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2026.10.13
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ロスジェネ脱線学 #51 詰め替え用だけ三つある昼過ぎ
昼過ぎ、洗面台の下を開けた。
奥から袋をひとつ取り出した。
その後ろに、もうひとつあった。
さらに横から、もうひとつ出てきた。
三つある。
私はしばらく、詰め替え用の袋を見ていた。
買った記憶はある。
安かったから買った。
たしかに買った。
問題は、それを二回か三回やっていることだ。
五十代になると、「家にあったかどうか」の記憶がかなり曖昧になる。
ない気がする。
あった気もする。
でも、なかったら困る。
この「困る」が強い。
若い頃なら、なくなったら買えばいいと思っていた。
今は違う。
値段を見てから、少し考える。
昨日より高い気がする。
先月はもう少し安かった気がする。
気がする、ばかりである。
昭和の頃、詰め替えというものは今ほど多くなかった気がする。
ボトルを買って、なくなったらまた買う。
平成になって、詰め替え用が当たり前になった。
令和では、環境にも財布にもやさしい顔をして、棚の中で増えている。
やさしいものほど、場所を取る。
洗面台の下には、ハンドソープだけではなかった。
シャンプーの詰め替え。
洗剤の詰め替え。
いつ買ったかわからない掃除シート。
生活の予備軍が、静かに待機している。
昔、FAX修理の現場でも予備部品は大事だった。
ないと困る。
あれば安心する。
ただし、持ちすぎると工具箱が重くなる。
家の中も同じなのかもしれない。
安心を買ったつもりが、少しずつ場所を狭くしている。
私は三つの詰め替え用を、手前に並べた。
こうすれば、次は忘れない。
そう思った瞬間、自分でも少し怪しいと思った。
次の私は、また同じことを言う気がする。
それでも今日は、ひとつだけ本体に入れた。
袋を切る。
ゆっくり注ぐ。
最後の方で少しこぼす。
そこまでが、だいたいセットである。
手についたハンドソープの匂いを嗅ぎながら、まあいいかと思う。
少なくとも、しばらく手は洗える。
人生も、足りない不安で少し多めに抱えることがある。
物も、言葉も、心配も。
全部が無駄ではない。
でも、全部を覚えていられるほど、こちらの棚は広くない。
洗面台の下を閉める。
中にはまだ二つ残っている。
忘れないようにしよう。
そう思ったことだけは、たぶん忘れる。





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最終更新日  2026.10.13 05:35:56 コメントを書く


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