■「ゴッドファーザーPART2」の冒頭、イタリア移民が、移民船の中から、はじめて自由の女神を見るシーンがある。どれもこれもゴツゴツした顔のイタリア移民が、夢と希望と不安をもって見つめるアメリカの象徴。しかし、その後の彼らの苦難を思うと、彼らにとってアメリカとは何だったのかと問いかけざるを得ない。公開当時、「このシーンを観て泣かないイタリア系アメリカ人はいない」と言われた名シーンだ。
■このシーンはその後、様々な映画にとりいれられる。崔洋一の「血と骨」でも韓国人が船の中からはじめて大阪の工場地帯を見るシーンが冒頭とラストに描かれる。この映画を印象深くするこちらも名シーンである。
この映画、ビートたけし、鈴木京香、濱田マリ、オダギリジョーといった曲者を使って、骨太の物語を力強く描いた佳作である。ビートたけしは相変らず演技は下手だが、存在感を示している。
私はこの映画を観て興味を持ったので、原作の「血と骨」を読んだのだ。
■あまりにもベストセラーになったので敬遠していた小説である。今なら、ブックオフで100円で手に入れられる^^
この小説、評価として、称賛と批判が相半ばするものだったと記憶するが、どちらもよく分かる。
批判の方を先に言えば、視点が定まっていないので、印象が散漫になる。全体を貫く、かっきりした姿勢がない。素人が書いた小説という感じだ。
ただ、これがきちんと書けていれば、中上健二の「枯木灘」にも比肩しうる名作になったと思われる。それぐらいすごい小説になった可能性がある。
■梁石日の自伝的要素を持つらしいこの小説。父親が主人公、金俊平のモデルになった。
この金俊平という男の造形が凄まじい。容貌魁偉、巨漢で凶暴、しかも計算高く、吝嗇で卑小。欲望のままに人は殴る、脅す、女は犯す。極道にも恐れられる。そうかと思えば、金に細かく、日本人には卑屈になる。妻子にも気を許さない。
ナイフで刺されても死なない。素手で焼けた炭を持つ。気味の悪い健康料理を自分でつくる。桜の木で作った棍棒は50年近く持ち続ける。革の上着もおなじぐらい着続けている。
これは神話の人物である。棍棒や革の上着はその神話性を高めるツールであろう。
■私はフォークナーの「アブサロム、アブサロム!」に登場するトマス・サトペンを連想した。
トマス・サトペンは、黒人奴隷を素手で叩きのめす強靭な身体の持ち主。成り上がって自分の王国を築き、最後は自分を神と崇める黒人奴隷に殺される。(その奴隷はすぐに自殺して、幽霊となってまでサトペンに仕える!)
中上健二が「枯木灘」を書くきっかけとなった小説であり、トマス・サトペンは、”蝿の王”浜村龍造の造形のヒントになったと思われる。
■金俊平も明らかにこの系譜に連なる人物である。
しかも、彼は、後半、脳溢血を患い、自分で便所にもいけない人物となってしまう。抑圧していた後妻には例の棍棒で殴られて骨折する始末。幼い子供たちにも「はよ死ね」と蹴られる。
この極端な身体性の崩壊が、金俊平をより神話的な人物にしている。
この展開は、トマス・サトペンにも、浜村龍造にもなかった。
■大阪の朝鮮人社会の社会的背景などもいろいろ書き込まれているので、そちらに興味を覚える人もいるかも知れないが、私は、神話的物語として読んだ。
ちなみに、金俊平は最後に北朝鮮に渡る。その他多くの登場人物は、消息不明となる。
面白い小説だった。
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