「私は怒っている」大江健三郎


 小泉首相が準備しているイラクへの日本兵派遣は、核兵器とテロによる脅威と闘うた めの最良の方法ではない。


 私は怒る老人である。
 というのも、私は私の国の現在の状況に責任を感じているからだ。
 大変残念に思うその状況とは、小泉首相が再選し、イラクへ日本兵を派遣する準備を していること。多くのジャーナリストが、小泉首相を問いただすが、いつも曖昧な答 えしか返ってこない。イラク攻撃当初から、首相(日本の)はアメリカ大統領ジョー ジ・ブッシュに同調しているように思える。「戦争は正義のため」と彼は言う。フラ ンス・ドイツは、対立のポジションを取った。それに引き替え日本はどうだ。イラク の現状がどうであろうと、日本は前もって自己のポジションと決意を指図されていた ように思える。それは避けられないことだった:日本はイラクに兵士を派遣する!事 実、それは戦争の始めから見えていた。小泉首相は日本が≪ブッシュ大統領に同意す る≫≪無条件で≫を決めた、ラムズフェルド国防長官の秘書が来日した時、小泉首相 はイラクへ兵士を派遣すると繰り返した。その証拠に日本はアメリカの安全保障政策 に服従させられている。私の国は従っている。だから、私は怒っている。だから、私 は怒り続ける。


 イラクへの兵士派遣は、特別な決意だ。イギリスを除く世界中、大多数の国が戦争反対を表明している。ほとんどがこの戦争の状況に反対していた。日本の首相は、この 点で責任感が唯一欠けたただひとりである。彼は完全にアメリカの政策に賛成している。ほとんどのジャーナリストや知識人はそれに反論できない。


 先日の選挙の時、この政策に敵対する左翼が議席を大半失った。なぜか?日本にはもはや批判力がないからだ。首相は自由だ。何でも出来る。彼が決してブッシュ大統領を批判しないので、ブッシュは日本が聞き入れているようにふるまえる。


 第二次世界大戦以来、50年以上の間、日本は決してそれほど従順ではなかった。私の友人、エドワード・W・サイードが『文化と帝国主義』の中で書いたこと、それは 「政治的、国際関係の観点でアメリカに支配されている国・国民がいるのであれば、それはまさしく日本であり、日本国民である」


 幼少の頃、10才まで第二次世界大戦の戦渦の中育った。私は日本の超国家主義を体験している。戦後、民主主義と民主思想がアメリカのものである最良の民主主義によって日本に持ち込まれた。そして、今度は日本が、憲法と教育の基本的な法律を持つ民主国家となった。以来、日本人は映画や音楽などのアメリカ文化に影響された。そのことで悪影響は何もない。日本人は、日本人であることを失わなかった。


 けれども、その前に日本の文学はまず初めにヨーロッパに大変影響を受けていたと私はいいたい。私の師、ワタナベカズオは日本でラブレー(1494?-1553物語作家)および≪フランス人文主義(16世紀フランスにおいて古典文学の研究を通して、人間の尊厳と自由を主張した作家たちの運動)≫の専門家であった。日本に≪トレランス=寛容≫という言葉を流行らせたのは彼である。彼は≪新しい日本人≫が寛容であることを欲した。もうひとりの知識人、マルヤママサオは、アジアの元侵略国で、帝国主義だった後の新しい日本とは何であるかを自問した。彼は日本のために≪悔悟(罪を悔いる)の共有≫を創った。当時、マルヤママサオはこの侵略戦争に反対していた。


 ノーベル文学賞(1994年の)を受賞した時、スウェーデンの委員会が言った。私は≪ 悪魔をはらうため≫に書いたのだと。全くその通りだと受け止める。作家はまるで悪魔払いをするアフリカの隠者(聖者)のようだ。私は書き続けたい、隠者のように祈り続けたい…無力だが。もしも私たちに反する行動をする悪魔がいるとしたら、それは暴力以外の何者でもない。2つの巨大な暴力が今日存在する:それは、核兵器と国際テロリズムだ。


 私たちはいつか核兵器を取り除くことに成功しなければ。少なくともあと30数年内に。核兵器はもはや世界において、それを所持する国による≪暴力の手段≫としてしか存在しえないし、それ以外の理由もない。だからこそ、昨日のイラク、明日のイラン、北朝鮮が核兵器を所持することを黙認できない。しかしながら、慎重にしなければならない。イラクは核兵器という切迫したやり方を備える手段があるのか?ジョージ・W・ブッシュ自身、そうではないと知っている。


 国際テロリズムと戦わなければならない。主要首都、パリ、ニューヨーク、東京などはテロリズムに傷つきやすい、あの9.11のように。今日、今度は東京をテロリストの攻撃の標的から避けなければならない。


 イラクでの日本の役割は何をすべきか?まず初めにイラク国民に食料と薬を援助すること、子どもたちをアシストすべきだ。日本はまだ金銭的援助を増やせる。ジョージ ・W・ブッシュがイラクにもたらそうと決意した戦争は、失敗だった。二度とこのような種の戦争に加担すべきでない。よって、日本はイラクに兵士を派遣すべきでない。もし、自衛隊のメンバーを派遣することを急げば、日本がテロリスト攻撃の標的になる危険性は深刻になる。日本の首相のするべき使命は、そうなることを避けることだ。


 小泉首相は、イラクに日本の兵隊を派遣することがテロと闘うことだと思っている。 彼は間違っている。それはアメリカの役割であり管轄だ。小泉首相は反対に反論の姿勢をとるべきだ。そして、イラクに行なうべきことは、一途に人道的援助それだけである。

(仮訳 マエダ/CHANCE!福岡)
仏の新聞『リベラシオン』( http://www.liberation.fr/ )


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