせない川井憲次が担当。内容がどんなに哲学的で難解でも、この人の音楽だけで否応なしに盛り上がってしまいますね(笑)
 本作で金田正太郎を演じたのは女優・南果歩。10代の少年を四十路も半ばのベテラン女優が演じるというのに最初ちょっと違和感がありましたが、実際に見てみるとちゃんと少年の演技になっていて、しかも父親代わりである敷島博士に恋愛感情にも似た憧憬を抱き、最後に真っ赤なコートを纏って女性と見紛う姿で登場するという流れは、まるで正太郎が実は男装の麗人だったのではとさえ思わせるほど。それもまた押井監督の巧妙な仕掛けだったと実感。
 あと、押井作品でどうしても管理人が気になってしまうのが銃器描写。本作でも人狼党がAK、機動隊がショットガン、正太郎がワルサーPPKらしき拳銃を使用していましたが、正太郎の拳銃の持ち方が様になっていたように思えるのはやはり銃器描写にこだわりを持つ押井監督の演出の賜物でしょうか。

 本作の呼び物の一つが全長7mの"鉄人"の舞台セット。RPG『ウィザードリィ』シリーズのビジュアルデザイン等で知られるイラストレーターの末弥純がデザインを担当し、原作のイメージを残しつつ西洋の鎧騎士あるいはOVA版ジャイアントロボを思わせるマッシブな姿に仕上がっています。なお、これの雛形モデルは商品化が検討されているとのこと。最初から最後まで舞台の中央に鎮座し、照明のコントラストの妙で時に赤錆びた過去の遺物、時に研究所で静かに出撃の時を待つ巨人としての姿を強く印象付けていました。


 残念ながら今回が最初で最後の観劇となってしまった舞台版鉄人28号。しかし、管理人的にはもし本作の原案となった企画が押井監督により劇場アニメ化されていたらどんな作品になっていただろうとふと考えてしまいます。





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Last updated  2010.01.01 14:33:12
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